シーサーペント
太平洋に浮かぶサンゴ礁に囲まれた島に、折からの悪天候の中を我々調査隊を乗せた飛行機は向かっていた。
大小の島々が連なる観光で盛んなその島は、古くから巨大海ヘビの伝説が残されている。
この島々を取り囲むサンゴ礁の間には、そんな生物が隠れるには打ってつけのディープキャニオンと呼ばれる巨大な海溝があり、年に2回訪れる満月の夜に、ここでしか見られない夜光虫が大発生する日の目撃例が最も多く、同時に悪天候が重なるとされている日でもある。
もちろん、それを見越して早めの現地入りではあったのだが……。
正直言って私はこの研究に不安を感じていた。
学会でも民間伝承としてではなく、生存を確認しようとしているのは異端扱いだ。
しょせん、伝説は幻なのだろうか……。
「教授、管制塔から別の飛行場に向かうよう指示が出ました。
滑走路に折れた木の枝や石が入り込んで使用できないそうです」
「仕方ない。指示に従おう」
機長の報告に同意した時、落雷が飛行機を直撃した。
「ッ! 飛行に問題はないか?」
尋ねる前に、計器のあちこちから煙を吹いている絶望的な機長席が私の目に飛び込んできた。
「大丈夫とは言えませんが、出来るだけやってみますよ。
管制塔! こちら落雷の直撃を受けて、正確な現在位置の確認が出来なくなり、指示された飛行場へは行けなくなった。
燃料も残り少ない。そちらに強硬着陸を試みる!」
そう叫ぶ機長は、心配そうな私の視線に気づき、改めて言った。
「大丈夫とは言えませんが、出来るだけやってみますって。
こいつはジェット機と違って低速飛行が得意なんですから。
ほら、飛行場が見えてきました。教授も早く座ってシートベルトをしてください」
嵐で視界の悪い飛行機の窓から眺めると、ぼんやりと着陸位置を示す2本の誘導路灯の青い光が見えた。
ゆるやかに滑走路へと近づく機体。
激しい揺れはあったが、機長の操縦技術のおかげで、ややオーバーランした機体が林に突っ込んだものの、乗客乗員に1人のけが人もなく無事に着陸は成功した。
土砂降りの雨と強風というこの天候にも関わらず、あっさりつながった携帯電話で連絡を取ると、街とは目と鼻の先の場所であることが分かった。
次の日。
昨夜の悪天候がウソのように、真っ青に晴れ渡った空のもとで、不時着した飛行機を見た我々の誰しもが目を疑った。
そこは、飛行場とは正反対にある太平洋側に向いた島の入江だったのである……。
「しかし教授。わたしはこの目でハッキリと見ました。誘導路灯の2本の光を」
「ああ、もちろん私も見た。見間違いとは思えない」
「わたしには海の怪物のことなんて分かりませんけど、もし、巨大な丸太ん棒みたいなのが海に浮いていたとすれば、海面と触れる部分は夜光虫が集まっているんですよね」
声を震わせる機長の肩に手を置く。
「何もかも幻と決めつけるには早いと言うことだ。現に機長も、あの状況で着陸を成功させるという伝説を作ったじゃないか」
美しく輝く海に目を向けながら、自らの成すべき道に進んでいることを、私は確信した。
100話達成




