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第33回 告白

 町を離れ、叶羽は自宅のあった場所に帰ってきた。


「…………」


 雑木林に囲まれた敷地内は既に跡形もなく撤去され完全に更地となっている。

 椿によるとYUSAが真道アークによって爆破された家の後片付けをした、とのことだった。


「ここに住んでたんだ」


 それなりに思い出のあった家の痕跡は何一つ残されてはいなかった。


「……ありがとね銀河さん、ここまで連れてきてくれて」


 振り返る叶羽。

 ドルル、と唸った白い大型バイクに跨がる男、天領銀河に感謝した。


「構わないよ。帰りもちゃんと送る」

「…………ありがとう」

「それにしても良いところだね、空気が澄んでてさ」


 バイクを降りて銀河は背を伸ばし、大きく深呼吸する。

 冬の冷たい空気が肺を満たしていった。


「ここが君の育った場所か」

「と言っても引きこもってたから外にはあんまり出なかっけどね」

「都会を離れて田舎暮らしもいいな」

「でも……何もなくなっちゃった。ボクがいた家も、町も、人も」


 茜空に吹く風が叶羽の空っぽ心を凍らせる。

 色々ありすぎて涙も出ない。


「でも君は生きている。それでいいじゃないか」

「だけど……ボクは一人だ。何とも繋がってない」

「前に、確か配信をやっているとか言ってなかったかい? もしかしてネットの動画配信者ってこと?」


 銀河はスマホでMyTubeの動画を検索すると一人の人物を見せる。



【星神かなう】

 最新動画『vsIDEALその3水羊』

 百万再生を突破。


 コメントも数千件も来ていたが、叶羽の浮かない表情だった。


「……Vチューバーはボクの実力じゃない。機材も全部、揃えてもらったし編集だってほとんど陽子ちゃんがやってた」

「でも見てくれている人だっているんだろう?

「…………視聴者の評価はちょっとしたことで裏返る。炎上騒ぎに乗っかって急に知らないアカウントから誹謗中傷コメントもらうことだってあるし。今は……何故か減ったけど」


 それが減った理由。

 天ノ川コスモを最後に動画で見たあの台詞。



 ──彼女の配信に低評価を押した者、彼女のSNSやネット掲示板に中傷を書いた者たちをこれから全て罰しようと思う。つまりは“処刑”を行う、というだ。



 過去の投稿から最近のライヴイヴィルによる戦いに至るまで、所謂アンチコメント的な発言は回を追う毎に減る。

 その逆に称賛する声が異様なまで増えていた。


〈流石はカナウ〉

〈Vチューバー最強パイロット〉

〈カナウの力で悪い奴等はみんな消してしまえ〉

〈IDEALはぶっころがせ!〉

〈バーチャルがリアルを救う〉

〈他の戦争してる国にも介入してくれ〉


 だがそれは映像を通して配信されるVチューバー星神カナウの姿であり、今までの星神かなうの配信の視聴者とは毛色が違った。

 皆は今の“巨大ロボットで敵と戦う星神カナウ”のファンなのだ。


「誰も本当のボクを見てくれる人はいないんだ。これからも、ずっと……」


 本当の自分がどっちなのか本格的にわからなくなっているが、やらなきゃいけないことは一貫している。


「そんなことないと思うけどな」

「だって今のボクの夢は…………」

「俺がいる」


 唐突に、銀河は叶羽の小さな背中を抱き締める。

 いきなりのことに叶羽の身体は硬直した。


「えぇ、ちょっ……ぎ、銀河さん?」

「君が、君たちが何をしているのか大体の検討は付く。それが俺みたいな人間に詳しく言えないこともわかっている。だけど、君が苦しんでいるのを黙って見ているのは嫌なんだ」

「銀河さん……」


 耳元で囁かれる銀河の言葉に叶羽の緊張は解けていく。

 優しく、力強い銀河の包容。


「俺が君を支える。その役目をくれ」

「え、でも」

「駄目かい?」

「…………っ」


 向かい合う二人。

 急接近し、銀河は強引に叶羽の顔と顔を近付けた。

 吐息のかかる距離、叶羽は思わず目を閉じて唇を尖らせる。


「あぁー、こんなところでイチャイチャしてる人達がいるぅーっ!」

「わぁっ!?」


 突然の大声にビックリして飛び上がる叶羽。

 声のした方を見ると見知らぬ少女が立っていた。


「愛の告白するにはちょーっとロマンチックなロケーションじゃないよねぇ」


 年齢は叶羽と同じか少し上だろうか、ブレザーの制服を着た今時のオシャレな女の子がニヤニヤしながらそこに居た。


「だ、誰?」

「ウチはIDEALのエイミィってゆーの。よろしくねっ」


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