1話 退屈な日常の終わり
「そっち行ったぞ!今のうちに回復しろ!」
「ブレスがくる!避けろー!」
「怯んだぞ!たたみかけろ!」
ここは俺の好きな場所である仮想世界。まぁ要するにVRMMOってやつだな。
5年ほど前に発売され、結構話題になっていたゲームで、if You're aliveってゲーム。翻訳すると『あなたが生きていたら』って感じのはず。まあそれは置いておいて。
今は最強種とも言われているドラゴンの中でも最も強いレジェンダリードラゴンと戦闘中だ。
なぜ戦ってるかと言うと、
「こいつを倒せば一獲千金だぞ!帰ったら派手に打ち上げでもしようぜ!」
「「「「うぉぉぉぉ!!!」」」」
今声を出した副ギルド長こと、ヒョウカの言う通り、討伐成功すれば、現実で言う50億程になるらしい。流石最強のモンスターって感じだな。
そんなことを考えていると、ドラゴンが疲労のためか、片膝をついて息を荒くしていた。
(そろそろ出番かな?)
そう思った時、俺を呼ぶ声がした。あぁ、間違えた。
「エキューラさん!今です!」
(私、か。やっぱり慣れないなー。はぁ、なんで男のアバターにしなかったんだろ…)
何度そう考えただろうか。
(まあいいか。今は目の前のことに集中しよう)
「行くぞ!やぁあああ!!」
手に持っている黒く、妖しく光る刀で、ドラゴンの足を切る。腕切る。とにかく切る!
「速えぇ、流石最強と言われるギルドのギルド長だな。」
「あぁ、目で追えないぜ。おい、あれが見えるヤツいるのか?」
周りで俺について色々と感想を言っている。
ふっ、当たり前だ。俺は販売開始された5年間、学校にいる時とご飯、お風呂の時以外はずっとコッチにいてLv上げ、レア装備、スキルなどを
ずっと集めてたんだ。
その間に俺は有名になっていたらしく、感情が無いとか実はAIではないかとか色々言われていて、無情の姫とかいう二つ名ができていた。
その他にも、黒髪ストレートですらっとした手足に整った顔立ちが美しいとかでファンクラブがあったとかなかったとか。
そんな中、気まぐれにギルドを作ってみたらトラウマになってしまうくらいのプレイヤーが押しかけてきて、俺を入れてくれ!私を入れて!とかずっと言って、喧嘩を始めるし全然収まらないことが原因でちょっと泣きそうになったくらいだ。
昔のことを考えつつ、ドラゴンを切り続けてると、ドラゴンが苦しそうに雄叫びをあげた。
そろそろか?
「じゃー、ね!!」
俺の持つ1番強いスキル、黒炎刀を使い、刀に黒い炎を纏わせてドラゴンの首を切る。
ズドーンッとでかい音をたててドラゴンの首が落ちた。
「レジェンダリードラゴンとの戦い、私たちの勝利だー!!」
「「「「うぉぉぉぉ!!」」」」
ギルドの人達が声を上げて喜んでいる。
あぁ、やっぱりこの世界は楽しいな。そう、
この世界は・・・
ピピピピ ピピピピ ピピピッ!
「ふぁあ〜、はぁ」
昨日の夜、打ち上げを拒否って早く寝ることにした。まぁ、一応学生だしな
俺、『時任誠』は目を覚ます。
はぁ、ベッドの暖かさが心地良い。こんな時は二度寝に限るよな~。きっとそう思ってるのは俺だけじゃないはずだ。よし、
「また会おう現実、さらばだ!」
もう一度布団の中に入ろうとした時、ガチャッと言う音を立てて見慣れた顔を覗かせた。
「馬鹿なことやってないで支度をしなさいよ…早くしないと遅刻するわよ?」
そう言って俺の二度寝を邪魔してきたのは俺の幼なじみである『滝宮りん』だ。
腰近くまである長い髪に細めの目、そこそこある胸に加えて頭もいい高嶺の花。唯一欠点があるとすれば運動が苦手くらいか。
「分かってるっての。今降りるところだったって」
「嘘ね」
「な、何故バレた!?」
「幼なじみだからって言いたいところだけど、部屋の外まであんたの声が響いてたからよ」
「あぁ、なるほど。これはお恥ずかしい」
「まぁ、なんでもいいけど早く支度しなさいよ?あの先生、普段は優しいくせに怒ると怖いんだから」
「分かってるって。今急いでやるから先に1階に下りててくれ」
「ハイハイ」
そう言ってりんは部屋を出ていった。
支度を済ませ、りんと学校へ向かう。
「なあ、りん。お前はこの日常が楽しいか?」
「どうしたの?急に」
「ちょっと気になって。それでどうなんだ?」
「まぁ、楽しいわよ?」
「そうか。」
ちなみに俺はつまらない。なぜって?飽きたから。
学校に行く。授業を受ける。昼ご飯を食べる。また授業を受ける。家に帰る。何も変わらない日常に俺は飽きていた。でも、なぜだろう。
今日は何かが起こる気がした。
キーンコーンカーンコーン・・・・
チャイムが鳴り先生が来る。HRが終わり先生が教室を出る。いつも通りだ。
(はぁ、気のせいだったかな。)
何かが変わる気がしたが、そんな気配はない。
(異世界転移とか起きないかな〜)
そんなことを考えてた時、それは突然起きた。
「・・・え?」
辺り一面が白い部屋に変わる。
周りを見回すと教室にいた人達全員がいた。
「なんだここ、夢じゃないよな?」
みんなが混乱している時に、何かがスっと現れた。
「ようこそ、わたしの世界に。これはわたしのわがままなのですが、これから貴方たちには異世界に行ってもらいます」
そんなことを言ってきた。
「ふざけんなよ!早く教室に戻せよ!」
「そうだそうだ!早く戻せ!」
みんなが騒いでいる中、俺は一人戸惑いながらもドキドキしていた。日常が変わるからだ。
「貴方たちの言いたいことも分かります。ですが、わたしは貴方たちには異世界に行ってもらわなければ困るのです。」
その言葉でクラスの奴らはさらに怒り、殴りかかるやつもいたが、
「え、嘘だろ…」
その拳はそいつに当たることなくすり抜けていった
「みんな、まずは落ち着いてくれ。話はそれからの方がいいだろう」
眼鏡をかけた七三分けの髪をしている、The・真面目って感じのこの人は、我がクラスの委員長の『鈴木たつな(すずきたつな)』だ。委員長がそう言うと、みんなが落ち着きを取り戻していく。そのまま委員長はそいつに向き合い、質問する。
「すみません。いくつか質問してもいいですか?」
「はい。どうぞ」
「まず、あなたは何者ですか?」
「そうですね…神様、とでも言っておきましょうか」
「では、僕達は元の世界に戻ることが出来るのでしょうか?」
「それについては大丈夫です。私の目的を達成することが出来たらちゃんと戻します。ですが、異世界に住みたいというのであればそうしてくれて構いません」
「なるほど。では、神様のその目的とは一体何なのですか?」
そう委員長が聞くと、神は言った。
「わたしの目的は魔物の王、魔王のいない世界を作ることです。」
「なんで魔王を倒さなければ行けないのでしょうか」
「魔王の力はとてつもなく、世界に混乱を与えて人々が毎日脅えて暮らしているのです。ですから、そんな人々には希望が必要と考えた結果、勇者を呼ぼうと思い付いたので実行することにしました」
その方法以外にもうちょっとなにか無かったのかって思うんだがな〜。例えば、
「それでは神様が魔王を倒してはどうなんですか?」
そう。神様が倒してしまえばこんな面倒なことをしなくてもいいんだ。
「それはできません。私にできることと言ったら人を別の世界に転移させることと、スキルを与えるという事だけですから。まぁもうひとつ理由がありますが、それを言う必要は無いでしょう」
「分かりました。では、最後の質問なのですが、異世界で死んでしまったらどうなるんですか?」
「もちろん死は死です。死んでしまったら生き返れないし帰れないです」
その言葉に流石の委員長も驚きを隠せないようだ。
そんなみんなの様子を見た神は続ける。
「安心してください。そうならないための能力、向こうで言うスキルというものを与えます。ですが、一度に1人までしか与えれないので、1人ずつこちらに歩いてきてください」
そう言われても、誰も行こうとはしない。だが、そんな中1人だけ神のもとへ歩いていった。
委員長だった。
「では欲しいスキルと、それを使っている自分を想像してください。そうしないといけませんからね。あ、もちろん世界を壊すとか、強制的に奴隷にする。みたいなのはダメですよ」
ふふっと神が笑って、委員長が目を閉じた。
しばらく経った後、委員長のからだが光り始めた。それはどんどん大きくなって、やがて収まる。
「貴方にスキルを与えました。使ってみてください」
そう神に言われた委員長は両手を見つめた瞬間、右手には炎、左手には氷を発生させた。
その出来事に周りの人は当然驚き、委員長本人も驚いていた。
「な、なんだよそれ。手品なのか?」
「たつなくん。一体何をしたの?」
「いや、僕は炎と氷を使って敵を倒している自分を想像しただけなのだが。これは神様がやったのですか?」
「はい。わたしが貴方にスキル;大魔法使いを渡しました」
おぉ!と周りが神を見る
「では、次は誰ですか?」
そう神が言うと、みんなが俺も!わたしも!と神に向かって走っていった。
なんかこの光景、見覚えあるな。
(あぁ、俺がギルドを作った時もこんな感じだったな)
そんなことを考えながら、俺は神のもとへと歩いていった。
「おぉ!すげぇ!」
「俺こんな力欲しかったんだー!」
「えい!やぁ!」
ある人は斬撃を飛ばしたり、ある人は地面から悪魔を召喚して従わせていた。ちなみに俺はまだスキルとやらを授かっていない。
どうやら俺が最後のようだ。
「最後は貴方ですね。では、欲しいスキルとそれを使っている自分を想像してください」
と言われても、まだ思いついてないだよな…
しばらく帰れないから強いスキルがいいよな〜。
(ん?しばらく帰れない?)
あ、やばい!ゲームどうしよ!はぁ、レジェンダリードラゴンを討伐したばかりなんだけどな…
あ〜、あの時はホント楽しかったなー。目にも止まらぬ速さで走りながらドラゴンを切って、トドメに黒炎刀!あれって俺の容姿にも合ってるし、結構強いから愛用してたんだよな〜。
あの時のことを思い出している時に異変に気づく。
(ん?なんで俺の体が光ってるんだ?)
ちょっとまて、今どんな状況だ?確か、スキルを授かる時だから・・・。
光が収まっていく頃には、俺は冷静を取り戻していた。
(まぁ、あのスキル;超加速とスキル効果持続時間超増加、黒炎刀が貰えるなら別にいいか。)
委員長だって2つの事を望んでたんだし、3つなら誤差だろう。
光が完全に収まった時、クラスのやつらがこっちを見て目を丸くしていた
(なんだ?何かあったのか?)
周りを見渡しても特に変化はない。
「お、おい。誠なのか?」
「はぁ?当たり前だろ?何言って・・・」
そして違和感を覚えた。自分の声ってこんなに高かったか?でも、この声は聞き覚えがある…
「ちょっとまて」
そう言った委員長が氷の山を作った。
「これで自分を見てみろ」
不思議に思いつつ、言われた通り自分を見てみると、
「なんじゃこりゃーー!!」
自分ではない自分―――エキューラが映っていた。
次回は転移後のまったり(?)した日常を書いてこうかなって思ってます!
みでぐれでありがどぅ( ᵒ̴̶̷̥́ ^ ᵒ̴̶̷̣̥̀ )