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料理ベタ

 周りの全員に反対されながらもオープンにこぎつけたおれの店には、今日も誰一人客が来ない。


 おれは生まれてから、どんな店の料理にも満足したことはなかった。

 唯一美味いと思ったのは自分で作った料理だけだ。

 だからおれは、おれが本当に美味いと思った料理をみんなに食べてもらおうとこの店を開いたんだ。

 が! オープン初日に何人か来てくれただけで、それっきり人っ子一人近づかなくなった。


 わーっはっはっは!


 ……笑いごとじゃない……。

 やっぱりみんなが言っていたとおり、おれの舌が間違ってたのだろうか?


 金持ちの紳士風のお客がやってきたのは、オープンしてからはや閉店を考えていた1か月目のことだ。

 お勧めを、と紳士が言ったので、いちばん得意な温野菜のソテーのパスタと魚介スープのセットを出したが、どうせまた、ひとくち食ってしかめ面をするんだろうな……。


 だが、その紳士は予想外の声をあげた。

「う、うまい! 素晴らしい! まさに私たちの探し求めていた最高の料理です」

「探し求めて?」

「実は、私は普通の人たちとは味覚が逆になっていまして、一般に美味しければ美味しいほどマズく、マズければマズイほど美味しく感じられるのです。ですが私は社会的に地位があるため、招待される食事は常にマズいものばかり。

 そこで、本当にうまい料理を求めてあちこちたずねているのですが、これほど美味いものは初めてです!

 これから私と同じ味覚の仲間を呼びますので、是非ともごちそうしてやってはいただけませんか? お金はいくらでも払います!」

「え、ま、まあ、こんなのでよければ……」


 紳士の言葉どおり、1人や2人ではなく、十数人もやって来て誰もがおれの料理を絶賛した。

 それは、おれの料理が間違いなくマズイと言うことだが、あまりに誉めてくれるので、複雑な心境だった。

 その後、相変わらず普通の味覚の者はやってこなかったが、彼らのおかげで店は繁盛し生活も安定した。


 やがておれは常連の女性と結婚した。

 優しくて一緒に店を盛り立ててくれる彼女は両親に好かれ、友人からも羨ましがられている。

 そんな彼女には、たった1つだけ欠点がある。


 おれにとって彼女はヒドイ料理ベタなのだ。

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