幸せのシッポ
家に帰ってから食事もしないでふて寝して、気がついたらもう夜中だった。
7年付き合ったアイツと別れたことなんて、大したことないはずなのに、どうしてこんなに気が滅入るんだろう?
おたがい納得して別れたはずなのに。
7年か。
私の人生の約3分の1近くをアイツ……フミオと一緒にいたわけだ。
私、何やってたんだろう?
ううん、アイツは悪くない。そして、私も悪くない。
ただ、あまりに近くにいすぎて、逆にうとましくなったっていうか……。
結婚も考えたこともあったけど……結局こんなことに……。
こんな時間だけど、明日は休みだから1本くらい、いいよね?
暗闇に慣れた目に冷蔵庫の明かりがまぶしい。
缶ビールを取り出して扉を閉めると、部屋はまた、まっ暗になった。
手探りでイスに座ってプルタブをあけ、ゴクリとのどの奥へ送り込んだけど……ちっともおいしくない。
ふ~~~。
テーブルに突っ伏しているうちに、また眠っていたらしい。
何かの気配がしてぼんやりまぶたを開くと、テーブルの上を立って歩く小さな白いものがいた。
イタチ? オコジョ?
よく分からないけど、そんな感じ。
だけど、動物っぽいシッポがないから妖精なのかもしれない。
ううん。よく見るとあるかないか分からないほどの、小さな小さなシッポがある。
「えい!」
勢いでシッポをキュッとつかむと、妖精(?)は「きゃああ!!」と叫び声をあげて飛び上がった。
「あ、ごめん。驚いた?」
妖精は必死でコクコクうなずいてる。
「ねえ、あんた何? 何してるの」
「ぼくはエフィ。幸せを持ち運びしてるところさ」
「ふーん、そうなんだ。
だったらねえ、私の幸せってどこにあるの?」
「きみの幸せなら、今からぼくがよそに持って行くところだよ」
そう言ってエフィは、ほんのり温かそうに赤く光るカケラを出して見せてくれる。
「何ですって!? そんなことさせるもんですか。置いていきなさい!!」
「自分で捨てたくせに。ダメだよ、そんなの」
「捨ててなんかないわよ! 置いていかないんだったら、このままビンの中にでも閉じ込めるわよ!」
「やめて! 離してくれたらこの幸せは置いていくよ」
「ホントに? だったら離してあげてもいいわ」
「良かった。だけど、もうその幸せは離さないでね」
「あんたの小さいシッポがつかめて、せっかくのわたしの幸せが離せるわけないでしょ」
「だったら安心だね。それじゃ!」
言うが早いか、エフィは “ポンッ!” と消えた。
翌日、昼過ぎまで寝てた私は何となく昨日の夢を思い出した。
……酔ってたせいね。変な夢見た。
起き上がると、本棚の隅に置いてあるものが目に入った。
あっ……これか。
彼からもらったオコジョの妖精みたいな白いぬいぐるみ。
昨夜の妖精の夢はこれを思い出したからだろう。
ほんのちょっとしかないシッポまでそのままだわ。
夢みたいにシッポをキュッとつかんでも、叫び声なんて出さない……当たり前か。
エフィって言ってたわね。
エフィ……。
なんだ、そうか。
思い出すと涙があふれてきた。
“FE”
フミオのイニシャルじゃないの。
携帯が鳴ったので、ぬいぐるみを置いて相手を見ると……フミオからだ。
ちらっとぬいぐるみを見てから着信を押す。
今さら何の話なのか……まだ、分からない。
だけど、もしこれが小さな小さなシッポなら……。




