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ゴム手袋もいるな

 ワシの目の前には、まぶしい太陽と、青く輝く大海原が広がっている。

 人ひとりいない美しい浜辺からの眺めに、汐の香りが心地よく、波打ち際にはきれいな貝殻が打ち寄せる。

 上空に群れる海鳥たちの群れの下には、魚が群れをなしているに違いない。


「おやじさん、タコ握ってくれ」

 お客の声に我にかえったワシは、冷蔵庫の扉を閉じた。


 何がどうなったのか知らないが、小さな握り寿司屋のワシの店の冷蔵庫は、どことも知れない無人島の海とつながってしまったのだ。

 冷蔵庫が使えないため、売り上げが下がったばかりか、新しく買うにはまとまった金が必要で、おまけに捨てるにはリサイクル法で金がかかる…。

 小さな店の一画を陣取るやっかいな粗大ゴミに、ほとほと手を焼いていたところへ、近所の常連の連中が釣り道具を抱えてやって来た。以前、ワシが店に来た連中にグチった際、冷蔵庫を見せてやったのを覚えていたのだろう。

 やがて連中は、大物を携えて意気揚々と冷蔵庫から出て来て、そのまま釣果を店で料理して、他にも来ていた数人のお客といっしょに盛り上がった。


 それから店は大繁盛となった。

 冷蔵庫から海に行ける不思議さがどうあれ、町の真ん中から、実際に行ける・釣れる・すぐ食えるのは、魅力この上ないことだ。

 また、店を移転してもっとお客が入れるよう勧めるやつもいたが、欲をかいたばかりに不思議なことがなくなる話は昔からよくあるのだ。ワシはこの小さい店のままやって行こうと心に決めていた。


 ある日、開店準備のため店に入ると、取り付けていた鍵が壊され、冷蔵庫の扉がこじ開けられていた。

 あわてて中をのぞくと、海につながる前に仕入れていた魚がカピカピになっているのが見えた。

 すぐ警察に届け、捜査してくれた警察の中には事情を知っている常連のお客がいたものの、冷蔵庫が海につながっているなんて話は科学的根拠がなく、結局、ただの物取りとして処理されることになった。

 ワシは憤慨し、それから落胆して仕事が手につかない日々が続いたが、しばらくして気を取り直し、また店を開けることにした。

 冷蔵庫だけは保険で新しく買い替えることができたが、もうその扉が海につながることはない。

 今では昔からの常連たちが、あの頃のことをサカナに寿司を楽しんでくれるようになっている。


 一日が終わり、残飯を捨てにおもてのゴミ箱のフタを開けると……大海原があった。

 ワシはゴミ箱を店に持ち込んで、誰にも気づかれないよう厨房のすみに置いておくことにする。


 明日、新しいゴミ箱とたくさんのゴミ袋を買ってこよう。

 繁盛している間は気づかなかった。

 あの美しかった浜辺は、たくさんの人が入り込んだため、ゴミだらけになっていたのだ。


 盗みに入った奴はとんでもねえ奴に違いないが、ワシはいつの間にか鼻歌まじりで店の後かたづけをしていた。

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