イースターエッグ
ある日を境に、世の中が「目玉焼き」だらけになった。
イースターとかいう偉い博士が「毎日、毎食、必ず目玉焼きを食べると肉体と魂が浄化されて、病気知らずで長生きができる」と言ったからだそうだ。
はあ? そんなワケの分からない話を誰が信じるんだと思っていると、マスコミでどんどん取り上げられ始めた。
どうせいつものヤラセだろうと冷笑していたが、ネットニュースでも同意する意見がならび、コメントも賛同するものばかりだ。
数々のサイトのスレも、目玉焼きを話題にしたものが乱立して、そのどれもが肯定するものばかり。たまに反対意見が書き込まれると、情け容赦ない攻撃を受けている。
職場で話題にあがるのも目玉焼きのことばかりで、得意先での話題も、まずは目玉焼きからでないと始まらない。
買い物へ行けば目玉焼きのための玉子を買わないとレジで不審な目で見られるため、いやがおうでも買わざるをえない。
なので、目玉焼き以外の料理のレパートリーだけは増えていく。
もう世の中、目玉焼きを食べないことや悪く言うことそのものが悪という風潮になり、朝から晩まで目玉焼き一色。
あまりの目玉焼き押しにうんざりして、同僚や仕事関係以外には目にするのさえイヤになった。
ある夜のこと。茶碗蒸しのユリ根を堪能していたところへ、突然訪ねてきた友人に食卓に目玉焼きがないのを目撃されてしまった。
言い訳をする前に、友人は意味不明の叫び声をあげながら表へと飛び出して、何かをわめきちらしていると通行人が集まり、一斉にこっちへと視線を向けた。
ヤバイ!
あいつらがここへ押し寄せる前に、部屋から暗い町へと飛び出した。
ところが、どこへ逃げても奴らは追ってくる。
しかも次第に人数を増やし、今まで追っていなかった町を歩いていた者でさへも急に振り返って追いかけてくる。
なにが何だか分からないが、つかまったら何をされるか分からない恐怖で、とにかく必死で走り続けた。
だが、ついに袋小路に追い詰められ、四方を取り囲まれてしまった。
「目玉焼きを食え!」
「目玉焼きを食え!」
「目玉焼きを食え!」
もはや逃げることは不可能と思い、観念して彼らに尋ねた。
「分かった。これからは必ず目玉焼きを食べる。
だけど、どうせなら一番おいしい食べ方で食べたいから、それを教えてくれ」
すると、中の一人が「やっぱり半熟だな」と言った。
「いや、ガッツリ火を通したものが最高だ」
「中間くらいが一番おいしいのよ」
と、あちこちから声があがる。
「どんな焼き方でも、たっぷり醤油をかけて食べるとおいしいよね」
「ええ! 普通はソースかけるだろう?」
「どんな食べ方だよ。それより両面はしっかり焼かないと」
「それ反則でしょ」
もはや場はどの食べ方がおいしいかで騒然となり、中には取っ組み合いを始める者まででてきた。
混乱に乗じてその場から逃げ出せたけれど、これから先どうなるんだ……。
目が覚めた。
まったくなんて夢だ。
本当に夢だったのか、テレビをつけると「目玉焼き」なんてひと言も出てこずに、いつもどおりの同じものが流れている。
チャンネルをニュースに変えると、どこかの国のカルト集団が原典の解釈の違いから分裂して、過激な争いを始めたらしい。
夢のせいでなんだか腹が一杯だ。
今朝はコーヒーとサラダだけにしておこう。




