トライリンガルにはなれないわ
親友の美優が1週間出張に出かける間、飼ってる猫を預かることになった。
あたしは実家にいた頃から飼ってたし、猫はお手のものだと太鼓判をおして、お土産をよろしくって笑って送り出したのだ。
この子の名前はアンカ。
“湯たんぽよりいいでしょ”って感覚は、正直理解できない。
フツー借りて来た猫っていえばおとなしいはずだけど、アンカは初日からあたしのネイルアートの道具をメッチャクチャにしてくれた……もっサイアク!
お土産だけじゃ足りないわ! 美優に写メ撮って送ってやったら、帰ったらおごるって返ってきた。
ちょっとくらいのおごりじゃ済まさないんだから。
それより困ったことにアンカったら、ぜんぜんあたしの言うこと聞いてくれないの。
どーして? そりゃ猫は気まぐれなのがいいとこだし、飼い主じゃないのも分かるけど、ちょっとくらい聞いてくれてもいいじゃない。
仕事が終わってから美優に電話すると、“あ”っと言って間があいた。
なんなの?
“ちょっと恥ずかしいんだけど……”
そう言って美優が教えてくれのは、1人で部屋にいるとき、つまりアンカと2人っきりのときは、いつも実家の鹿児島弁で話しかけていたっていうのだ。
あ~、あたしの言うことを聞かないんじゃなくって、言葉が違うからとまどっていたってことね。
仕方なくあたしは美優からいくつか言葉を教えてもらった。
初めは照れもあり、発音の違いもあったけど、アンカもあたしの言うことを理解してくれるようになった……。
お土産の新鮮な毛ガニを2杯持って帰ってきた美優のおごりで少し高めの居酒屋(ま、こんなもんね)で飲んでいると、いつもより酔った美優が鹿児島弁まじりで話し始める。
この1週間、美優のほうが出張先で借りて来た猫状態だったようだ。
だけど大体の意味はわかるようになっていた。
“あたしのおかげでおはんはバイリンガルになったほいならんの”
なに言ってんの。あたしの鹿児島弁はアンカに鍛えられたのよ。
“そやあたしがあんたにアンカを預けたからでしょ~!! あっはっはっは!!”
ああ、もう!
猫には言葉が通じても、大トラにはどうしようもないわね。




