第49回 終局に向けて
ライヴイヴィルの変身解除により、高さ十数メートルもの空中に放り出された叶羽と真道。
そこへ地上から飛んでやってきた金色のヒーローが、真っ逆さまの叶羽を素早くキャッチした。
「大丈夫か、叶羽君!!」
「あ、あなたは……?」
「地獄から甦ったものさ」
叶羽を抱え、近くのビルに着地すると男は白い歯を見せて笑う。
サイボーグとして生まれ変わった日暮正継は叶羽を降ろすなり首元を触りだした。
「ひゃっ!? なにをっ?!」
「……うん、洗脳装置は付けられていないな? 配信で奴が君に何かをしているのかと思ったよ」
「奴……そうだ! 真道アークはっ?! アイツを逃がすわけにはいかないんだ!」
叶羽は手すりから身を乗り出し、一緒に落ちたはずの真道を探す。
戦いの損傷が激しく、黒煙の立ち上る建物がいくつも見えるが肝心の真道の姿はどこにも見当たらなかった。
『少女よ、そこにいるかァ?!』
正継の腕の通信機から発せられる大きい声の女、山田嵐子だ。
「ランコさん?」
『おお、正継は無事助けたかァ。それは良かった、良かったァ! 一先ず勝利はおめでとう』
「おめでたくないよっ! 真道アークに逃げられちゃった。ボクは行くよ」
やっと姿を現した親の仇を絶対に捕まえてやる、と叶羽はライヴイヴィルを出そうとする。
だが、戦いの疲れからか叶羽の影からライヴイヴィルは現れない。
「あ、あれ? どうして?」
『よく聞け少女。君はもう真道アークは追わなくていい』
「うん……えっ? な、何をさっ!?」
叶羽は耳を疑った。
『あとはYUSA本社が奴を追って処理する。今まで、お疲れ様っしたァ!』
「ちょっと待って!!」
『質問は受け付けなァい!』
通信を切ろうとする嵐子に叶羽は正継の腕に組み付き、通信機に向かって叫んだ。
「そういうわけにはいかないよ!! だって、アイツは……父さんをっ」
『君では奴を殺せない、実際そうだったろ? そういう風にされているのさァ』
「これを見てくれ。タワーで君たちを襲ってきたのは、これを付けられていたからだ」
正継は取り出した小さな丸いシール状の洗脳装置を叶羽に見せる。
「ボクにそんな物がついてると?」
『それも体内にだァ。帰って検査しなきゃなァ』
「疲れたろう? 今日は休んで、万全の態勢を整えてからでも遅くないだろ?」
二人の説得に納得はいかないものの、叶羽は納得せざるを得なかった。
『それと少女。今回の戦い、後の事は任せてくれなァ! んじゃバイビー!』
嵐子からの通信を切れた。
空はすっかり茜空へと変わっていき、叶羽は正継の腕を離すと再び街の方を眺めた。
「一体どこに、行って…………うぅっ!」
突然、頭の中を掻き乱すほどの頭痛が叶羽を襲う。
「…………くっ……な、なん……で………っ?!」
脳裏に流れてくる情報の嵐。
今までも封印されていた過去の記憶が洪水のように叶羽を襲い、とてつもない激痛に頭を押さえる。
叶羽はバタリと糸が切れたようにその場に倒れた。
「ど、どうした叶羽くん、叶羽ッ?!」
正継の叫ぶ声が何度も繰り返し聞こえる。
だが、叶羽には遠くで喋っているかのように小さく、はっきりとは聞こえない。
頭がぼーっとしたまま叶羽は自分で立ち上がることすら出来なくなり、激しい痛みの中で意識は闇の底に消えた。
◇◆◇◆◇◆
月明かりの照らす路地裏を一人歩く真道アーク。
その周りを十人ほどのYUSAから派遣されたエージェントが必死に真道を探すが、一向に捕まる気配がなかった。
(ふふ、無駄だというに……この力、人間の足で追い付くことは不可能だ)
真道の力。
それは彼自身がライヴシリーズ最後の一機の“ライヴエヴォル”を内に秘めているのであった。
次元間跳躍システムは空間を自由に行き来できる力を持つ。
なのでわざわざ、YUSAのエージェントに背中を見せつけるのは相手に対する挑発でしかない。
「まとめて消えてもらおう」
パチン、と真道が指を弾くとエージェントたちの足下に大きな穴が出来、次々と落ちていった。
その先は何処へと続いているのか、月夜に悲鳴が響く。
「……大事な会見を飛ばしてしまった。あとで謝罪しないとな」
静かになった路地裏から空を見上げる。
満月の光がスポットライトのように真道を照らす。
「だが、もうすぐ終わる。真月叶羽さえ消せば世界は救われるのだ。やって見せる。やらなければいけないのだ」
月に向かい左の拳を掲げて誓う真道。
しかし、それは潰えることになってしまう。
「貴方に姫の光を浴びる資格はない」
ドン、と真道は背中に衝撃を受ける。
背後から聞こえる声は悲しそうに言った。
「…………やぁ、天ノ川コスモ。久しぶりじゃないか、こうやって生身で会うのは」
左胸に燃えるような熱さを感じながら真道は声に向かって言った。
「こうなる事はわかっていたよ。プリンセスを守るのは王子様の役目だろうからね」
「自分は王子なんかじゃない。彼女とは対等になりたいと思っている」
「おこがましい、ね。君を、ラボから救ったのは……私だと、いう……の、に……」
月が厚い雲で隠れる。
ぽっかりと空洞の出来た左胸を触りながら真道は呆気なく絶命する。
すると死体は再び雲の中から月が現れる。
死体は月の光によって浄化されていき、塵一つ残さず消滅した。
「救った? 俺は救われたとはちっとも思ってなんかないよ……」
その光景を物陰から現れる二人の人物。
「これでいいんだな、真月武?」
天ノ川コスモと呼ばれる黒いコートで顔を隠した人物は、隣の無精髭を生やした男、真月武に聞いた。
「あぁ……ありがとう。ライヴエボルの力は取り戻した。これで君への借りはなしだ」
コスモは真道の痕跡のあった場所を撫でる。
「私にとっても彼、真道はいい親友だったよ」
「俺たち被験体にとっちゃラボの人間は皆殺したかったよ」
「……そうだな、これからは互いに敵同士だ」
コスモはコートから取り出した白銀の銃を突き付け真月武に宣戦布告する。
「では始めよう、LIVER ReLIVEを……」




