自暴自棄
またお会いしましたね。作者のPrince of novelです。
少し長くなってしまいましたが、お付き合いいただければと思います。
すごくどうでもいいですが、プリンスオブノベルって、すごく長いので、ノベプリと名乗っていいですかね?
昨夜は言われたとおりに部屋に戻ったが、その後一睡もすることができなかった。
頭の中で昨日の出来事を思い返しているうちに、日はとっくに昇ってしまったらしい。
ベッドから降り、一階に向かう。
「おばあちゃん起きてるかな」
一晩考え込んでわかったことは、結局自分じゃなにもわからず、おばあちゃんに聞くしかないこと。
正直に全部話してくれるかわからないけど、いまは兎に角それしかないと思い、リビングの戸を開け、朝の挨拶。
「おはよう…」
「おはようございます!お嬢様」
「え…」
自分の耳を疑った。今、誰が返事をした?兎に角声のする方に目を向ける。
そこにはエプロンを身に纏った昨日の男がいた。
なんでいるの?なにをしているの?おばあちゃんは?
それにお嬢様って誰のこと?疑問が次々に出てくる。あまりの異常事態に身が固まる。
すると男が、
「すみません。いきなりのことで、ビックリしましたよね。無理もありません。昨日道で倒れた男が、朝起きたらエプロンして朝食の支度しているのですから。」
などと話しかけてくる。少しずれている気もするが、それなりに自覚はあるようだ。
けどやっぱりわからない。それにしたってじゃあ目的は、男を前にして黙り込む。
すると、様子を見かねたのか、今度は、
「そういえば自己紹介がまだでしたね。俺の名前は己我道行。元自警団No. 一です。今日からお嬢様に仕えることになりました。よろしくお願いします。」
と、自己紹介を始めた。この人が口を開く度に疑問が生まれていくような気がする。自警団、それにお嬢様って、もしかして、
黙っていても疑問は増え続けるだけで、事態は一向に進展しない。ここは思いきって疑問をぶつけることにした。
が、混乱していたせいか、
「あの!…己我さん、その…、お嬢様って、私のことですか?!」
一番どうでもいい疑問をぶつけてしまった。いや、この状況なら、どの質問も、決してどうでもよくないが、優先順位をつけるなら間違いなく最下位だ。
間違った質問をぶつけてしまい、あたふたする私に、男がなんて答えるか、少し身構えながら、返事を待つ。
すると、この人は、真っ直ぐ私を、真剣な眼差しで見つめながら、
「はい。お嬢は咲夢様、貴方のことです」
意外だった。自分は笑われると思い、少しビクビクしていたが、この人は真剣そうだった。
では何故、こんなにも真剣なのか、理由を聞こうとしたら男が、
「お嬢様、そろそろ支度をなさらないと、学校に遅れてしまうのでは?」
男は時計を指差しながら、そう伝える。見れば時計の針は、六時二十七分。男の言った通り、そろそろ支度をしないといけない。
「でも…」
「顔を洗ったら、席に着いてください」
男はそう言って、台所に戻っていった。
私は言われた通りに、洗面所で顔を洗い、髪を整えたりと、いつもの身支度をしていく。その間にも、まだ頭は晴れずもやもやしていた。
リビングに戻り席に着く。朝食が用意されていた。パンにハムエッグにレタスとプチトマト。いかにも朝食といった感じだ。
手を合わせて、
「いただき…ます」
と言ったものの、用意された朝食に手をつけられないでいた。これを食べて平気なのか。単純で純粋な疑問頭に浮かぶ。
手を合わせてから一分が経過した。そろそろ食べないと怒られてしまうのか。それを想像すると恐怖が全身を支配する。
さらに一分経過。すると、
「毒なんて入っていません。ほら」
そう言って、お皿の上からプチトマトをとって、口の中にいれた。しっかり咀嚼し終わってから、
「ほら、大丈夫です。毒なんて絶対に入れません。むしろ、これからは俺が、お嬢様をお守りするのですから。」
続けて男は、
「信用できないのであれば、他のも毒味いたしましょうか?」
と、聞いてくる。私はそれに、
「大丈夫」
とだけ返事を返し、パンを齧る。サクッと気持ちのいい音はならなかった。
朝食を食べ進める間、他に一切の会話はなかった。
「ご馳走様でした」
「お粗末さまです」
男は満足そうな顔で食器を下げる。
「ありがとう…」
男は振り返って、
「いえいえ」
軽く微笑んだ。
その後私は、席を立って洗面所に向かい、歯を磨いて、制服に身を包む。スクールバッグを肩にかけ、何も言わずに、逃げ出すように家を出た。
家から駅まで、だいたい十分程。バックからケータイを取り出し、現在の時刻を確認する。今は七時四分。今朝は色々あったが、なんとか遅刻は回避できそうだ。
無意識のうちに早足になっていたからか、予定より早く駅に着いてしまった。
電車が来るまで、前髪を指でそっと梳かしながら、又頭を悩ませる。
(昨日から考えごとばかりしているな)
ハァ、と一つため息がこぼれる。そうこうしているうちに電車の接近を伝える警報音が鳴り出した。
カンカンカンカンと、とっくに聴き慣れた音が耳に伝わる。
定刻通りに来る電車に少し関心を覚えながら、車内に足を踏み入れる。
電車は楽でいい。決められたレールをただなぞるだけで、人の役に立っている。電車を利用したことがない人など、この世にいないだろう。
(電車が羨ましく思うなんて、私はどうかしている)
こんなことを考えてるのは、乗客の中で多分私だけ。
気づけばもう目的の駅まで、あと一駅、そこで降りたら、後は歩いて学校に向かうだけ。
向かうだけだと自分に何度も言い聞かせるが、やはり足取りは軽くならない。地面から足を引き剥がすのにとても苦労する。
やっとの思いでついた自分の下駄箱の前。
(開いてる)
半開きになった下駄箱の中を覗くと、そこになくてはいけない自分の上履が見当たらない。
(またか…)
もう何度目なのか、数えるのも億劫になるくらいに、隠される。そして決まって、
「今日も登校してきて偉いね」
「皆勤賞狙ってんの?」
「小学生かよ」
ずっとにやけて、嫌に高圧的な話し方をする典型的ないじめっ子だ。
「返し…て、ください」
なんとか声を絞り出して、頭を下げてお願いする。私の学校生活は、いつもこうして幕を開ける。
「え?返して?」
「なんで私達が隠したって決めつけんのさ」
後ろに上履をもっているのが見えている。多分わざとチラつかせて、私の反応を見て愉しんでいるのだと思う。
周りは誰も。助け舟を出してはくれない、やめてやれとか、可哀想だとか、そんなことを言ってくれる人はいない。
けど私は、決して周りを憎んではいけない。私が逆の立場でも、きっと見て見ぬふりをする。
もし止めに入るものなら、今度は自分がいじめのターゲットにされる。誰もが一度は考えることだ。
なら私が我慢すればいいだけ。けど、それっていつまでなの?
「黙ってないで答えてよ」
いじめっ子が急かしてくる。
(今日はいつもより長いな)
涙が溢れそうになったその時、目の前を黄色い何かが通過したと思ったら、その先にある窓ガラスが割れた。
正確には窓に小さな穴が空いた。ちょうど親指くらいの穴が…
何が起きたかわからない。さっきまでざわついてた生徒達が、一気に静まり返る。
長い沈黙、実際は十秒も経ってはいないけど、とても長く感じた。だがその沈黙も、すぐに破られる。
またも黄色い何かが、今度はいじめっ子の目の前を通過していった。またパリンとガラスが割れる音が聞こえる。
驚いたのか、いじめっ子達は後ろに倒れ込み尻餅をついた。
誰かが、悲鳴をあげる。瞬間、悲鳴が契機になったのか、静まり返っていた生徒達は、一気にパニックに陥り、その場から逃げ出した。
いじめっ子達も、慌てて逃げ出した。私の上履をほっぽりだして。
私はその場から動かなかった。変だと思うかもしれないが、私はこういった事件を待ち望んでいた。
窓ガラスに打ち込まれたのはおそらく弾丸。であれば当然、人に当たれば怪我をして、最悪死んでしまうわけだが…、自暴自棄、というべきか、私はそうなればそれでいいと思っていた。
もし弾丸が私の頭や胸に直撃して、命を落とすことになっても、むしろラッキーなのではないか?
ぼーっと突っ立っていると、騒ぎを聞きつけた先生達が、下駄箱の前までやってきた。
何か言ってるようだけど、よく聞こえない。そんな私を見かねて、腕を引っ張って無理やり地面から引き剥がす。
多分危ないから早く離れなさいとか、そんなことを言っていたような気がする。
教室に放り込まれる。時計を見たが、時刻は八時三十五分。とっくにHRが始まっている時間だ。
先生は警察が来るまでここで待機と言っていた。それから、授業どころではないので、安全が確保され次第、
生徒を家に帰すといっていた。
通報があったのは何時頃か、正確にはわからない。おそらく最初の一発が打ち込まれてから少し後だと思う。
警察が到着して、すぐに捜査が行われたらしいが、不可解なことに銃弾は、一発も見つからなかったらしい。
それ以外にも、近隣住民からは怪しい人を見たなどという証言はなく、さらには犯行に銃が扱われたとして、銃声を誰も聞いていないことなどから、捜査は難航。
数々の疑問を残したまま、その日は午後になる前に前生徒を家に帰した。私といじめっ子を残して。
私といじめっ子は、事件の中心にいたことから、事情聴取を、受けていた。ただ、五分も経たずに、それは終わった。
ただその場にいたというだけで、特別何かを見たというわけではない。何かが目の前を通過したと思ったらガラスが割れた。話せることなどこれくらいだ。
最後に警察にありがとうと言われ、早く家に帰るようにと言われた。
いじめっ子は終始無言で、教室を出たら足早に学校を去っていってしまった。
一人残された私は、とぼとぼと足を進める。下駄箱で靴を履き替え、外に出る。周りには誰もいない。
不思議に思いながらも、昇降口まで足を進めようとした瞬間、体が宙に浮いた。
正確には誰かに担がれて、気づいたら私は、屋上にいた。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
次回もお楽しみにです。