貴方が欲しかった言葉は
またまたお会いしましたね。更新遅れてしまってすみません。関係ないですが、最近音楽を聴くのにハマっています。特に聴いているのはfire bomberの楽曲ですね。
「舌を噛んでいませんか?お嬢様」
「え…うん。大丈夫」
「それならよかったです」
私は今誰と話した?さっきからわからないことだらけで頭が痛い。
足が地面から離れたと思ったら、今度は空が近くなって聞こえるはずのない声がする。
「びっくりしましたか?お嬢様」
幻聴ではなことと、信じられないことだか、口振り的にこの男が私をここまで連れてきたことが確認できた。
「己我…さん?なんでここに…」
至極当然な疑問をぶつける。
「お嬢様が心配なので、ついてきました。今朝も話した通り、私はお嬢様をお守りするのですから、主人の近くにいて、何かあればすぐに助太刀するのが仕事です」
さも当然かのように言ってみせる姿に若干驚きつつも、ここはペースに引き込まれまいと、次の質問に移る。
「あの、助太刀って?それに、どうやっ…」
「そんなことよりお嬢様、なぜあの時、すぐに逃げ出さなかったのですか?」
質問が遮られると同時に、その場の空気が一変した。
さっきまでの飄々とした態度とは打って変わって、まるで別人のように私を睨みつけてくる。
「あの時ってなんのこと?」
すかさず返事が返ってくる。
「お嬢様の近くに、銃弾が打ち込まれた時のことです。お嬢様が不良に絡まれていたので、少し驚かせようとしてやりました。」
つまりは今日の事件は俺がやったということだろうか。イカれている、正気じゃない。少し驚かせようとした?そんな理由ですることじゃない。
「冗談…ですよね?」
とてもじゃないけど信じられない。真偽を確かめるべく質問をするが、
「最初の質問に、まだ答えてもらっていません」
と、話を戻される。
「勘違いだったら悪いのですが、お嬢様はあの場で、死ねたらラッキー、などと考えていませんでしたか?銃弾が打ち込まれて逃げ出さず、防ぐ動作も見せないなんて、変じゃありませんか?」
それを聞いて、鼓動がドンと跳ね上がる。それから少し遅れて、ズキズキと胸が痛みだす。
「図星ですか…」
男の声のトーンが下がるのがわかる。
「だったらなんだって言うの…」
男を睨みつける。
「自分が悪いと思い、強く言い返さずに我慢すればいいとお思いですか?」
怒号にも似た口調で捲し立てられ一瞬身がビクンと反応してしまうが、恐怖よりも怒りの感情の方が自分の中で膨れ上がるのがわかる。
「知ったようなこと言わないで!」
喉がジンジン熱くなり、我慢できずに声を荒げてしまう。
「昨日あったばかりの人に私の何がわかるの!」
さらに続けて、
「なんの取り柄もない私なんて、いじめられて当然、こんな私に生きてる価値なんてないない!」
全部言ってしまった。胸の内を。声を上げたせいか、息が上がる。その間も、私は男を睨みつける。そると男が、
「では何故泣いているのです?」
気がつけば目からは涙が溢れ出ていた。
「いじめられて当然、生きている価値がないなんて本気でそう思い、受け止めているのなら、涙は出ません」
「涙が出るのは、誰かに助けて欲しいと思うからです。お嬢様」
男の声は気がつけば穏やかになっていた。
「それに、自分に取り柄がないだなんて、自分を卑下するようなことは絶対に言ってはなりません。お嬢様には、誰にも負けない取り柄があります。それは…」
真っ直ぐこちらを見つめ、一呼吸置いた後、
「勇気です。お嬢様は、誰にも負けない心の持ち主です。恐怖を振り払って瀕死の俺を助けてくれたこと、忘れていません。これは立派な取り柄ではありませんか?」
初めてだった。誰かに、自分を肯定されたのは。
「だからもう、自分に生きてる価値がないなんて、言わないでください。これ以上はもう、我慢しなくていいんです」
それは、ずっと言って欲しかった言葉だった。
胸の痛みが消えていく。
私は膝から崩れ落ちたが、胸で優しく受け止められた。気が緩んだのか、子供みたいに声を出して泣きじゃくった。
「涙にはいくつか種類があって、さっき言った助けを求めるシグナルと、嬉しい時に流れる涙があります。ちょうど今お嬢様が流している涙がいい例です」
クスッと笑いながら告げられ、恥ずかしくなり、途中、バカとかいじわるとか言いながら、肩をぽかぽか叩くが、何も言わずにただずっと、背中をさすってくれた。
落ち着きを取り戻した頃には、太陽が傾き、空がほんの少しだけ赤くなってた。
「あの、己我さん…」
「己我で構いません」
「でも…」
ニッコリ笑って答えられても、年上の男性を呼び捨てにするのは気が引ける。
「己我…君?…やっぱり今の無しです」
胸の前で両腕を使いばつ印を作る。
「それより、お嬢様は敬語も禁止です」
「己我さんばっかりずるいです。それにお嬢様って呼ばれるのも、ちょっと嫌です」
元々主従関係に私は納得いっていない。いきなり現れて主人にされていることに困惑しっぱなしである。
うーんと唸り声を上げていると、
「では、こうしましょう。俺はもうお嬢様とは呼びません。これからはお嬢とお呼びします。それからお嬢は俺のことを君付けで呼んでください」
と、提案がされた。
「お嬢」
真っ直ぐこちらを見つめてくる瞳は、次の言葉をきたいしているようだった。
「己我君…/」
あまり呼び方に変化は感じられないが、なんだか少しだけお互いの距離が近づいたような気がして、ちょっぴり話しやすくなった気がして嬉しかった。自然と顔が綻び笑顔になる。
「やっと笑ってくれました。思ったとおり、お嬢は笑顔が素敵です」
平気な顔して、歯が浮くようなことをいうからか、それとも別に理由があるからか、顔が赤くなる。
「からかわないで!もう…//」
己我君が大きく口を開けて笑うから、私もそれにつられてふふっと笑う。
笑い終えて落ち着きを取り戻したところで、
「己我君、ありがとう」
迷いがなくなったことは今のお嬢を見れば一目瞭然だ。
最後まで読んで頂きありがとうございます。次回もお楽しみに。