最後のひと花
出勤の途中、ケータイを持っていないことに気づいた。
家に忘れてきたのだろうか?
それともどこかで落したのか……。
確認しようと家に電話をかけたかったが、公衆電話が見当たらない。
ケータイの普及で次々撤去されているため、こんな時は本当に困る。
ねばり強く探していると……電話ボックスがあった。
長い間使っていなかったテレホンカードを取り出して、家に……。
「はい。汗の香りの宅配サービスでございます!」
「あれ? すみません。間違えました」
元気な若い男性の声が聞こえてきてあわてて受話器を置く。
ボタンを押し間違えたんだろう。もう1度かけ直そう。
「お電話ありがとうございます。つねにニヤニヤ、トリタテクレジットローンでございます。
今ならノー利息キャンペーンを行っており、ライフスタイルに合わせた返済方法を絶対に探し出して……」
返事をせずにあわてて受話器をおろした。
いったいどうなっているんだ?
ふと外を見ると、こんな時に限って人が並んでいる。なんだかいたたまれなくなり、そそくさと電話ボックスから出ることにした……。
結局、その日は遅刻して、上司からは注意を受けてしまった。
助かったのは営業の途中で公衆電話を見つけて家にかけると今度はあっさりかかり、妻に探してもらったところ、下駄箱の上に置きっぱなしだったことが分かった。
そうか、出かける前にお義母さん宛ての手紙を預かった時にうっかり置いてしまったんだ。
無くしてないことが分かっただけでも助かった。
おっと忘れていた、手紙を持ったままだ。ちょうどポストがあるから出しておこう……。
そのころ、ある都市伝説が流れていた。
『公衆電話の中には、かけたい相手につながらないものがあり、何十回に1回、大当たりの回線につながると1年間ケータイの通話料が全額タダになるらしい。
だから最近よく見かけるよ。今どき公衆電話で何度もかけ直している人』
そういえば思い当たる……それより全額タダ!?
「これでしばらく公衆電話を使用してくれる……まあ、流行りも2ヵ月程度だろうけどな」
「2ヵ月も持てば恩の字ですよ。流行りなんて目まぐるしく変りますからね」
全国から撤去された公衆電話が高く積み上げられている山を見上げながら2人はため息をつく。
「……どんな番号を押しても目的の相手につながらないプログラムを電話回線のメインコンピュータに……まあ、バグを出させればいいだけの、ちょっとした故障扱いにしか思われない簡単なプログラムだったが」
かつてカード式公衆電話の開発に全力を注いでいた開発者たちの抵抗は、ロウソクの火と同じく、消える寸前に一瞬大きく輝いた。
テレホンカード懐かしいです。
昔、クリスマス用に描いたイラストのテレカは結構売れたけど、まだ持ってる人はいるのかな……。




