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注射器

 チクッと刺された瞬間に顔をしかめられ、顔を背けられたりするオレたち注射器。


 病気の治療には必要な道具であり日々頑張っている割には、患者からあまり感謝されることはない。


 いや、入れる薬によっては大喜び(?)で使ってくれる人間もいるが、それは感謝とはとても言えない。


 そんな注射器事情の中で、かつてない細さの注射針が日本で開発され、ほとんど痛みを与えることが無くなったことと、体に張り付けるテープ型の薬剤浸透方法が開発されたというニュースが流れた。



「オレたちの出番が減るのかな」

「そんなことないさ。オレたちは健康と切っても切り離せない関係、いや、刺しても抜けきらない関係なんだ」


 1本の注射器のつぶやきに、他の注射器が答える。


「安心ばかりはしていられないぜ。医療は日進月歩だ。テープ型なんてやつが現れたからには、次にもっと凄いやつが出てくるかも知れないぞ」

「オレたちもいつか忘れられるって言うのか」


「何か新しい使い方が見つからない限りそれもあり得るな」

「オレはそんな日が来ないことを祈りたいよ。例え嫌われていても、これまで健康を守り続けてきたという誇りが失われてしまう」





 数年後。


 医療現場はより進んだ浸透式や鼻の粘膜から直接効能を与えるもの、ナノテクにより患部まで自動で移動し薬剤を散布する副作用が極めて少ない錠剤などの開発で治療が一変した。


 しかし、注射器が絶滅したわけではない。

 長い年月をかけて築き上げられた信頼はそう簡単に失われるわけではなく、アナログと言われながらも今日も頑張っている。



「先生、次の患者さんはお子さんで、注射が苦手らしいです」

「そうか。だったら私がやろう」


「お願いします。先生の注射は神業ですから」


「はい、大丈夫。痛くない痛くない……ホラ、痛くなかったろう」

「ホントだ! ぜんぜん痛くなかったよ!」


「ははは、じゃあお大事に」



(ふう、やっぱり注射をプスッと刺すのはいいなあ。こう、プスッとプスっと)


「先生、何をされてるんですか?」


「ああ、いや、何でもない。次の患者さんを呼んで」

「はーい。次の方!」


「先生、どうでしょう?」

「うーん。注射しておきましょうか。大丈夫ですよ、私の注射は子供でも痛がらないんですから」



 少なくとも、この医院だけはいつまでも現役で頑張ってくれそうだ。

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