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閑話② 和風シチューとハンバーグを作りまして2

「ああ、いい、いい。かしこまんな。飯つくってんだろ」


 兄上は入り口に注意しながら、うまく頭を傾げて厨房に入ってきた。

 一気に厨房が狭くなる。もともと色んな人が出入りするところだから広くできてるはずなのに。


「お前が最近、料理に目覚めたってのは本当だったんだな。何作ってんだ?」

「それは食べてみてのお楽しみ……そうだ、よかったら兄上、ご試食なさっていってください」


 兄は一瞬「え、こいつが作ったゲテモノ食うの?」という顔をしたが、そこはマムシのご子息。

 態度に出すのはぐっとこらえて了承してくれた。この人も顔は怖いけど、案外身内……妹に甘いのだ。


「いいぜ、どんなもんだか、俺が試してやるよ」


 この強気な兄が私の料理に屈服するところ、見たい。ぜったい美味しいって言わせてみせる。

 一気にやる気が出てきた。


 アクを丁寧に取りきった彦太の鍋へ向かい、だいぶ水が少なくなったようなので、ここへ牛乳を入れる。ドボドボと。

 この勢いにまた甚吉シェフと彦太が引いてた。兄上も遠目に引いてた。


「ぐつぐつしたら味噌を溶かして塩で味をととのえて完成。うーむ、シチューってかミルクスープかな」


 ひと匙すくって味見をする。

 ちゃんと煮込んだから野菜と鶏肉の出汁も出てるし、大根もやわらかい。

 ちょっとシャバシャバなのは要改良ね。やっぱバターが……ホワイトソースが……。


 味付けは味噌ベースにしてみた。味噌と牛乳って意外とあうのよね。

 ふんわりまろやかな牛乳の口当たりに、お味噌のやさしい風味がめちゃめちゃあう。お味噌汁に牛乳ちょっと入れてもおいしいよ。


 ハンバーグの方は、火加減が難しくてちょっと焦げたけど、中までちゃんと火が通ったみたいだ。

 竹串を刺してみて、赤い汁が出て来なければ、火が通った証拠。

 せっかく兄上が来てるなら付け合わせも作ればよかったけど、何も用意してなかったので、ザ・茶色の盛り付けになった。

 お気持ち程度に、ハンバーグの横にそっと沢庵を乗せてみる。


「できました!ええと……牛乳と根菜の汁ものとカモ肉のハン……平たい肉団子です!」

「平たい肉団子ってお前……そりゃ団子じゃねえだろ」

「いいから!いいから食べてみてください!美味しいですからたぶん!」


 ずいずい強引に前に出すと、兄上はなんとか皿を手に取ってくれた。


「においはうまそうだな」


 厨房横に簡易味見スペースを作り、どうぞ!と三人で低姿勢にお願いをすると、兄はそこへきちんと座ってくれた。

 姿勢を正して、長い指で行儀よく椀を持って傾ける。さすが、育ちが良いのでこの辺の所作は綺麗だ。


 私だけでなく、シェフと彦太郎もシンクロして兄に期待の目を向ける。

 美味しいって言ってほしい!


「……うまいな」


 三人の喝采があがった。

 ワールドカップ優勝かってくらい。


「兄上、肉団子も食べてみてください……あっそっちは味見してなかった」


 大皿料理や汁物と違って、ハンバーグは味見がしにくいので、忘れていた。

 身内が作ったものといっても、兄上は大事な斎藤家の跡取り息子。

 毒見なしで食べさせるのはまずいことかもしれない。


 もう一個作ったのを食べようかと思っていると、兄が仕方なさそうにハンバーグをひとかけ、箸で切って私の口へ運んでくれた。


「ほら、毒見しろ」

「ありがとうございまむぐ……」


 箸先につかまれた塊を、そのままぱくんと口に入れられる。

 焦げたところはカリっとしていて、中のお肉はしっかり叩いたから柔らかく口の中でほぐれる。

 お肉に濃い目の味がついているので美味しい。味噌味にして正解だ。

 おかげで焦げやすかったけど、お肉の臭みも消してくれたし、ソースがなくても十分おいしい。

 うー、白米(ごはん)ほしい!


「うまいな、これ。……味は味噌か?」

「はい。ショウガとネギでお肉の臭みを消して、味噌とほんの少し蜂蜜を入れて、風味をよくしております」

「ほー……。親父が最近蜂なんか育ててるってのは、これか」

「はい!蜂蜜は体にも良いんですよ。風邪のときとか、のどにもいいし……」

「ま、ちゃんと考えて作ってんなら、悪くねえだろ。また作ったら味見してやるよ」

「はい!お願いしますね!」






 料理をしたら、後片付けまで。が基本だ。

 甚吉シェフには「やめてください、姫様が後片付けなんて!」と言われて困らせてしまったが、でも、やりっぱなし散らかしっぱなしなんて、嫌だ。


 使った鍋を水場で一生懸命洗っていると、手伝ってくれていた彦太がなぜか渋い顔をしている。

 コゲ汚れって落ちにくくて嫌だよね、と思っていたら、理由は別にあったらしい。


「小蝶、あれは、お相手が義龍様とは言え、はしたないと思う」

「えっ」


 どうやら、味見(毒見)の時に箸で口に運んでもらったことを言っているらしい。

 たしかに幼児に「あーん」てするようなことで、もう10歳の(わたし)がやるには、子供みたいではしたなかったかも。

 うーん、戦国時代の姫って制約が多いなー。

 兄と戯れるのも大変だ。

閑話までお読みくださり、ありがとうございます。

お料理を書いているときが一番楽しいので、二部からも時折、挟んで行こうと思います。


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