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雨宿り

 静まり返った街の汚れを洗い流すかのようにどしゃ降りの雨が降り続いていた。


 一台の車がゆっくりと走ってくる。


 運転していた男は花屋を営んでいたであろう店の軒先で、雨宿りしている女を見つけた。


「ひどい雨ですね」

「そうですね」


 車を止めて話しかけたが、女は顔も向けずそっけない返事を返す。


「こんなところで人に会うと思いませんでしたよ」

「わたしもこんなところに人がくると思わなかったわ」


 男は車から降り、女の隣でじっと雨が落ちてくるのを眺めた。


「この雨、いつ降り止むんでしょうね」

「さあ……」


 女はまた黙り込む。



「春は、あけぼの。やうやう白くなりゆく……」


 女が枕草子の冒頭を口にする。


「夏は夜……ほのかにうち光りて行くもをかし。雨など降るもをかし。

 なんて、清少納言がこの雨を見てまだそんなことが言えたかしら」


 それは男に対してと言うより、ひとり言に近い。


「ぼくは……。

 太郎を眠らせ、太郎の屋根に雪ふりつむ。

 次郎を眠らせ、次郎の屋根に雪ふりつむ。

 って詩を思い出すよ」

「三好達治の『雪』ね。

 だけど、降ってるのは雨よ」



「止むよ、必ず。

 こうしてあなたにも会えたんだから」


 男のつぶやきに、女は初めて顔を向けた。


「本当に止むと思うの?

 いえ、それよりあなたは本当に幻覚なんかじゃないのね?」

「もちろん。逆にあなたこそマボロシじゃないだろうね?」


 女の瞳からは、大粒の涙がこの雨に負けないほど流れ落ちる。


「あなたも一人なら、ぼくと一緒に行かないか? 宛てはないけど」


 女は涙を拭いながら微笑む。


「とても魅力的な話だけど、やめておこうかしら」

「うわ! ぼくってそんなに危険に見える?」


「いいえ、あなたに会えたってことは、まだ生き残ってる人がいるかも知れないってことよね。

 だから気を許すには早いかな、なんてね」

「いいよそれでも。今は人に会えただけで嬉しいから」


 2人は雨の中に浮かぶ、廃墟と化した街並を眺める。


「世界が滅んで人類が絶滅したけど、まだ絶望しなくていいのね」

「そうさ。まだぼくたちは生きてるんだ」


「うん……あっ見て! あそこ」


 彼女が差す先には、雲の切れ目から数か月ぶりの陽光が差し始めていた。

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