しつこい若造
玄関を叩き、また誰か訪ねてきやがった。
急に日本中の土地やら株やらの値段が上がり、金、金と騒ぎ立てるようになりやがってから、このオンボロ長屋にまでくるヤツなんざ、どいつもこいつもロクなヤツじゃねえ。
「ガタガタうるせいやい! どこの誰でい?」
戸を開けると、おととい追い返してやったばかりの若造が、また、ご丁寧にまったく同じパリッとした服を着て立ってやがった。
「またてめえか、用なんざねえ! さっさと帰えりやがれ!」
「またって……ボクは今日初めてうかがったのですが」
「とぼけんじゃねえ、どうせまたこの土地を売れってえ言うんだろうが!」
「どうして分かったんです? そうです。ぜひボクにこの土地を売っていただきたいのです」
「それはこのあいだキッパリ断っただろうが! ウチは先祖代々この場所で暮らしてんだ。
てめえみたいなどこの馬の骨とも分からねえ若造にくれてやるわけにはいかねえってな!」
「もちろんこの土地があなたにとって大切なのは分かっています。
しかし、このままではこの土地は大手企業によって買収され、うむを言わさず強制的に立ち退きさせられることになるんですよ」
「それもこないだ聞いた。何かい? 日本中が土地だ土地だって騒いでいやがるが、これはバブルだかバルブだか知らねえが、もうすぐ破たんして、大手に買われたこの土地は手付かずのまんま更地が残るだけで、ワシたちここを追い出されたもんは、そのあと、てえへんな苦労をするって話だろ」
「そうです。よく御存じですね。そしてそれを避けるためには、この土地に古くから暮らし、住民のみなさんから厚い信頼を得て船頭役となっておられるあなたを、まっ先に説得してボクが土地を買い取って、法的に大手企業が手を出せないようにしておくのです。
そしてバブルが破たんした後に、価格が急落するこの土地を改めてあなた方にお返しすることで、あんな苦労を負われることは無くなるんです」
「そいつが分からねえって言ってんだ! 妙なことばかり言いやがって。先のことの何が分かるってんだ? 大体、ワシらを助けるみてえなこと言いやがるのが気に入らねえ。何の目的だ?
それとも何か? おとといみてえにおめえは実はワシの孫のひ孫で、ワシが死ぬまでこの土地が取られたって悔しがっていたのを何とかしてえから、タイマモシーンとかいうやつに乗ってやって来たとでも言うのかい?」
「驚きました、まったくその通りです。ボクのひいおじいさんは、おじいさん、つまりあなたが土地のことを嘆いていたことをいつも気にやんでいました。もしあの時代に戻ることができたら何とかできたんじゃないか……と。
そしてボクの代になってやっとその願いが叶えられるようになったんです。ボクの時代には純金が人工的に作れるようになり、今の時代からすれば莫大な価値となる純金を持って来ています。これであなたが土地を奪われることはなくなるんですよ」
この若造の頭が完全にイカレてることはよーく分かった。
妄想はなはだしいとはこのことだ。
世の中が金に浮かれてやがるから、中にはこんなことを言い出すやからも出てくんだろう。
こんなやつなんぞ相手にしてられるかってんだ。
どうせ今日もまた大手建築会社のバッジをチラつかせたイヤミなヤロウが来やがるってのに、胸くそ悪りぃ。
「さ! もう話すことなんて何もねえ! さっさと帰えった帰えった!」
胸ぐらをひっ掴んでおもてにおん出してやる。
「せめてお話を聞いてもらえる都合のいい日を教えてください!」
まったく、しつけえ若造だ。
「やかましい! おととい来やがれ!」
「あ、はい。分かりました!」
ニッコリ笑いやがるたあ、いってえどういう了見でい!




