第11回 YUSA
──ボクを讃えて。
──皆の信仰はボクの力となる。
──ボクは廃れない。
──皆の信仰を失うことがなければ。
◆◇◆◇◆
午前8時。
天井から降り注いだ明るすぎる照明の光に叶羽の目が覚める。
「……ん…………どこ、ここ……?」
ベッドから起き上がる叶羽。
いつの間に服装は病院患者が着ているような検査服に着替えさせられていた。
叶羽は辺りを見渡す。
真っ白い壁に囲まれた四畳半ほどの狭い部屋だった。
「包帯……う、痛たた」
いつの間にか頭や手足に包帯が巻かれており、身体の節々から痛みが走りまともに動けない。
「本当に、どこなの?」
家具は机と椅子、そして大型のテレビモニターがあるが先程からずっと動画が流れている。
「……これは、マイツベの動画?」
それは企業製作の広告動画であった。
◆◇◆◇◆
MY TUBE
≪ユサ食品公式ゆさえもんチャンネル≫
本日の動画
【これが最新宇宙食! あの鍋料理が無重力で楽しめる?!】01:43
『みんなぁ~こんにちピョンピョン。ゆさえもんだっピョン。みんな元気してたかピョン?』
絶妙に可愛くないウサギらしきキャラクターが画面横からスライドして現れる。
『地球はすっかり冬の季節でかなり寒くなった今日この頃。こんな時にはやっぱり暖かいものが食べたいっピョンねぇ~』
キャラの絵は動いたり表情を変えているが、その声は下手な電子音っぽい棒読みな感じで喋るゆさえもん。
『そんな事を思っている皆に宇宙でも身体が暖まる最新の宇宙食を紹介するっピョーン』
◆◇◆◇◆
「これぐらいならボクのが食リポうまいよ」
ゆさえもんの動画はキャラが合成音声で調整が甘いせいか棒読みかつ感情がない。話す内容も素人っぽく感じて、とても企業Vチューバーとは思えない完成度だった。
「そうだ、コンビニホットスナックのレビューとかしたいね。陽子ちゃんに連絡できたら」
言いかけて止まった叶羽。
脳裏に焼き付いたあの時の出来事がフラッシュバックする。
叶羽の前に突如として現れたVtuber天ノ川コスモの操る巨人“ライヴレイブ”によって握り潰された陽子。
そして、寝室で血だらけになった母の死体と、叶羽に迫る真道アークなる人物と叶羽を守る父。
爆発でドアや窓ガラスが吹き飛び、炎と黒煙が立ち上る自宅。
「……うっ?!」
あの時の事を思い出してしまい、叶羽の喉奥から込み上げてきた物を口で押さえるが、耐えきれず吐瀉物を床に撒き散らした。
目眩が襲い、足がふらついた叶羽はベッドに倒れ込んだ。
溢れ出た涙が横に流れ、ベッドシーツを濡らす。
「夢なのに、あれは夢だったのに……うぅ、痛いっ」
肉体的にも精神的にも叶羽の身体はボロボロであった。
このまま自分も消えてしまいたい、と叶羽がそう思ったとき部屋のドアが開かれた。
「あっ、君! 大丈夫かッ!?」
見知らぬ男が部屋の中を惨状を目撃し、苦しそうに倒れる叶羽を起こした。
男はハンカチを取り出して汚れた叶羽の口を優しく拭う。
「うぅ……あっ……?」
「ハルカゼ副司令、早く彼女を医務室に……いや、医者を呼んだ方が早いか?!」
「落ち着いて正継くん。すぐ近くだからドクターを呼ぶわ」
もう一人、栗毛のショートカットな女性では部屋の外にいる誰かに目配せをする。
「安心して、私たちは貴方のお父さんの知り合いで貴方の味方よ。ここなら君は奴等に狙われない。私たちが貴方を保護したの」
「……やつら?」
「君を襲った人たち、正義を名乗る不届きものさ! すまない、俺がもう少し早く駆けつけていれば博士たちは……ッ! 本当にすまない!!」
何をそこまで必死になっているのか叶羽にはわからなかったが、正継と呼ばれた男は精一杯頭を下げて謝罪した。
「ハルカゼさん、ドクターが来ました」
「わかった、まずちょっと片づけましょうか。服も着替えさせないと……正継くん」
「ん? おう、すまないデリカシーが無さすぎたな!」
そう言って無駄に暑苦しい男、正継は部屋から急いで出る。
「失礼するぞ真月叶羽君、また元気になったら会おう!!」
出ていった正継の笑い声は廊下中に響き渡るぐらい大きかった。
(……誰なんだろう、子の人たち。博士って、お父さんのこと?)
「ちょっと騒がしかったわね。許してあげてね、彼はいつもああなの」
「えっ……あぁ、えぇ……その…………」
ハルカゼと呼ばれた女性が優しく話かけてきたが、見知らぬ相手に叶羽は上手く喋れない。
ただでさえここがどこで彼女たちが何者なのかわからないこの状況で、叶羽は朦朧としつつも警戒する。
そんな叶羽の背中を女性は優しく擦る。
「あっありがとう……ございます。少し楽に……なった、かも」
「フフ、そういえば挨拶がまだだったわね、私の名前は椿楓。ここの副司令をやってます」
女性は笑みを浮かべ、握手をしながら自己紹介をする。
「ようこそ、YUSAへ」




