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103話 上洛準備をいたしまして1

 上司命令第二弾。私は足利義昭(あしかがよしあき)さんという方に会いに行くことになった。


 本当は城主としてもう少し腰を落ち着けて業務を頑張りたいところだったけど、一番偉い人から名指しで「行ってこい」と言われてしまったからには仕方ない。

 私は十兵衛と二人、並んで馬に乗っていた。



「え、なんで私と十兵衛?二人で!?お(とも)は!?」

「サルとか他のやつは、いろいろやることあるだろ、伴はなし。護衛はミツがいれば充分だろ?お前たち強いんだからさ。侍女とか、ヒナも置いてけよ?」

「で、でも……二人きりってのは、ちょっと……」

「なんだよ、お前達を二人にしたらなんか問題あんのか?」

「ヒェッないです……」


 余計なことを言ったら、十兵衛がまた「主君の妻に手を出した(ざい)」になって(しょ)されかねないし、そうなったらあの子は信長を返り討ちにしそうだ。岐阜城燃やされたりしたら困る。リフォームしたばっかなのに。


「日奈~、なんか、足利さん?に会いに行くことになっちゃったんだけど」

「うん!がんばって!」

「……その反応、日奈から信長様に言ったのね」

「うん!私は秀吉くん達と留守を守るね!それと、半兵衛さまと♡」

「はあ……」


 とてもノリノリな巫女様に「二人きりは気まずいからこっそりついてきてくれ」とは言えなかった。

 日奈の話では、私たち織田信長一行は、上洛(じょうらく)準備の真っ只中にいるらしい。

 上洛、とは。

 

「足利義昭は征夷大将軍(せいいたいしょうぐん)候補で、彼を将軍にするお手伝いをするって名目で織田信長は上洛することになるの。だから、義昭に気に入られて、うまく仲間にできればいいってことじゃないかな。そのへんの交渉は、光秀様にまかせておけば大丈夫だよ」

「なんで十兵衛?そういう大事なことなら、信長様本人が行った方がいいんじゃないの?」


 渋々旅支度をしながら文句を言い続ける私に、日奈は隣に座って説明をしてくれた。

 今回は上司命令とは言え城主が不在になることをあまり大っぴらに触れ回るわけにもいかない。侍女のみんなは城に残していくことになるのだし。自分の支度は自分ですることにした。


「えっとね、史実だと光秀様は以前に朝倉(あさくら)にいたことがあって、その縁で任命されるんだけど、この世界の光秀様は朝倉にいたことはないはずだから、どういう理由かはわからないんだよね。朝倉には、いなかったよね?」

「うん。美濃からずっと私と一緒にいたわね。ゲームでもそうなの?」

「たしかね。女の子向けのゲームだからかな、政治的な部分ってさらっと流されちゃうんだよね。だから、朝倉繋がりナシでどう交渉して義昭を仲間にできたのかはわからない。ヒロインは光秀ルートなら一緒について行くことになるんだけど、交渉の席までは一緒じゃないし……」


 史実ではもう何回か交渉を済ませてる時期だけど~と、ブツブツ小さな口から歴史用語が多々飛び出すが、私にはほとんど理解できない。

 私はそれを聞き流しつつ、荷物の中にお手製ダンベルを忍ばせた。刀は何本持っていこう。


「……てことはさ!」

「てことは?」

「これは光秀ルートってことだよ!?」


 日奈は目をキラキラに輝かせてこちらを向いた。

 最近よく見る、恋バナを楽しむ女子高生の顔だ。


 『戦国謳華』明智光秀ルート上洛編。

 ヒロインは光秀が心配でこっそり彼についていく。その道中、女一人だと思われ悪漢に襲われそうになり、すんでのところで光秀が救出。「二度と私の(そば)を離れないでください……あなたは大切な人なのですから……」ぎゅっイベントが発生するらしい。

 あのプリンス顔でそんなことされたら、世の中の女子はたまらないでしょうね。

 いや、私も似たようなことされた気もするけど。


「帰蝶は強いし、腰に刀さしてるのを襲おうとする人もいないでしょ。必ずそうなるとも限らないけど、光秀様とギクシャクしてるんでしょ?仲直りしておいでよ」

「そんな小っ恥ずかしいことできないわよ!それに、ケンカはしてないって。あ、それならやっぱり日奈行く?十兵衛と仲良くなれるわよ?そうしようよ!」

「私の今の推しは半兵衛さまだから」

「半兵衛くんは攻略キャラじゃないじゃん」

「わからないじゃん!私がこっちにいる間に続編の製作が発表されて、攻略キャラにいるかもしれないじゃん!!」

「そんなご都合主義な……」



 で、結局、私は十兵衛と二人で出かけることになったのだ。

 仕事だから。二人で旅行とかじゃないから。

 別に、今までだって二人で出かけたことあったし。お伴ナシは初めてだけど。

 別に、小さい頃はお伴ナシで買い物とか行ったし。成長してからは初めてだけど。


 ちらりと盗むようにして見た横顔は、ため息が出るほど綺麗で、涼しげで、しれっとしてて。

 イケメンすぎてちょっとムカつくのだ。

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