第34回 闘牛系女子
「……イデアルって、あのIDEALか?」
「そーそー、あのIDEALなのぉ!」
正解、とエイミィと名乗る少女は手で大きな丸を作る。
一見すると何処にでもいそうな中高生ぐらいのおしゃれ女子に見える、叶羽が苦手なタイプだ。
「正義を信じ、正義を愛する、正義の使者」
「嘘をつけ。お前たちのやっているのことの何処が正義だ? ただの虐殺じゃないか」
「まぁまぁまぁ、そう怒んないでよぉ。今日は戦いに来たんじゃないの。ウチが用あんのは、そこの女の子っ」
目をキラキラとさせ、軽い足取りで近付くエイミィは叶羽の周りをグルグル回りながらスマホのカメラで撮影しだした。
顔の前でチラチラしている赤い牛のようなストラップが鬱陶しい。
「……な、なに?」
「ねぇ、真月叶羽ちゃん。キミ、IDEALに入る気ない?」
「えっ」
エイミィからの思いもしない誘いに叶羽は固まる。
「上の人がさ、キミに死んで欲しいってことで今まで襲って来たわけだけどぉ、ウチはどうもそう言うの好きじゃないんだよねぇ。やっぱり話し合い、対話って大事だと思うわけっ」
「……ざけるな」
叶羽の口がワナワナと震えだす。
「だからさ、仲間になろうよ。ウチがなんとか上の人を説得するからさぁ」
「ふっざけんなぁっ!!」
能天気に言い放つエイミィに対して叶羽の怒りが爆発した。
拳を震わせて、キョトンとするエイミィを睨む叶羽。
「ボクから、親友も家族も何もかも奪っておいて今さら仲間になれだって? お前ら、ふざけるのも大概しろっ!!」
エイミィに殴りかかろうとする叶羽を銀河が止めに入った。
後ろから羽交い締めにされ激しく暴れる叶羽。
「離してよっ!!」
「相手の挑発に乗るな叶羽ちゃん。これは何かの罠かもしれない」
「罠だろうがなんだろうがコイツはここでボクがブッ殺す! IDEALは絶対に許さないッ!! 絶対にだぁッ!!」
その姿はまるで狂犬。
我を忘れて吠える叶羽にエイミィは少し考えて、
「わかった」
と一言。
パン、と手を打ってエイミィは真面目な顔をしてこう言った。
「ウチはIDEAL辞めます」
「…………なん、だって……何て言った?」
「だって三人も負けてんだよぉ? ウチなんかが戦ってもキミに勝てるわけないしぃ。降参しまぁす! ほら、仲直りの握手をしましょう」
ニコニコと笑って手を差し出すエイミィ。
彼女が一体、何を考えているのかわからず、叶羽は唖然としてしまい怒りも何処かへ行ってしまった。
◆◇◆◇◆
「IDEALのこと全部話す。私のロボットもそっちにあげちゃう」
叶羽に送られたIDEAL最後の刺客、エイミィこと城島笑魅子は降伏して三日後。
彼女の身柄は一旦YUSAに預けられ、機体は真芯市内にある工場施設に移送された。
「これが、アメリカに現れ都市を壊滅させた赤牛の……映像で見たのより小さい気がするが?」
「ライヴフレアというらしい。そんなを預かるなんて全く恐ろしいよ」
格納庫でライブフレアを眺めながら作業着の男、右京灯夜は面倒くさそうに茶髪の頭を掻いた。
昔はバリバリのヤンキーで今もその面影が残る真芯市の老舗自動車メーカー右京重工の若社長である。
「大変すいません、ウチはまだ復興に時間がかかるので」
椿楓は何度も頭を下げた。
「まぁ、うちとしても久々にロボットを取り扱うからな。それもこんな特殊な奴は久々よ」
「お手数おかけします」
「そんな謝ることじゃねえよ。うちがロボット止めたのはアンタの“上のヤツラ”だろ?」
右京の言う“上”とはアメリカにあるYUSA本社の事だ。
「そりゃ大型ロボット産業が上手くいきゃ、右京重工は世界規模になれたさ。あの真芯湖事変がなけりゃな……妹は犠牲になった」
「妹さんは我々が必ず助け出します」
楓や山田嵐子らは本社からレフィの声かけで出向してきた社員たちだ。
当時の本社のやり方に不満を持つもので結成されたのが今の日本にあるユサ食品──YUSA日本支部──のメンバーである。
「……頼むぞ。レフィちゃんにもよろしくな」
そう言って右京は寂しそうに何処かへと去っていった。
「私たちのYUSAも、そろそろね……」
設立者であるレフィが再び塞ぎ込んでしまった今、YUSAをこのままやっていく必要があるのか、そう思い始めていた。
その時だった。
楓のスマホに着信が入る。
「これは、山田さん…………もしもし?」




