目印
「最果て」と名付けられた終着駅に着いた。
ここから先は歩くしかなく、私は防寒着に身をかためる。
この列車に乗った時には満員だった乗客も、今では私1人だけとなっている。
しかし寂しくなどない。
今から足を踏み入れる地に思いを馳せると、年甲斐もなく興奮し、心が震えた。
無人の改札を通り抜け、降り立ったそこは最果ての名に相応しい氷に閉ざされた場所。
喉を焼き尽くすほど凍てついた空気を吸い込んで吐き出すと、息に含まれた水分が即座に凍結して、キラキラと輝きながら風に流されていく。
「美しい……」
思わず声に出してつぶやいた。
列車で知り合ったお婆さんは、もっと暖かくて果物の栽培が盛んな場所で降りた。
まだ幼い姉弟は、暑くてもカラリとした気候で陽気な人が多い街の知り合いを訪ねて降りた。
故郷では軍人をしていたという青年は、最近キナ臭くなってきた国の国境に入ってから意気揚々と降りていった。
列車にはこれからの行き先が示してあり、乗客はどこへでも好きな場所に降りられるのだ。
私が乗り込んだターミナル駅には、この列車の他にたくさんの行き先へと向かう列車が集まり、人々が自分の行く先を見つけ、それぞれの列車に乗り込み旅立って行く光景を見て、ここは様々な人の人生の分岐点なのだと感じた。
「最果て」駅からどれほど歩いただろうか……
氷の中に半分埋まった「何か」を見つけた。
それが何なのか、私が一番よく知っている。
以前ここまで来た証拠として、私が目印に残しておいた荷物なのだから。
さあ、私にとって本当のスタート地点はここからだ。
目指すはあの人類未踏の山の頂きしかない!
目印として置き去りにしたこの荷物、私が生きていた時の体のためにも完全踏破を成し遂げなければ。




