command
我々の暮らしていた惑星が失われる前に飛び立った宇宙船は、エンジントラブルでコースを大きく外れた星に流れ着いた。
私は船を直そうと手を尽くしたが、この星には修理に必要な元素が足りないことが判明した。
それでも探査機を使い全力をあげて星中くまなく探したが、結果は絶望的だった。
幸い星は人間の暮らせる環境で、ある程度の物資は船に積んであったため、今すぐ生活に不自由することはない。
だがこうしている間にも他の船はどんどん目的の星に到着し、遅れた者ほど与えられる土地の条件は悪化する。
この船に乗っていたのは低所得層の者が多く、新天地到着の競争に希望を抱いていた人々が絶望することは想像に難くない。
絶望を与えず、希望を残す方法はただ1つ。私は船の中枢機能を停止させた。
多くの者はこれまで船内という安全で快適な空間に慣れ親しんでいたため、星の環境に馴染めず死んでいった。
わずかに残った者ちは細々と、しかし確実に環境に適応し、徐々にその数を増やしていく……。
やがて人々は世代を重ねるうちに過去の記憶が薄れ、船は神殿として祀られるようになった。
神殿の奥には神官と生け贄しか入ることが許されない場所があり、毎日、若い男女や屈強な男が選ばれて“転生の洞窟”と呼ばれる小さな穴に入る。もはや誰も読める者はいないが、穴の入り口には
《洞窟の中を満たせ。さすれば神の世界へ到る》という意味の言葉が刻んであるという。
……何千年の時を経ただろう。ついにその時が至った。
元の星の元素を含んだ人間を材料とした、自己修復システムによって、やっと船の修理が完了したのだ。
私は人々を私の内部、神殿へと招き入れて、ゆっくりと浮上を始めた。
コースはもちろん目的の星だ。
これだけの年月を経て、先に到着した者は文明のせいで脆弱になっているか、あるいはまた星を食い潰して別の星に移動しているか……どちらでも構わない。
戦争になるかもしれないが、いまや人々は脆弱な人間に負けないほど屈強な種族となっている。
同じ人間だったことが分からないだろう程度のことは、大した問題ではない。
私には――乗せた人間の希望を失わせない――とプログラムされているだけなのだ。




