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141話 ピクニックへ行きまして1

「どう?」

「いや、めちゃめちゃ似てる……なんで?」


 姿見(かがみ)を立てて着替えをして、くるりと回って全身を見せる。

 自分でもここまで似るとは思っていなかったけれど、十兵衛の着物、髪型、立ち方、真似しただけで小ぶりな明智光秀になった。日奈も目をみはってコクコクと小刻みに頷くくらいだ。


「まあ、血は繋がってるしね」

「あ、喋ると帰蝶の顔になる」


 メイクや着物の着方を、男性的になるようかなり変えて、ちょっとタカラヅカ風になってしまったけど、もともと彼も中世的な顔立ちだったので、遠目には騙せそうな仕上がりだ。おそらく十代くらいで外見年齢が止まっていたのもよかった気がする。つくづく、都合のいい世界(システム)だ。

 さすがに声帯模写のスキルとか蝶ネクタイはないので、口当てでもしてごまかしておくか。職人さんに頼んで仮面とか作ってもらおうかな。かっこいいやつ。

 次に来るヒロインがいたならば、メイクやコスプレが趣味でそれらの技術に精通している子だといいわね。


「私で最後にするつもりだけど」


 鏡の前の光秀に呟く。日奈がなあに、という顔をして覗き込んできたけれど、そこには帰蝶はもういない。


 日奈には、帰ってすぐにすべてを報告した。あ、キスの件は伏せて。

 そして謝った。

 日奈の大好きな明智光秀を、私は失わせてしまったのだ。

 これから私が演じる光秀は、もう彼女の好きだったものではない。

 しかし日奈は「大丈夫!私には半兵衛様がいるし、今、二期メンバー集めてるから!」とすでに元気を取り戻していた。

 私がいない間に竹中半兵衛くんに助けに行けなかったことを謝られ、色々限界が来た日奈は、泣き出してしまったそうなのだ。そして、自分のせいかと慌てた半兵衛くんに慰められ、乙女ゲームの小イベントのような時を過ごしたのだそう。おかげで元気が出たそうなので、あとで私からも半兵衛くんにお礼を言っておこう。


「あのね、帰蝶。私、帰蝶が寝てる間と、帰蝶姫との話を聞いた後も、ずっと考えてて」


 おずおずと話し出す日奈は、それでも私の格好にまだ慣れないのか、鏡ごしをやめて背を向けた。

 なぜか肩に届かない程度で伸びるのが止まってしまった髪が、ふんわりと耳の下で揺れる。実はこの髪形は、ゲームのヒロイン(顔の出ているイラストはないが、全身と髪型は出ているのだそうだ)とそっくりで、本当はこうなるのが嫌で髪を切るのにはためらいがあったと言っていた。

 そのうえここ数日は、忙しそうな私の侍女達に気を使って、着物を借りることができなかった。

 あの制服を着続けることで、随分とゲームのヒロインに近づいてしまった。


「私達って、戦国謳華のゲームの中に入ってると思ったんだけど、違うんじゃないかな。もともと、ヒロインは二人いないし、世界観だけ一緒で、どこかでゲームとは違う世界になってるんじゃないかな」

「それは、そうね。私もそう思う」


 日奈は頷き、続けた。畳の部屋とはアンバランスな制服姿の女の子。まるで、修学旅行で日本城の見学にでも来たみたい。


「私、攫われて雷鳴と一緒にいた時に、もしかして続編出たのかなとか思ったんだ。まだその可能性もあるけど、でも明智光秀が死ぬのはストーリーとして破たんしすぎてる。こんなの普通、乙女ゲームを作る人は考えないシナリオだよ。前作の人気キャラ殺すなんて。だから私や帰蝶や帰蝶姫とも違う、ゲームマスターって言うのかな、の意志があるんじゃないかな」

「ゲームマスターってなに?監督?SE?」

「じゃなくて、神様とか、ゲームを支配する存在だよ。よくあるでしょ、漫画とかで」

「あるね……」


 ゲームと違うのならば、明智光秀が復活できることがあるのではないか、と日奈は考えているとも続けた。

 支配している神様がいるのなら、神様を捕まえて、脅してもとに戻させる。ついでに私達も帰してもらう。


「最初は、帰蝶の、あなたの思い通りに進んでるって思ったんだ。ヒロインはあなたで、私は添え物(おまけ)で。だけど、違うんだよ。なんか、いろんなものが混ざって出来てる気がする。私の理想とか、あなたの願いとか、帰蝶姫の望みとか」

「……うーん」

「こう、帰蝶姫(ラスボス)と対立する存在があるんだよ。それがこの世界を作ったマスターなら、それは神様かなって」

「……うーーーーん」

「唸ってないで!考えて!」


 考えるのは苦手とごねる私の肩を揺さぶれるくらい、日奈は私の容姿に慣れてきたようだ。もともとまがいものだしね。

 これからどうする気なの!?光秀役をずっとやるなんて無理だよ!?と日奈は言外に言っている。実際、報告した時に言われたし。

 私もそうは思うけど、とりあえず今は、


「ピクニックにでも行ってこようかと思って」

「え!?」

「城のみんなに、この光秀にも慣れてもらわないとだし、気晴らしに料理したいし。お弁当作って出かけようかと」

「ええ!?」

「日奈も食べたくない?からあげ、甘い卵焼き、ミートボール、焼きおにぎり」


 運動会や遠足で食べたそれを思い出したのだろう、単語だけで想像できてしまった日奈は、ごくりと唾を飲み込んだ。


「た、食べたい……」

次回、ピクニックへ行きます。懐かしい人も出ます。

月曜日更新予定です。

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