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第51回 叶羽vsレフィ

『ちょっと二人とも!? 何をやってるの今すぐ機体から降りなさい!』


 突然始まった叶羽とレフィの巨大マシンによる戦闘に騒然する現場。

 YUSA司令室から椿楓が二人に呼び掛けるが反応はなかった。


『正継、二人を止めて!』

「まずは作業員の避難が先だろっ!」


 現場監督の日暮正継は逃げ遅れた人たちを救助に向かう。

 YUSAの本社で受けたサイボーグ手術により、身体能力は一般的な成人男性の約三倍。

 現役アスリートよりも機敏かつパワフルに動けるのを生かして、怪我人を運んだり、降りかかる瓦礫を破壊して作業員たちを守っていく。


「叶羽くん、一体どうしたというのだ……?」


 正継は上空で繰り広げられる二機の激闘を眺め呟いた。



 ◇◆◇◆◇



「しぶといなぁッ!! 堅さだけが取り柄のそんな旧式のマシンでライヴイヴィルに敵うわけないのに!」


 叶羽は苛立ちながら叫んだ。

 両腕から放たれる雷光は一瞬で数百メートル先のビルを打ち砕き、とても人間の目で追えるスピードではない。

 しかし、レフィの侍型マシン・ザエモン魁は行動の先が読めるかのようにライヴイヴィルの雷をかわしていく。


「……叶羽の戦い方はずっと見てきた。その機体の性能に甘えすぎ。動きが単調すぎ」

「そうやって今まで勝ってきたんじゃないか!? ライヴイヴィルの強さは私の強さだ!!」


 ライヴイヴィルのマスクが開き、口部から炎が吐き出されるとザエモン魁は建物の影に隠れる。

 広範囲に広がる炎が廃墟のビルをチーズのように溶かしてしまい、さらに逃げるザエモン魁。


「やっぱ、何か変だ……なら」


 覚悟を決めたレフィは前に出る。

 臆することなくライヴイヴィルに正面から向かって、右肩の大型シールドを展開し真っ直ぐ突撃した。


「向かってくるなんて、いい度胸してるっ!」

「……耐えて」


 特殊合金製シールドが溶ける前に前方へ射出。

 前宙で飛び上がるザエモン魁はライヴイヴィルの背後を取った。


「そんなの卑怯じゃないのっ?!」

「戦いに卑怯はない」


 振り下ろされるザエモン魁の刃が一閃。

 ライヴイヴィルの右肩を腕ごと切り落とした。


「くっ……あぁぁぁぁーッ!? ゆ、許せないッ!!」


 初めて知る痛みに悶絶する叶羽。

 機体と同乗者の精神をリンクさせた操縦法は、脳にダメージを負った感覚もフィードバックした。


「私はッ、月の女王ぞ!! こんな、こんな事を……!!」

「やっぱり貴方は叶羽じゃない。何か邪悪なものを感じる」

「私は、私はぁっ!」

「誰なの? なんでこんな事をするの?」

「わ……私は……ぼ、ボクは…………カナ、ウ……か、ああああ…………くっ!」


 精神と肉体の境界線が混濁し苦しむ叶羽。

 右腕を失ったライヴイヴィルはとっさに真芯湖へと飛び込んだ。


「待って!」


 レフィはザエモン魁を剣の様な巡航形態に変形。

 逃げたライヴイヴィルの後を追い、真芯湖に潜った。


 ◇◆◇◆◇


 逃げるライヴイヴィルを追い、真芯湖の奥深くへ潜っていくザエモン魁。

 進むほどに光も届かなくなる濁った水で方向感覚も狂って来そうだが、最深部に潜む古代兵器から不気味なプレッシャーをレフィは感じた。


「マオ君、ミツキ……」


 古代兵器ダイバースに取り込まれた二人を助ける。

 本来の目的は叶羽のライヴイヴィルを利用してここまで来るつもりだったが、想定していた事とは違った形になってしまい、レフィは不安で一杯だった。

 五年前の悲劇を繰り返してはいけない、とレフィはザエモン魁のスピードを上げる。


「……見つけたっ!」


 ザエモン魁から放つライトで正面を照らす。

 湖底に鎮座する右腕のない異形の人型。

 全長百メートル以上はある山のような体躯で禍々しい角と相貌をした竜王だ。

 何年も水の中に居たためか全身に苔や水草が絡み付き魚の住みかになっている。


「いい加減しつこいぞ、レフィっ!!」

「貴方は叶羽じゃない。本物の叶羽を返して!」

「本物も、本当も、私はカナウ。それ以上でもそれ以下でもない。この体も心も全てはこの日のため、私は手に入れるんだ。あの王国を、黄金の理想郷を! 女王すら……その邪魔をするんじゃあないっ!!」


 意味不明な言葉を叫びながら錯乱する叶羽。

 ライヴイヴィルは残された左腕から雷撃を放つが、水中である為か速度も威力も出ず、ザエモン魁に届く前に分散した。


「ちぃ…………ダイバース、ダイバースよ! 私は月の女王であるぞ! いつまでそんなところで寝ているんだ、今こそ力を示す時ぞ!?」


 叫ぶ叶羽の言葉に反応してたか、ダイバースの目がぼうっと光る。

 水中の流れが激しくしながら、唸りを上げるダイバースはゆっくりと立ち上がる。


「そ、そんな……ダイバースが動いた?!」

「おぉ、我が声に応えて……」


 ダイバースに触れようとライヴイヴィルに近付いた、その時だった。

 突然、ライヴイヴィルが勢いよく弾け飛んだ。

 周囲に見えない障壁を張ったダイバースの叶羽を拒絶したのだ。


「か、叶羽っ!?」


 レフィはライヴイヴィルが吹き飛んだ方向に振り向く。

 ほんの一瞬、静電気のように光っただけに見えたがライヴイヴィルが負ったダメージは甚大だった。

 全身の装甲が大きくひび割れ内部が露出、四肢もバラバラに分断していた。

 ザエモン魁は急いでライヴイヴィルの元に駆け寄る。


「……叶羽……どこっ?!」


 無惨に開かれたコクピットに叶羽の姿はなく、周辺にもその姿は確認できなかった。

 そして搭乗者を失ったライヴイヴィルは影となって叶羽の中へ吸い込まれるように消えてしまう。


「ダイバース……いや、違う。攻撃したんじゃない……でも、なんなの? この感じ。まだ胸騒ぎがする……」


 何かを察し不穏な声を上げるレフィの背後で、悠然と佇むダイバースは虚空をじっと見つめていた。   


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