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 人生のあの時をやり直せたら……。



 どんな人でも自分の人生の中でこう思わない人はいないんじゃないだろうか。

 僕もそうだ。いつも思ってた。

 ただ、人と違うところは、僕は本当にやり直すことができるところだ。



 田舎の祖母の物置きで、古いしおり見つけたのは、まだ高校生のころ。

 ずいぶんと使い込まれた日記帳に、それは挟まっていた。

 綺麗な羽の形をしていて、骨董品なんて縁のない僕でも強く惹き付けられ、祖母に断わってもらい受けたんだ。


 使い方は偶然見つけたのだけど、自分の日記のやり直したい日付けのページに挿んでおけば、昨日の記憶はそのままで次の日にはその日の朝に戻っていて、初めからやり直すことができる……。


 この栞を手に入れてから、僕は何度もやり直しを繰り返した。


 テスト勉強。


 好きな子と仲良くなるチャンス。


 ライバルとの勝負。


 大学受験。


 彼女選び。


 入社試験。


 入社した会社そのもの。


 仕事の折衝や企画。



 誰もが人生でやり直したいと思うだろうところはすべて栞を使い、僕が自分で納得いくまで何度でもやり直した。

 おかげで僕は、若くして『失敗を恐れず常に成功を収める社長』と呼ばれ、なに不自由ない暮らしをしている。

 もちろん妻も、何度も試して最終的に選び抜いて結婚した女性だ。


 やがて、娘が生まれた。


 子育ても、途中で何度も道をあやまり、時には人様に迷惑をかけたこともあったけど何度も繰り返し修正することで、本当に素直なよい娘に成長してくれた。


 いよいよ結婚する歳になり、何人もの候補の中から間違いなく娘を幸せにしてくれるよう、選びに選び抜いた。


 この栞がある限り、僕の人生は間違えることはない。

 いいや、たとえ間違ったとしても、何度でもやり直せば間違うことのない人生を歩むことができるんだ。



――こうして僕は幸せに満ちた人生を送り、たくさんの家族、孫やひ孫に囲まれながら天寿をまっとうした。




 あの世らしいところに着いた僕は、審議中の札がかけられた部屋の前でずいぶんと待たされている。


 どれだけ待ったのだろう、やっと部屋へとうながされ、中に入ると腕を組んで眉間にシワをよせている人たちがならんでいる。



「…………あの」



 問いかけても、誰も何も答えない。



「……あ、あのう……」


「……困ったことをしてくれたね」



 ようやく中の一人が口を開いた。



「君の使った栞はね、天使の羽だったのだよ。不運におちいった人間を救うための特別なものでね」


「自分の欲のために使ったのだから、当然、地獄行きにしたいのだが……」


「やり通した人生を一度と考えるなら、意外に善良な人生だし、君に関わった人間の多くは幸福となっている。それなら天国行きでもいいのだが……」


「はたまた、やり直した数だけ天国と地獄を往復させてもいいのだが……」


「……いずれにせよ、人間の身でありながら神の力を独り占めしたことは間違いない。

 これは大きな犯罪なのだが、気づかなかったとはいえ、これまで見過ごしていた我々に責任がないわけではない。そこで出した結論だが……」


 まん中の一番偉いさんらしい人が、指を組んだまま机にひじをついて手元の書類に目をやる。


「特例として天国と地獄のどちらでもない場所へ送検することにした。あとは君次第だ」


 言うが早いか、偉いさんは手元の書類に大きな判をドン! とついた――。






――田舎の祖母の物置きで、古い日記帳を見つけたのは、僕がまだ高校生のころ。


 ずいぶんと古い日記帳で、祖母のひいおじいちゃんのものらしい。


 古い文字と文体で書かれた内容は難しいかったけど、おじいちゃんが人生の中で、できることならやり直したかった経験や反省が書かれたものだった。


 一瞬、ここに羽根のような栞が挟まっているはずだ……という錯覚におちいったけど、そんなものがあるはずもない。


 だけど、この日記帳はとても貴重なものに思え、祖母に断わってもらい受けることにした。

 これから僕も人生の中で、やり直したいことがたくさん出てくるだろう。


 そんな時はこの日記を何度も読み返して、できるかぎり悔いのない人生を歩んでいきたい。

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