15 天才との出会いと古代文字
とうとう、異世界ものらしく、魔物の話が出てきます!
ユニフォーミティ王国にエンチャント皇国からの書簡が届いたのは、アディール王女が帰国して十日程後の事だった。
遅すぎる!
長老だけでなく国の重臣達は怒りや苛立ちを隠せなかった。
しかし、リッカルドには想定内の事だった。
今現在、エンチャント皇国にはブレーンがいない。
アディール王女の見合い相手だった、次期皇帝候補のジュール=リアム=エンチャントが、外遊中で国内にはいないという事は、エキナセアの情報で知っている。
トップのいない烏合の衆の集まりでは、今回の問題の対策がとれるとは、とても思えない。
事の重大さは流石にわかるだろうから、取り敢えず詫びを入れようと、すぐに書簡を送ろうとはしただろう。
しかし、恐らくその中身は詫び状の体をなしていなかったのだろう。今までの対応を見ても、意味もなくプライドだけは高そうだから。
そんな内容では、トールキャッスルを通過するはずはない。
相手国の気持ちを逆なでしては、諍いのもとになってしまうからだ。
恐らく何度も指導や書き直しを命じられたに違いない。
東西南北にあるトールキャッスルは、ただの関所でない。
四つのトールキャッスルの頂点に立つ仲裁人達は、ユニフォーミティ王国を含む四つの国を纏める役目を担っている。
決して支配しているわけではないが、事実上この大陸の頂点の位置付けだ。
何故それだけの力があるのかと言うと、仲裁人達は魔の森の魔物達を支配下に置いているからだ。
大昔、四つの国々が己れの欲望のために争いをはじめた事があった。
その時四つのトールキャッスルが仲裁に入ったのだが、四つの国々は争っていた筈なのに、密約をしていたのか、時を同じくして四つのトールキャッスルを襲った。
しかし、すぐさま魔物達の襲撃を受け、四つの国の都はあっという間に焼き払われてしまった。
王族は皆あっさりと降伏したが、魔物達の怒りはおさまらなかった。
森から、山から、川から、魔物達が押し寄せた。
四つの国の王族達は慌てふためき、取り乱し、国中から若い娘を手当たり次第に集めて、生け贄に差し出そうとした。
しかし、それがかえって魔物達の怒りを更に増幅させた。
天空を数多のレッドドラゴンが飛び回った。
そして、王族の男達を見つけ出しては鋭い前足で捕らえ、魔の森へと連れ去った。
その後、四つの国々は魔物とトールキャッスルに従順を示す為、王宮やその他の建物を、トールキャッスルより低い上二階、地下一階建てまでにする事にした。
そして元々城のあった場所は公園にし、人々の記憶にとどまるように大きな石碑を建てて、そこに懺悔文字を刻んだのだった。
人の命を軽視し、仲裁人の言葉に聞く耳をも持たなくなった愚かさ、奢り、傲慢さに対する、後悔と贖罪。そして、改めて思い知った平和の大切さと、国境のない未来への渇望を。
ユニフォーミティ王国の城址跡公園は、都の中心から少し離れた高い丘の上にある。
国民ならば必ず一度は訪れる場所だ。
数年前、その公園の修理修復工事が行われたのだが、その時歴史的な発見があった。
石碑を磨いてみると、二種類の文字が刻まれてあったのだ。
一つは古代文字であったので、現代では読める者が誰もいないし、石碑に関する資料も残されてはいなかった。
しかし、内容は同じなのだろうと皆何となく思い込んだ。
ところがその事にただ一人疑問に思う者がいた。それは当時まだ初等学院の生徒だった、レアム=レア=イーサリアだ。
いくら言語様式が違うとはいえ、どう考えても同じ内容にしては文字数が違い過ぎると。
高等学院へ進むと、独学で古代文字の研究を始めた。
そして大学生になった十七歳の夏休み、見聞を広めるために外国へもあちらこちら旅行していた時の事だ。
三つの国の城址跡公園の石碑が、自国のものと全く同じ文字が刻まれている、という事に気が付いた。まるで判を押したように。
これは偶然の筈がない。
トールキャッスルへの襲撃といい、生け贄の件といい、この石碑の文面といい、仲たがいしている振りをして、その実四つの国々は裏で繋がっていたのか?
色々な疑問が頭の中を駆け巡った。
そしてこの疑問を解決するには、やはり古代文字を解読する必要がある。しかし読める人間はもういない。
どうすればいいのだろう。
レアムが、最後に訪れたアグリ連邦共和国の石碑の前で考え込んでいると、
「君も、その古代文字に興味があるの?」
突然後ろから声をかけられた。
驚いて振り返ると、自分よりもいくらか年下に見える少年が立っていた。
そしてその少年の容姿にまた驚いた。
眩しく、輝き流れるように波立つ銀髪に、赤と青色のオッドアイ。
自国のリュカ王子に匹敵する美少年だ。こちらも性別関係無い美しさだ。
ただ直感で、こちらの美形は一癖ありそうだと思った。怪しげに光っているオッドアイのせいかもしれないが。
「なにをそんなに驚いているの?」
「突然後ろから声をかけられたら、そりゃ驚くさ。」
まさか、美人過ぎて驚いたとも言えない。まあ、言われ慣れてはいるだろうが。
「随分と熱心に見てたけど、君は古代文字が読めるの?」
「いや、読めたらいいなと思ってはいるけど。そう言う君は読めるの?」
「いや、読めない。天才って言われてる僕でも、資料も無しじゃ古代文字は無理だな。」
さらっと自分を天才と言った少年に、やっぱり自分の勘は当たったとレアムは思った。
「天才君、君はどうすればこの石碑の意味が解ると思う?」
「僕の名前はリアム。」
美形少年が名乗った。
「リアム・・・なんか似てるな。私はレアムだ。ユニフォーミティから来た。母国の石碑にもこれと同じ文字が刻まれている。それに・・・」
「他の二か国にも同じ文字がなんだろう? 僕はエンチャント出身だ。ありがとう。後二か国、行かずにそれが分かって助かった。無駄が省けたよ。」
リアムが笑った。本当に眩しい笑顔だ。比喩でも何でもなく。
「君って魔法使いなのかい? 天才って言ったのはそう言う意味?」
この少年、とても庶民には見えないので、もしエンチャント皇国の貴族だとしたら、やはり魔法を使えるのじゃないかと思ってこう聞いてみた。
すると、レアムはムッとした顔で言った。
「確かに僕は魔法使いだけど、天才っていうのは、魔法だけじゃなく、頭、頭脳の方だよ。」
つまり、その言い方だと、魔法の方も天才って事なのかな。
あれ? リアムって、五大公爵家にそんな名前の天才児いがいるって、昨日、エンチャント皇国で聞いたような。
確か、『ジュール=リアム=エンチャント』って名前だった。まさか。
「もしかして、君、公爵家の子?」
するとリアムは不満そうに片眉を上げた。
身元がばれたのが嫌だったのか、子供扱いされたのが嫌だったのか。
「何故それを知っているの?」
「いや、昨日エンチャント領地内で散々君の噂を聞いてたんで、何となくそうかなって。」
「噂? どんな?」
「君なら、私に聞かずとも想像出来るんじゃないのかな。」
レアムがそう言うと、リアムは年相応に笑った。
「そうだね。また、変わり者のジュールが居なくなって、どこか放浪してる。困ったものだ。いつになったら自分の立場を自覚するのか。かな?」
高飛車な奴かと思ったが、そうでもないのか?
取り敢えずこうフォローしてみた。
「君への評価は半々だったよ。凄く悪いのと、凄く良いのと。君って両極端で、扱うのが面倒そうな子みたいだね。」
リアムは美しいそのオッドアイを大きく見開いた。
「僕にそんなこと言った人は、君が初めてだよ。」
「そりゃそうだろうね。私だって自国にいたら、自国の王族に向かって真実は言わないね。不敬罪で捕まるからな。確かに君も王族と同等な身分なんだろうが、私は異国人だし、今いるこの地もどちらにとっても異国だから、不敬罪では捕まらないんじゃないかなって。捕まえる?」
「不敬だなんて思っていないよ。」
リアムは首を左右に振りながら言った。そしてこう質問をしてきた。
「ねぇ、君は何者なの?」
「何者って、ユニフォーミティのただの庶民だよ。で、学生だ。」
レアムは首を傾げて答えた。
ようやく、今までヒロインの話の中にだけ出ていた、メインキャラが二人が登場しました!




