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第32回 はじめての葬儀

挿絵(By みてみん)

 奪うものでありたい。


 それが生命の頂点であるから。


 何かを喰らい、貪り、消費する。


 その行為は悪意でもなく善意でもない。


 それこそが頂点である私の特権なのだ。



 ◆◇◆◇◆



 日暮正継の葬儀は故郷の──叶羽も住んでいた──田舎町でひっそりと執り行われた。

 参列者は叶羽とレフィを除くYUSAの職員一同。

 喪主は倒れてしまった正継の母親の代わりに、YUSAを代表して椿が行った。


「…………正継さん、陽子ちゃん……!」


 正継が火葬され小さな白い箱に詰められる。

 葬式に参加すること自体、叶羽にとっては初めての経験だった。

 短い付き合いだったが、あんなに鬱陶しいぐらい明るい男がいなくなってしまった事実をまだ受け止められない。


 叶羽は葬儀所の外で吐いた。


 ◇◆◇◆◇


 翌日。


 YUSAの一行は前日に真芯湖へ戻り、たった一人残った叶羽は日暮家で一夜を過ごす。

 寒空で曇天のグレーな昼下がり、喪服代わりに着ていたセーラー服のまま町をブラブラと散策する叶羽。


「コンビニ……無くなってたんだ」


 約二ヶ月ぶりに帰った故郷の町。

 叶羽が見知った建物が悉く消え去った。

 天ノ川コスモとの戦いで被害を受けた店や民家は叶羽が想像していたよりも多く、現在も復興作業が進められている。

 道路を行き交う“芦田建設”と名の付いたトラックや重機、作業員たちが建物の修復や建築を行っていた。


「……ごめんなさい、おばさん。ボク何もできなかった」


 病院にやって来た叶羽は、個室のベッドで眠る年配の女性に謝罪する。

 娘、息子、旦那を失い、日暮電器店を一人で切り盛りしていた奥さんは遂に倒れた。

 村の人に愛され明るく元気一杯だった女性の顔は見る影もなくやつれきってしまい、病院で一日のほとんどを寝たきり状態で過ごすことになってしまった。

 見舞いの品だけ病室に置いて叶羽は病院を後にする。


 町の人たちに長らく愛された日暮電器店は無期限休業を余儀なくされた。


「…………そんな、学校だったはずなのに」


 更地となった場所に立てられている看板を見て愕然とする叶羽。


 田舎特有の昔ながらの建物が無くなっていく。

 その一方で新しく建設予定の高層マンションや大型ショッピングモールに喜んでいる町民も少なくない。

 マンションは家を失った町民なら無料で居住可能。

 店を営んでいる町民も、モール内に店を新しく移転できる権利も与えられた。


 あれだけ嫌いだった田舎が近代的に変わっていく。

 そんな光景を叶羽は複雑な表情で見ていた。



 ◆◇◆◇◆



 葬儀前日。

 復旧作業中のYUSA警備ルーム。


「間違いなく居たんだっ!」

「うーん、そう言われてもねぇ……えぇ、どこなの?」

「アイツが……あの、天ノ川コスモがっ!!」

「……どう見ても何か人影が映っているように見えないけど」


 社内の監視カメラを確認する叶羽と椿。

 パソコンを操作する椿が該当する正継が何者かに撃たれたシーンを何度も繰り返し探ること一時間が過ぎる。

 血眼になって犯人を探しているが、映像の中には正継とルルの姿以外の人間は確認できなかった。


「うーん、彼が彼女から何かを庇っている様にも見える。でも、この位置も、ここの位置も、これでアングル変えても……」

「どこかに死角があるはずなんだ。あっ、こことか水滴が邪魔してる!」

「…………止めましょう」


 諦めた様に頭を抱えながら言う椿。


「何でですか?!」

「私だって正継を殺した犯人を見つけ出したい。でも……」

「諦めるんですか」

「そうは言ってない。今はIDEALが次にどんな事を仕掛けてくるか対策を……」

「じゃあ決まってるじゃないですか。直接、アイツらを叩いてしまえばいい。このライヴイヴィルは負けちゃないんだ」


 誰も映っていない廊下の映像見ながらイライラする叶羽。

 負けない、と言うが初戦の天ノ川コスモには勝てなかった事を朧気ながらにも思い出して苦虫を噛みつぶすした表情を浮かべた。


「けど、それだとここの守りはどうなるの? 大体、IDEALがどこにいるのかもわからないのに」

「元々YUSAの人達でなんとかやってたんでしょ? 私には関係ないんだ。これは私の問題だっ!」


 パァン、と乾いた音が警備ルームに響く。

 叫ぶ叶羽の頬に立ち上がった椿が平手を打った。


「殴った……!?」

「……なら、貴方の問題で死んだ私たちの仲間である正継はどう責任とってくれるの?!」


 立ち上がり椿は声を荒げる。

 自分で大声と思ったより強く手を出してしまった事に驚いてしまい、椿は再び席に座り込み目線をモニターに移した。


「勝手に…………勝手にボクを連れてきたのはそっちでしょっ!」


 捨て台詞を吐き、赤くなった頬を擦りながら叶羽は警備ルームの扉を叩くように開いて飛び出す。


「……ごめんなさい」


 誰もいない開け放たれた扉を見つめ、椿は深く反省した。



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