表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
128/200

メッセージ

 ねえ、今日がなんの日が覚えてる?


 黙ってないでなにか言ってよ。


 今日は私たちが初めて出会った記念日なのよ。


 そして、最後に会った日でもある。



 ほら、街はイルミネーションできれいだよ。

 通りすぎる人たちも、みんな幸せそうだよ。


 あなたが私に言った最後の言葉は「これからもずっとこの日は一緒にいよう」だった。


 あれからもう1年が経つのに、あなたはずっと、携帯の中でほほえんでるだけ。


 あの時、あなたが差し出した指輪を受け取っていれば、こんなことにならなかったかも知れない。


 あの時、素直にあなたの胸に飛び込んでいれば、こんなことにならなかったかも知れない。


 私と別れたあと、あなたは駅のホームから足を踏み外した女の人を助けようと伸ばした腕をつかまれて一緒に転落したことを知ったのは、次の日の昼前だった。


 それなのに私、あなたの携帯に連絡くれないことにメールでいっぱい文句を入れてたなんて。


 その時にはもう、あなたがいなくなってるなんて、考えもしなかった。




 あなたと、助けようとした見ず知らずの女の人について、心ないこと言う人もたくさんいたよ。


 だけど私はなにを言われても平気だった。

 だって、あなたのことは私がいちばん知ってたもの。


 事件が解明されてからは、人を助けようとして自分も巻き込まれた勇敢な人だって、みんなわかってくれたけど、あの日からあなたの温もりが永遠に消えてしまったことに変わりない。



 あなたが落ちた場所には、小さな献花台が作られていくつもの花が供えられている。


 今日は1年目にあたるから思い出す人もたくさんいるらしく、通りすがりの人たちも手を合わせてくれる。


 ……あなたがとった行動は決して無駄じゃない。

 ……アなたがトッた行動ハ無謀なことジャなイ。

 ……アナタガトッタ行動ハ勇気アルコトナンダ。


 だけど、どんななぐさめも賛辞も、私には薄っぺらで無機質な音の羅列にしか聞こえなかった。


 いっそ、あなたが落ちた同じ場所から……



「なにをしているんだ!」


 グイッと腕をつかまれて我に返った私は、ホームの端からあと数歩のところまで近づいていた。


 相手の顔を見た私は、言葉を失った。


「あなた……」


 忘れるはずがない。

 この顔、この声。


 でもそう見えたのは一瞬で、そこには会ったことのない男の人がいた。




「す、すみません。ボーっとしていて」

「なにかに取り憑かれたように、歩いていかれたのでびっくりしましたよ」

「ほんとうにすみません。もう大丈夫です」


 ベンチに座って呼吸を整えていると、私を止めてくれた人が隣に座った。


「間違っていたらすいません。亡くなった男性の家族の方ですか?」

「あの、失礼ですが?」


「ボクは、女性のほうの恋人でした」

「……私たちは結婚するつもりだったんです」



「彼女は体が弱くて、たまたま通りかかったあなたの彼氏を…」


 この人を責めても仕方ないのは……わかってるけど。


「こんなことを言うと気を悪くされるかも知れませんが、さっきあなたがホームの端に向かって歩いていかれた時、ボクにはあなたの姿が彼女そっくりに見えたんです」


 それじゃあ、私にこの人があなたそっくりに見えたのは……。


「私も、腕をつかまれた時、あなたのことが彼そっくりに見えました」



 私たちはそれ以上なにも言わず、どちらともなく頭を下げて別れた。


 ……亡くなった2人は、どちらも誰も恨んでなんかいなかったんだな……。

 



 携帯を開くと彼は相変わらずなにも言わずに笑顔を向けてくれている。


 いつの間にか1通のメールが送られてきていた。


 受信ボックスを開くと、ただの家電量販店からの広告メールだった。


一斉値下げ!!

招待特価で安さ

日本一!

いつもの価格よりさ

らに値下げ。

れい蔵庫・洗濯機

なんでも安い!!

くるしい不況を乗り越え

納得価格に挑戦

手当たり次第売り切れ

いいものお早く

きて見て買って

手加減無用!!

くれぐれもおわす

れなく!!


 すぐに消去しようと思ったけど、ちょっと待って。

 考えてみたら私、量販店からメールなんて送られる覚えなんてない。


「……あ」


 そう言えば彼は、言いにくいことをわざと暗号っぽくして伝える子どもっぽい遊びが好きだった。

 なんだか文字切れもおかしいし、『ゴメン。』が続いてるところもあやしい。



 頭文字だけを読んだ私は、嬉しくて、悲しくて、おかしくて、腹立たしくて……。


 ただ、涙をおさえることができなかった。


 覚えてくれていたこと、私はずっと忘れない。

 私、ちゃんと生きていくから。


 あなたからの気持ち、確かに受け取ったからね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ