第17回 レフィと叶羽
おうちに帰ろう。
さむーいこの冬は家族皆揃って食卓を囲もう。
北海道産純生クリーム100パーセント。
野菜と丸鶏の旨味をじっくり煮込んでコクアップ。
YUSAクリームシチュー。
シチューはユサ食品。
◆◇◆◇◆
「……CM集、好き。ずっと見ちゃう」
「わかる。作業用BGM変わりにたまに流してるけどなんか面白いよね」
「次はこれ」
◆◇◆◇◆
デュエルドーム!
ボールを相手の陣地へシュゥゥート!
超!ファンタスティーック!!
3D対戦 ゲーム、デュエルドーム!
ゆさえもんデュエルドームも出たァ!
YUSAトイズから。
◆◇◆◇◆
「この子供、あの俳優さんだよね?」
「……レフィ、これの元ネタ始めて見た」
「当時どんなタレントが出てるとか、この時代はどういう傾向が受けるのか歴史を感じる……ってどうだって良いんじゃない?」
ノリつっ込みをする叶羽。
翌日、叶羽はYUSAの職員──廊下を掃除していた清掃員の老人──に道程を訪ねながら、社員宿舎棟にあるレフィの部屋にやって来ていた。
今、レフィのPC画面で流している動画はYUSA日本支部の公式チャンネルで投稿しているものだ。
部屋に来て早々、PCの前に座らされると、ジュースとお菓子を食べながらたっぷり一時間もYUSAの自社CMを見させられてしまった。
「それにしても……なんか、凄い部屋ですね」
「テーマは、ザ・日本の日常」
「う、うーん……それはちょっと違う気が」
畳が敷き詰められた和室の中には、戦国時代の甲冑や刀のレプリカに掛け軸など日本っぽい装飾品が至るところに飾っている。
外国の映画やゲームで見かける適当なイメージで作られた“間違った日本”だ。
「ダイシャリオンのプラモ……作りかけだ」
叶羽はデスクの上に置かれたプラモデルの箱を開ける。
組み立て前のパーツが全てランナーから切り取られ、組上がっているのは手足だけだった。
「毎日少しずつ作ってる」
「ロボット、好きですか?」
「うん、好き」
それを聞いて叶羽は少しレフィに親近感が湧いた。
「そういや、さっき遊左って言いましたよね? レフィさんの名字。もしかしてここの社長なの?」
「違う。レフィは……もう本社とは関係ない」
レフィは机に飾られた一枚の写真を悲しそうな表情で見る。
学生服を着た少年一人にレフィを含めた少女たちが複数人、プールらしき場所で写られているようだった。
「ボクに見せたいものってこれですか?」
「違う、これはレフィの思い出。本当はこれ」
レフィがPCを操作すると画面に映し出されたのは先程のCMにも出ていたYUSAのマスコットキャラ“ゆさえもん”だった。
「今年始めたマイチューバー。でも動画が伸びない……どうしたらいい?」
「えぇっ……?!」
勉強がわからない子供のような眼差しを向け、すがるレフィに叶羽は困り果てた。
「…………無理だよ。ボクなんかが人に教えるなんてこと」
「むぅ……どうして?」
「だって、ボク一人でやってたわけじゃないから」
動画投稿を始めて一年ほどの叶羽だが、続けてこられたのは親友である日暮陽子いてこそだ。
「それにボクは活動始めて一年だし、ボクよりも参考になる人一杯いるでしょ?」
叶羽はPCでMYTUBEのオススメ動画配信者をざっくりと見る。
「ほら、この子とか……小学生で五年も? ハーフの子なんだ」
画面の小学生マイチューバーが投稿している内容は、ティーンに流行りのファッションや恋愛など悩み相談がメインで、引きこもりでオタクな性格の叶羽には縁がないものばかりだった。
「……レフィは日米ハーフ。でも、そこは問題じゃない」
「こう言うのは絶対、裏で大人がついてるもんだよ」
「でも今日の戦い、叶羽は一人でも出来た」
「あれだって、ボクの力なんかじゃない……ボクの中のもう一人のボクだ」
いつも配信をしている時とは違う、気持ちのスイッチ切り替え。
Vチューバーとしての“星神かなう”ではない、内に眠る別の“カナウ”が自身を動かした感覚が叶羽にあった。
「自分じゃない誰かに身体が乗っ取られるみたいで、とても怖くて」
「……叶羽はVチューバーもうしたくない?」
「それは……でも引きこもりだったボクを陽子ちゃんがVチューバーにしてくれた、お陰で今のボクがあるんだ。とても感謝してる、けど……!」
叶羽の目から溢れる涙。
しかし、その表情には怒りと憎しみが込み上げてきていた。
「そのせいで、ボクの大切な人が三人も奪れた。アイツらだけは絶対に許さない。天ノ川スバル、真道アーク……ボクがこの手で、この手で奴等を……っ」
身体を震わせる叶羽をレフィは優しくそっと抱き締める。
「叶羽、あんな戦いをしたら見を滅ぼす。だから止めて」
「レフィさん……ボクは止める気はないよ」
叶羽はレフィを引き剥がし、部屋を出ていった。
「……また、来る」
何かを予見する叶羽。
他人にどう言われようとも叶羽の中にある復讐の炎は、そう簡単には消えるはずはない。
しかし、その気持ちが本当に心から自分のしたいことなのかわからなかった。




