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現在の

 はるか昔、管使くだつかいと呼ばれる術者は、“クダギツネ”と呼ばれる憑き物を竹筒の中で飼っていたそうだ。

 クダギツネは言いなりのまま情報を集め、都合の悪い相手を苦しめ、金品を盗んでくるため、術者はいっとき裕福になるが、クダギツネはどんどん数を増やすので、いずれ身上しんじょうを食い潰されてしまったという。


 それよりも少しだけ新しい昔、“ぱそこん”と呼ばれる箱やノート型の憑物が、多くの人に飼われていたそうだ。

 ぱそこんは人の言いなりのまま情報を集め、気に入らない相手を“けいじばん”や“めーる”などで苦しめ、“あふぃりえいと”などを利用していっとき裕福な気にさせてくれたが、“にーと”を増やし、“えふえっくす”と呼ばれるものに手を出させたりして、多くの人や家族が身上を食い潰されてしまったという。



「今日の民俗学の講義はここまで。何か質問はあるか?」

 大自然の中、少し開けた草原で講義をしていた講師は、集まった生徒たちに問いかける。


「はい。クダギツネもぱそこんも、どちらも想像上のものと言われてますけど、そんな想像が生まれた原因とはなんでしょうか?」

「そうだな。昔は今のように人間どうしが一つのネットワークとしてつながっていなかったと言われている。

 もしそんな社会だったとすれば、情報の収集や恨み、欲などを各個人が独立して持っていたことになる。

 そうすると、自分だけが都合のいい立場になりたいと思うようになるんじゃないかと、昔の人が想像して作り出したんじゃないかな」


 その感覚が理解できずに生徒たちはざわめいたが、講師は笑って続ける。


「実際にそんなものがあったなんて証拠はない。あくまで過去の迷信といえる。だけど、ただ迷信と笑ってはいけない。

 想像されたものは、想像された段階で現実味をおびて創造される。この話の中にも、きっと我々の先祖が代々伝えるべき教訓が含まれているはずだ」


 講師が立ち上がって礼をしたとたん煙のように消え、生徒たちもまた消えた。


 大自然に侵食されたその場所が大昔になんと呼ばれていた都市なのか、もはや知るすべもない。

 今はただ、草木をざわめかせながら吹く風の音と、この時代に産まれた生き物の声しか聞こえない。


 先ほどのものたちが、かつての人間を引き継ぐ生命体なのか。それとも、過去の記憶からいっとき蘇った幻だったのか。


 答えるものはどこにもいなかった。

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