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4話 属性:家事万能


「ただいま」


 学校から徒歩5分程度にある2階建ての1戸建て。

 今は俺とエミリの2人で暮らしている我が家へと帰ってきた。


「おかえりなさい、お兄ちゃん。ご飯にする? お風呂にする?」


 家の奥からエミリがとことこと歩いてきて。まるで新婚の奥さんのような発言を……。


「それとも……ご、ごめん! やっぱり2択!」


 よっぽど恥ずかしかったのか途中で諦めると、赤くなった顔を眩しいものを見たかのように素早く覆い隠した。


「それじゃあご飯で」

「わ、分かった!」


 了承の返事をすると、逃げるようにキッチンの方へと姿を消した。と思ったらすぐに戻ってきた。


「か、鞄。預かるね」

「別に大丈夫だぞ?」

「いいから!」


 突き出している両手に、鞄の持ち手をかけてやる。


「重っ」


 エミリは鞄に体を持っていかれながらも、なんとか持ち直し胸に抱える。


「何が入ってるの?」

「高校2年生ともなれば習う内容も格段に難しくなり、必要なものも増えるんだよ」

「……じーーーーっ」


 効果音付きで、胡散臭そうな目で見られた。

 肩をすくめてみたが逆効果だったようで。エミリは抱えていた鞄をそのまま下ろし、おもむろに開く。

 まぁ中に入っているのはオカ研に置いてあった漫画とラノベな訳で。


「……武川たけかわ君? あなたは学校に何をしに行っているの?」

「はい、金澤かなざわ先生。勉学に励むために行っています」

「……よく真顔で言えたね……」


 小さな先生はプンプン言いつつも、鞄を振り子のようにしながら俺の部屋まで運んでくれた。




-x-x-x-x-x-x-x-x-x-x-x-




 突然だが、エミリはものすごく家事能力が高い。

 これはエミリが家事万能の属性を持っているからで、しっかり者の義妹いもうとに美味しい料理を作って欲しいという、言ってしまえば俺の趣味によるものなのだが。

 この家事万能という属性が魔法のある異世界の基準で生まれたため。常識の範疇から大きくズレた代物となっている。


「お兄ちゃん、何食べたい?」


 俺が帰ってきたときに聞いた、ご飯かお風呂かという質問は基本的にはご飯が出来ていてお風呂も湧いている時に使われる文言であり。その後に食べたいものを聞くというのはかなりの暴挙に思えるが、エミリの場合は何も問題無い。

 結論から言えば、何も用意がなされていないとしても食べたいものを言えば数秒で作り上げるからだ。材料があるとか無いとかそんな問題はエミリの前では些細なことだ。


「今日はエミリが入学式を迎えたんだから、エミリの好きなのでいいぞ? なんなら、食べに行くか?」

「いいよいいよ、私はお兄ちゃんが食べたいものが作りたいの」


 ハニカミながら、可愛いことを言ってくれるエミリ。

 義妹の優しさに、ついつい俺も笑顔になる。


「じゃあ、北京ダックが食べたい」

「いいけど……。お兄ちゃん、なんでそんな悪い顔してるの?」


 北京ダックは調理にかなりの時間を労する上に、ダックと言うからにはそもそもアヒルが必要な料理。一般家庭の台所にアヒルが常備されているわけもな


「出来たよー?」


 出来たんだ……。


 机の上にドンッと乗せられた巨大な鳥肉。赤く光るその皮は芸術作品のよう……。

 鶏肉を使ったそれっぽい料理ならまだしも、どう見ても本物だ。いや、鳥の違いなんかわからないし、もしかしたら鶏かもしれないが、鶏1羽まるごと家にある時点でおかしいだろう。


「……ビーフシチューが食べたい」

「うん、ちょっと待っててね?」


 そう言ってエミリはキッチンに向かっていった。

 まぁ北京ダックは手順なんてすっ飛ばしてサラッと焼いただけだとすれば、それでもおかしいがいいだろう。煮込み料理な


「はい、ビーフシチューお待たせ」


 お待たせが嫌味に聞こえてきた。


「握り寿司が食べたい!」

「ふふっ、そう言うと思って握っておいたんだ」


 そう言うと思ってたんだ……。




-x-x-x-x-x-x-x-x-x-x-x-




 見事な和洋折衷、豪華絢爛な食卓が出来上がり、エミリと一緒に舌鼓を打つ。

 味は当然のようにメチャクチャ美味しかった。


「私の新入生代表の挨拶、ちゃんと見ててくれた?」

「あぁ、見てたよ、立派だった」

「違うとこ見てた気がするんだけどなぁ」

「立派すぎて、直視出来なかったんだ」

「……またそんなこと言って」


 エミリはジトッとした目をしながら、ビーフシチューを一口飲み込んだ。


「お兄ちゃんは、今日もオカ研に顔出してたんだよね?」

「あぁ」

「オカ研って何してるの?」

「俺はラノベ読んでたけど?」

「お兄ちゃん以外で」

「校庭を7週くらいはしてたかなぁ?」

「何してるの!?」


 生きるか死ぬかの追いかけっこかなぁ?


「それでお兄ちゃん、私もオカ研に入りたいんだけど……」

「よく今の話を聞いて入りたいと思ったな」

「ほ、ほら。私体動かすの好きだし」


 まるで自分の発言の証明をするかのように、体をワタワタと動かす。

 体が動かしたいのなら、陸上部に行くべきな気もするけど……。


「それじゃあ、オカ研に入りたいという意思は変わらないということでいいんだな?」

「あれ? 私、前に言ったことあったっけ?」

「……無かったか。あれだ、以心伝心というやつだ」

「心がつながってるんだね……」


 エミリは嬉しそうに、胸に手を当てていた。


 オカ研にエミリが参入か。

 理乃との衝突をなんとかしないとなぁ……。


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