3話 脈なし。
学校のとある1室。
お世辞にも広いとは言えない、その部屋には、大量のラノベや漫画。そして、なぜか水晶やら人間の腕のようなものが置かれている。
まぁそれらの不気味なアイテムこそが、この部屋に本来あるべきものなのだが。
オカルト研究部。
毎年、細々ながらも部員を獲得し。なんやかんや部として残っていたオカ研であったが。運命の歯車でもズレたのか、部員が0になり廃部になりそうだったところを、心優しい俺が超私的理由で滑り込み。心置きなく私物化した部だ。
何で出来ているのか、銀色に輝くシャレコウベが美少女フィギュアに挟まれ、恨めしそうに俺を見ている気がするが知ったこっちゃない。廃棄されなかっただけ感謝してほしいくらいだ。
そんなオカ研も俺の人徳によって部員を3人にまで増やした。後は我が義妹たるエミリが入りたがってたし、他にもう1人入る予定だから、まぁ部としての面目は保てることだろう。
部活動の時間をいつもどおりにラノベを読んで過ごしていると、扉が開いた。
「あれ、武川1人? あのバカはどこいったのよ?」
この部室には俺しか居ないから、武川と呼ばれたのはもちろん俺だ。
現れたのは残り2人の部員のうちバカじゃない方。いや、バカじゃないというと語弊があるが……。
勝ち気な目に真っ赤なツインテール。身長や体つきはエミリを一回り大きくしたくらいで。自信満々な態度が特徴的だ。
赤羽根理乃。クラスメイトで部活仲間で俺のヒロイン。
「友和なら、ノラ猫追いかけてどっかいったぞ?」
「……なに、あいつ猫好きだったの?」
いや、ファッションとして取り入れるって言ってたけど。
「来ないなら……2人きりってことよね?」
「まぁ、そうだな」
理乃は少し嬉しそうな顔をしながら、裏手で扉を閉めると、いくつかある椅子の中でも俺の隣の椅子に座ろうとして。
「いやー。猫って足早えんだなぁ」
「アタシ窓開けるわね!」
友和が来たのを見ると、慌てて離れ、発言通りの行動をとった後に、俺の対角線上の席に座った。
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「そんなわけで、猫を捕らえるのには失敗したわけよ」
「そうか」
友和の口から放たれる、生産性の欠片もない話をキレイに聞き流す。
理乃は俺らの会話など興味も無いように、そこらの棚から取り出した漫画に目を落としてながらも、ちょくちょく俺の方に視線を送ってくる。
「幸雄、猫を捕まえる以外の方法を伝授してくれ」
「誰も猫を捕まえろなんて言ってないだろう。それに、俺の意見は今朝言っただろう?」
「そうだったな。ポジティブポジティブ……」
友和は目をつむり、頭を回転させる。首を使って。物理的に。
……目回るぞ?
そして、ピタッと止まったかと思うと。
「猫は捕まらなかったけど、いっぱい走ったから脚力がついた!」
両手を上げて、高らかにそう宣言した。
視界の隅では、理乃がチラッとこちらを見たあと、つまらないものを見たように視線を戻していた。
「……そうだな」
「…………なぁ幸雄。まだか?」
「………………なにがだ?」
「いや、そろそろかわいい女の子が告白にこないかと」
「そろそろ無視していいか?」
一日に摂取していいバカ成分の量がオーバーしそうだ。
「何が悪いんだ……」
「相手から来ないなら、自分のほうから動けばいいだろ?」
「なるほど」
友和はてこてこと理乃のところまで歩いていき。
「赤羽根、結婚してくれ」
「死になさい」
それだけ言われると、またてこてこと戻ってきた。
ていうかそんなに広くもない室内なんだから、動かなくても会話くらいできるだろうに。
「なぁ、自分から動いたら死になさいって言われたんだが」
「あぁ、見てたし聞いてたよ」
「脈ありかな?」
「お前の脳へと続く血管が脈なしだな」
脳がまともに機能してるとは思えない。
「それって、俺、脳死してない?」
「ほら、ポジティブポジティブ」
「心臓動いててHappy!」
「俺に言ってどうするんだ」
「確かに」
友和はてこてこと理乃のところまで歩いていき。
「心臓動いててHappy!」
「そうね、今すぐUnhappyにしてあげるわ」
それだけ言われると、またてこてこと戻ってきた。
その間にも、理乃が友和を不幸にするための道具の選別に入っている。
「なぁ、喜びを分かち合おうとしたら、不幸せにしてやるって言われたんだが」
「あぁ、早く逃げたほうがいいんじゃないか?」
「脈ありかな?」
「そろそろ脈なしだな」
さらば友和。
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理乃が友和を追いかけて行き、静かになった部室。
新しく入る予定の人のために、少し模様替えをしておこうと思う。
いままでおいてあった漫画やラノベを抜き取り。
新しく買っておいた漫画や小説を隙間に入れる。
「よし」
俺はもともと置いてあった本達を鞄に詰め込むと、ラノベを読む作業に戻った。