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うまいとこだけ持っていく

 イタリアの裏社会で長年にわたって君臨したワシも、とうとう寿命には勝てなかったか。


「オットリーノ。ファミリーのことはお前に任せる」


「分かってますボス。あとのことは任せてゆっくり養生してください」


 ワシの後釜を狙う野郎ばかりの中で、少なくともオットリーノだけはワシを気遣いやがる。

 それがコイツの作戦かも知れねえが、この歳になると言葉だけでも助けられるってもんよ。


「マルチェロの野郎はお前が後釜に就くのは気に入らねえだろうが、先にベルナルドと組んじまったら何も言えねえ。

 その上でフェルッチオに脅しかけてやんな」


「ご助言、ありがたくお受けします」


「それと最後にこのワシ、アッティリオ・ファミリーの隠し財産についてだが……」


 言いかけると、オットリーノは息をのんでワシに顔を近づける。


「マルケ州アスコリ・ピチェーノ県のルドルフォ……ゴホ、ゲホ、ゲホ、ゴホオオオオエ!」


 伝えなければならない最後の言葉を口にした時、ワシは強い発作に襲われ、そのまま死んでしまった。






 まったく、どいつもこいつもロクな野郎がいねえ!


 マルチェロは予想どおりオットリーノの首を狙って画策を始めやがるし、フェルッチオは独自にワシと敵対していたライモンド・ファミリーと手を組みやがった。


 こうならないために後釜に選び、注意をうながしたオットリーノは、ワシから財産のありかを聞きそびれたと、組織を放ったらかしたまま葬儀にも来ずにルドルフォを尋ねて行きやがった。


 もうワシが一代で築き上げたアッティリオ・ファミリーは土台から崩れるしかねえ。


「残念だなあ、おい」


 声のしたほうを見ると、ソバカスだらけのガキが空に浮かんで、このワシを見おろしてやがる。


「なんだ貴様は?」


「なんだって何だよ。せっかく迎えに来てやったっていうのに」


「迎えにだと?」


「そうさ。おっと見た目で判断されちゃ困るぜ。

 こう見えてもあんたより20倍は長く生きてるんだ」


 ガキはくるっと一回転して、背中から灰色の翼を広げて見せた。


「ガキの天使か? それにしては神々しさがないな」


「言ってくれるぜ。だが当たってる。

 おれの名はルチャーナ。あんたを天国か地獄のどちらかに案内するために来たんだ」


「どちらかだと? だったらさっさと天国に案内しろ。このガキめ」


「いちいちガキって言うな。おれはルチャーナって言ったろ?

 性別なんてないが、いちおう女なんだぜ」


「知ったことか」


「ムカつくなあ。地獄に案内してやろうか」


「だったら貴様になど案内は頼まん。自分の力で天国へ行ってやる」


「おあいにくだけど、おれに案内される以外に天国へも地獄へも行けないぜ。

 この世に残ってせいぜい悔しい思いをしておけ。

 ……と言いたいところだが、あんたツイてる。

 どう考えても地獄しかないあんただが、あんたがこの世に残した金次第で、天国の裏口からこっそり入れてやれるって話だ。

 乗ってみるかい?」


「ふむ……」


 ルチャーナから詳しい話を聞くと、ワシの隠し財産をつかって人を幸福にすることで、善行がほんの少し悪行を上回るため、裏口から天国へ入場可能となるというのだ。


 もちろん表向きには知られていないし、知られてもいけない。

 だからルチャーナのように灰色の翼を持つ天使(悪魔?)が迎えにくると言う。


「のんびり考えてるヒマはないぜ。

 あんたが“Bene!”と言う前にオットリーノが財産を手にしてしまえば、この話は無かったことになるんだ」


「うむむ。今さらそいつは許せねえ。

 だが、貴様に財産を渡したからといって、本当に天国に行けるかどうかの保証はないんだろ」


「だったら好きにしな。

 もともとおれはあんたの財産なんて興味ないんだ」


 ルチャーナはどこかに行こうとする。


「待て! いいだろう、信用しよう。

 ワシの財産はルドルフォの行きつけのバーの向かいにあるボッティチェリを模した壁の中に、旧式のマイクロフィルムが埋めてあり、地図が写っている。

 掘る位置はX○○○inc,Y○○○incだ」


「めんどくせえな。ハッキリこの場所って言えないのか? まあいい見てやる……ああ、あった。

 だとすると……ふん、面白くない。ちゃんとありやがんの。

 よし。確かに受け取ったぜ。あんたを天国に案内してやる」


 ワシは手を引かれ、どんどん空に昇って行った。




 どれほどの高さまで来たのだろうか、ワシは目がくらむほどまばゆい光の中にたたずんでいた。


「着いたぜ。あとはせいぜい楽しく暮らしな」


 言い残してルチャーナはどこかへと立ち去った。


 だが、いつまでたってもまぶしさは衰えず、目も慣れない。

 堅く目をつぶってもまぶたを通して光が襲いかかってくる。


「た、助けてくれ!」


 眠ることも休むこともできず、光に苦しみ続けるワシのもとへ、どこかで聞いた声がした。


「残念だなあ、おい。

 せっかく天国に来ても、肌が合わなかったか」


「こんなところはコリゴリだ。地獄でもなんでもいいからワシをここから連れ出してくれ!」


「まったく。さっさと来な!」


 ワシはまた手を引かれ、今度はどんどん下って行った……。




「金はもらっちまったから、地獄には連れて行けないんだ」


 生まれたばかりのワシの顔をルチャーナがのぞき込む。


「さっそく親から捨てられちまったけど、ここは教会の前だから神父が拾って育ててくれるさ。

 なんせ、あんたの隠し財産で造られた教会だ。拾わないとバチが当たるってもんだ。

 ま、あんたはいつも“この世は天国だ”って言ってたんだから文句はないだろう?」


 ワシがワシであった頃の記憶が徐々に薄れてゆく……。


 だが、この教会の名が『聖ルチアナ教会』なのだけは、どうしても納得がいかねえ……。

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