青い瞳
光の届かない深海で、最新型の潜水艇で作業していた一人が計器の異常に気づいた。
「おい、この艇、徐々に浮上しているんじゃないか」
「そんなはずはない。さっきからずっと海底を観察しているぞ」
ぶ厚い樹脂によって作られた窓から目を離さずにもう一人が答える。
「故障かな? 調べてみるが、直りそうになければ浮上するしかないな」
「ここまで潜ってそれはツライな。せめて何か発見をしてからにしたいな」
「俺たちが無事に帰還するのも大事な研究成果なんだぞ」
「分かっているよ。ここで採取したデータを失うわけにはいかないからな」
「ああ、それにしてもこんな深海だというのに、ちゃんと生き物が暮らしているなんて、海は本当に生命の故郷だな」
潜水艇はしばらくその場所にとどまっていたが、どうやら故障は直らなかったらしく、ゆっくりと浮上を始めた。
青い海が一望できるリゾートに建てられた高級ホテルの最上階の窓から、ゆったりしたローブに身を包み、眺めを楽しんでいた熟年の夫婦は、眼下の光景に息をのんだ。
急いでフロントに連絡するよりも先に、スタッフのほうから緊急避難命令が出されたと、二人を迎えに来た。
取るものもとりあえず、身一つで乗せられた高級車の窓から見る海岸線は、先ほど部屋から見たよりもずっと沖に引いている。
間違いなく巨大な津波の前兆だ。
クルマはますますスピードをあげて高台を目指す。
昨日から降り出した雨は今日になってもやまなくて、おかげで学校が休みになった。
今日は学校が終わったら友だちの家に集まってゲームをすることになっていたのに、外に出るといけないっていわれて、しょうがなく一人でゲームすることにした。
みんなとワイワイ騒ぎながらするほうが楽しいのにな。
雨がやんでないか窓から外を眺めても、いっこうにやみそうにない。
あれ?
だけど、雨って上から下に降るはずなのに、どうして下から上に昇っているんだろう?
お母さんにそのことを尋ねると、今日はお父さんももうすぐ帰って来るから、大丈夫だから気にしないでっていって、ボクを抱きしめてくれた。
でも、どうしたんだろう。
お母さんはずっと震えてる。
スペースシャトルの窓から地球の様子を見守っていた乗員は、地上で起きている出来事を基地に伝え続けていた。
地球全体の海が太平洋の一カ所に集まり、巨大な水柱となって宇宙へと飛び出しているのだ。
海だけではない。
海が干上がった地域では、体からすべての水分を失った人間、動植物たち生き物のすべてが絶滅している。
この密閉されているスペースシャトルの中でさえずいぶん乾燥し、異様にノドが乾くのは気のせいではないだろう。
こんな事態に直面しても、乗員は冷静に目に映る光景を基地に伝え続けたが、基地のほうから先に連絡が途絶えてしまった。
乗員は地上に向けて手当たり次第に通信を送ったが、遂にどこからも返事は帰って来なくなった。
やがてシャトルは軌道を外れてゆっくりと漂っていく。
地球から飛び出したすべての水は一カ所に留まり、しばらく地球の近くを漂ってから、流れ星のように飛び去っていった。
一部始終をUFOの窓から眺めていたものたちは、ため息をついた。
「太陽系の『青い瞳』は、航海の休憩と道しるべとしていい星だったのにな」
「仕方ないさ。生命の素が自ら離れることを望んだんだ」
「次はどこへ行くんだろうな」
「さあ。だけど、今度はずっと離れないでいてほしいな」
「そうだな……それにしても、生命の素が星から離れる時は、いつも青い瞳から大粒の涙が流されたかのように見えるよ」
「そりゃあ悔しいだろうさ。離れたくなくても、離れなくてはならないほど居場所が奪われたんだからな。
生命の素にとって、そこに暮らしていた生き物……特にいちばん影響力を持つ生き物の生活がまるまる反影されるんだ。ある意味、自業自得と言われても仕方ない」
「この星のことわざにもあったな、目は心の鏡だ……と。生命の素はこの星、青い瞳で何を映したんだろうな」




