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不定愁訴の塊、存在を消された病弱公爵令嬢奮闘記! ~エキナセアの繋がる輪~  作者: 悠木 源基


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29 密貿易と悪人令嬢

 もっと文章を短くしたかったのですが、この話の要のところだったので、これ以上削れず、また、次の章にも回せず、長くなり、すみません。

 ジュール=リアム=エンチャント公爵主催の会議二日目は、朝の九時に始まった。

  

 エキナセアとノアとエドモント、そしてリッカルドとリュカは、それぞれ昨日の帰りの馬車の中で、宿題の課題について話あっていた。

 

 しかし、ジョージとリアムは互いの部屋で別々に過ごし、個々に課題に取り組んだ。

 ジョージにも執事のエドモントが何を言いたかったのかは察しがついていた。フィリアで貿易の手伝いをしていれば分かる事だったので。

 しかし、それをリアムに話す事は躊躇われた。自分などが話さずとも、頭の良い方だからもうわかっているだろう。それに、さすがに今日は一人で考えたいに違いないと思ったのだ。

 

 それに明日は自分はあまり口出しをせずに、他の者に任せた方がいいだろう。時間がないのだ。餅は餅屋だ。

 俺には別に俺の出来る事がきっとあるだろう、そうジョージは思った。

 

 昨日と同じように、ノアの言葉で会議が始まった。

 

「昨日の課題については、皆様考えてきて頂いたと存じます。この国の長老の方々が喜ぶ事とは、いったい何だと思われますか? まず、リアム様からお願いします。」

 

「貿易で利益を得る事でしょうか。」

 

 リアムが答えた。

 

「そうです。それでは、我が国が貴殿の国に何の商品を売り込みたいかはご存じですか?」

 

 今度は、リッカルドがリアムに尋ねた。 

 

「それはこの国の特産品である、薬やサプリメント、医療関連のもの、もしくは基礎化粧品ですよね。」

 

 彼がそう答えると、リッカルドは頷いた。

 

「我が国とエンチャント皇国の貿易はあまり盛んではありません。それは、お互いの特産品を隣国で買えるからです。しかしそれは中間手数料がかかるので、価格が上がり、お互いにとって不利益です。」

 

「その通りですが、お互いの国民感情が良くないので、今すぐに直接の貿易するのは、少し難しいのではないかと。」

 

 そうリアムが言うと、エドモントがこう口を開いた。

 

「いや、そうでもないと思うのですよ。今までリアム様にはお話していなかったのですが、我がフィリアの領地内では、エンチャント皇国との医薬品貿易が割りと盛んなんですよ。」 

 

「はっ?」

 

「ええ、もちろん密貿易ってやつですがね。ほほっ。」

 

 エドモントはにっこりと笑って言ったが、リアム、リュカ王子、そしてリッカルドが顔をひきつらせた。

 

「まさか、フィリア伯爵家が密貿易とは、ご冗談でしょう。」

 

「信じられませんか?」

 

「ええ、フィリア伯爵様、並びにお仕えしている皆様の事はよく存じております。皆様が悪事を働く方々だとは思っておりません。でなければ今回も、このようなお願いをしておりません。」

 

「悪事ねぇ。」

 

 エドモントは皮肉のこもった物言いで、リアムを少し軽蔑したような目付きで見た。

 今まで見たことのないエドモントの顔付きに、リアムは一瞬怯んだ。 

 

「それでは貴方様は、エキナセアお嬢様を悪人だとお思いになっていたのですね?」

 

「何?」

 

 リアムとリュカ王子が、同時に声を上げた。天使のような心を持つエキナセアが、悪人だと? そんな事思うはずがないだろう。

 エドモントは何を言っているのだ。

 

「エキナセア様、貴女は悪人ですか?」

 

 エドモントは今度はエキナセアの方を見て尋ねた。

 すると、リアムとリュカが何か言おうとする前に、彼女はこう答えた。

 

「国の法を破った者が悪人だと言うのならば、私は間違いなく悪人です。エンチャント皇国との輸出を禁じられている薬を、リアム様にお渡ししましたので。まあ、お金は頂いてはおりませんので、厳密に言えば貿易ではないかもしれませんが、それは言い訳にはなりません。」

 

「あっ。」

 

 リアムが思わず声を上げた。

 

「国の法を守る事は国民として大切な義務であることは承知しています。しかし私は、一人の人間として正しいと思う生き方をしたいと思っています。

 病気で苦しんでいる人がいたら、それがどこの国の方であっても、自分に出来る精一杯の事をさせて頂きます。もしそれが悪事であると言われるのならば、それでも構いません。」

 

 凛としてエキナセアがこう答えると、リアムは項垂れた。

 リュカはこのやり取りの真意を測りかねたが、エキナセアの堂々とした物言いに驚くとともに、思い人の

心情の一端が垣間見れて嬉しかった。 

 

 昔彼女はいつも言っていた。

 

 正しい事と悪い事って、誰が決めるの? 

 多くの人が正しいと言えば正しいの? 私はどんな事も自分自身でそれを考えて決めたいわ。

 そしてその結果は自分で受けたいの。誰か人のせいにするのは絶対に嫌です、と。

 彼女は全く変わってはいなかった。

 

「四年前、貴方はご自分の大切な方をお助けするために、薬を求めて我が国にいらっしゃいましたよね。しかし無理な旅をしたために、フィリアに入国した途端街道で気を失ってしまわれた。そんな貴方を助けたのが、エキナセア様とジョージでした。そしてフィリア伯爵家の別宅に運ばれて、そこでレアム様に再会されたんですよね。」 

 

 ノアの言葉にリアムは頷いた。

 

「貴方はレアム先生に、お薬を融通して欲しいと依頼されました。先生は、親友の貴方の手助けをしたかったが、フィリア伯爵様にご迷惑をかける事は避けたかった。そこで家庭教師の職を辞する旨を、まずエキナセア様に告げられました。驚いだお嬢様は先生に内緒で、リアム様と先生のお話を盗み聞きをして、その真相を突き止めました。」

 

「ううっ。盗み聞きなんて、そんなつもりじゃ。人聞き悪い言い方しないで。」

 

 先程の凛々しさはどこかへ吹き飛び、エキナセアはおどおどしながら、言い訳地味た事を呟いた。

 何もリュカ王子の前でわざわざ言わなくてもいいじゃないの、ノアの意地悪、と思った。 

 

 しかしノアは全くその意図を介さず、澄まし顔のまま話を続けた。

 

「エキナセア様はご自身が病弱ということもあり、名医と呼ばれるたくさんのお医者様をご存じでした。そして、お嬢様が公爵家を離れてからも、公爵様に内緒で交流は続けられていました。それはリッカルド様が、裏で手を回して下さっていたおかげでもありますが・・・・・」

  

「えっ?」

 

「おい!」

 

 驚きと怒りの声が上がったが、ノアはそれらを無視して、また話を続けた。

 

「名門の先生方が、公爵家との繋がりを無視してまでもエキナセア様との関係を続けられたのは、ひとえに、お嬢様のお人柄の賜物であると思います。」

 

「上げたり下げたり、いい加減にしろよ、ノア。」

 

 ノアの毒舌に、ジョージが苦言を述べた。すると、 

 

「ああ、すみません! 」

 

 ノアはしれっと謝ってから話を続けた。 

 

「お嬢様はその豊富な人材を駆使して、リアム様の大切な方の症状から病気を割り出し、それに効く薬を調べあげました。そしてフィリア家にもレアム先生にも関わらせず、その薬を自ら調達し、処方の内容、使用方法、手当ての仕方を事細かくメモして、リアム様に手渡ししました。そうですよね?」

 

 ノアの問いにリアムは頷いた。 

 

「その通りです。おかげで彼女は助かりました。エキナに助けて貰わなかったら、多分、私も彼女も今生きていなかったでしょう。エキナは私達の命の恩人です。」

 

「そして、貴方方をお助けした事で、エキナセア様は悪人になってしまったわけです。」

 

「しかも、助けてもらっておきながら、お嬢様をからかったり、脅したりしてさ。」

 

「付き合っている女性がいるのに、姉との結婚話を進めるとは、貴国のした事は許せません。それにエキナセアを悪人にするとは。」

 

「全くです。我が国の誇りであるアディール様を侮辱するとは許しがたい。」

 

 若者達に続いて、ずっと冷静だったリッカルドまで怒りを表した。妹の件は昨日の話で理解していたが、アディール王女の事は別だ。

 昨日とは違い、フィリアガーデンの二階は険悪な雰囲気になった。

 その時、その空気を射ち破ったのは、意外な人物だった。

 

「おいおい、いい加減にしろよ、ガキ共。」 

 

 それは、ずっと黙っていたジョージの父、クリス=ジョルジャだった。

 このガキ共とは誰の事まで含むのかは定かではないが、少なくとも十代組の事だろうな、とエキナセアは思った。

 私もこんなシチュエーションで、誰のことかを特定されずに、ある人達の事を、バカ共! とか呼んでみたいなと、ふと元々の家族の事を想像してしまった。

 そして今はそんな場合ではないと思い直し、顔をキュッと引き締めた。

  

「リアム様はお嬢がかわいくてたまんなくて、単にからかってるだけだろう。それに、リアム様の大切な方って、亡くなったご母堂様の代わりに育ててくれた、家庭教師の先生の事だろうが。わかってて、わざと誤解されるような言い方はやめろ。」

 

 全員驚いて一斉に店長の顔を見た。

 

 フィリア組が驚いたのは、店長が苦手にしているリアムをかばったからだ。

 そして都の二人は、大切な方というのが育ての親だった、という事実のためである。 

 

「それはそうですが、お嬢様だけが悪人で、薬を貰ったレアム様の方は善人だなんて、とてもじゃないが納得出来ないものですから、つい。」 

 

 ついだと? 

 頭が良くて全て計算して事を進められるノアが、ついうっかりものを言う訳がないと、エキナセアとジョージは思った。 

 

「本当にエキナセア嬢には感謝とともに、申し訳なく思います。エキナセア嬢が悪人だなんて、とんでもないことです。ただ、病人を助けてくれただけです。」

 

 レアムの言葉に、ノアは眉を少しつり上げた。

 

「うちから薬を買っていく商人達もみんなそうですよ。病気で苦しんでいる者の家族から依頼されて来るんですよ。

 貴方の国では、医療魔術師の数が少なくなっているそうですね。なかなか治療を受けられずに困っている者が多い、と聞いています。

 それに貴方の大切な方のように、薬でなければ治らない病もありますしね。

 大切な者を助けたいと思うのは、貴族だろうが、金持ちだろうが、庶民だろうが、皆同じです。

 もし助ける方法があるのなら、それが法を犯す事であろうが、試したいと望んでいる人達は沢山いるんですよ。」

 

 いつも冷静なノアの口調が早くなった。そして、凍り付くような冷たい声で、最後にこう言った。

 

「そんな人達を助ける事が悪事だというのなら、それはそれで構いません。但し、善人のリアム様はフィリア家とは、今後一切関わらないでください。レアム先生とは、屋敷の外でお付き合い下さい。」

 

 ノアの強く激しい言葉に、リアムは衝撃を受けた。

 今まで自分はフィリア家の人達と友好的な付き合いをしているつもりだったからだ。

 特に十代の若者達の事は、実の弟や妹のように思っていた。

 

 しかし、リアムはノアの母親が、エンチャントの医療魔術師の治療を受けられずに亡くなった事を知らなかった。妻を亡くした後、父親がどうなったのかも。 

 そして・・・・・

 

「リアム様、あんた、うちがエンチャントと薬の貿易が始まってから、エキナセアお嬢様がどんなに辛い思いをしたか知らないだろう。 

 自分がきっかけでみんなに法を犯させてしまった。これが明るみになってフィリア家に害が及んだらどうしよう、自分はどう責任をとればいいんだろう。って、毎晩一人で泣いてたんだぞ。

 まだ十一か十二くらいにしかならなかった女の子が。体調だってまだ完全に回復しきっていなかったのに。

 そして、そんなお嬢様をただ見守る事しか出来なかった俺達の気持ちが、あんたにわかるか? 今更貿易やめても、今度は病人を見殺しする事になって、お嬢様はもっと苦しむ事になんだから。」

 

 ジョージの言葉に、リッカルドは一昨日エキナセアが呟いた言葉を思い出した。

  

「助けなければ良かった・・・」

 

 冗談のように呟いた言葉に、あの時は驚いた。

 心根の優しいエキナセアの言葉とは到底思えなかったからだ。しかし、そういうことだったのかと、合点がいった。 

 

「知らなかった。すまなかった。本当に申し訳ない。」

 

 リアムは深々と頭を下げた。

 

「誰に対して申し訳ないと思っているんですか? エキナセアお嬢様にですか、フィリア家にですか、それとも自国の民にですか?」

 

 エドモントがリアムを冷やかな目で見つめながら尋ねた。

 

「もちろん、その全てに対してです。自国のために見聞を広めようと遊学していたつもりでしたが、結局肝心の自国の事を知らなかった、という事ですね。灯台もと暗しとはよく言ったものです。」

 

 自虐的にリアムは笑った。

 本当に自分が情けなかった。

 医術魔法使い不足については、ずっと悩んでいて、どうにかして対策をしなければとは考えていた。

 しかし、現実の国民の苦しみには思い至らなかった。

 先生の病気の時は自分だってあんなに辛い思いをした筈なのに、どうしてそれを忘れてしまったのか。

 

「それで、これからどうするおつもりですか?」

 

「フィリア家にこのまま法律違反をさせるわけにはいきません。正式に国同士の貿易が始められるように進めたいと思います。」

 

 リアムの返答にエドモントは微笑みを浮かべた。

 

「ようやく今日の本題に入れますね。良かった。でもその前に、気分転換にお茶でも頂きましょうかね。」


 

 

 

誰も悪くないのに、傷付いている人々を描くのは、書いていて、少し辛かったです。

特にリアムが少し、かわいそうになりました。

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