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剣と魔法と富豪冒険者  作者: パラケルスス
第5話 旧ドワーフ坑道
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10. 2人の母

 それから2日経ち、体調は良くなったが、マナは枯渇したままだった。俺はエイマス・サラ女王陛下に呼び出され、応接室で二人きりになった。エイマス・サラ女王陛下に、「そなたの中にいた精霊はどうなりましたか?」と訊かれた。精霊とはパラゴのことだ。「マナがなくなった時、消滅したようです」と答えると、「エルフ族は(けい)を、引き続き人間族の大使として迎えるつもりです」と、魔法を使えない()()()()俺に、ずいぶん寛大なことを言った。「ありがとうございます。ところで、消滅した竜については、なにかご存じでしたら、教えていただけませんか?」と言うと、エイマス・サラ女王陛下は、表情一つ変えずに、「巨大なマナを持つ竜は、元来、一つの地にとどまりません。移動しながら、文明に繁栄をもたらします。傷ついていたとはいえ、200年もの間、人の地の近くに竜がいました。その間に、人間族の社会に何があったか考えてみればわかるでしょう」と言った。たしかに、竜が人間族の近くにいた200年の間に文明は開花した。魔法を覚え、エルフ族から成熟した種族とみなされるようにもなった。

「そうですか。竜が死んで、これからどうなるのでしょう?」と言うと、エイマス・サラ女王陛下は、「竜が死んだという確認は取れていません」と言いきった。竜は消滅しただけで、死んでいないという意味だろうか? これ以上はなにも教えてくれなさそうなので、俺は話を変え、「このたびは、すっかりお世話になりました。そろそろ王国に戻りたいと思います」と言うと、「(けい)のこれまでの行動は信頼に値します。引き続き、エルフ族と人間族の仲介役となってください」と言われ、「ありがとうございます」と答えた。そして、エイマス・サラ女王陛下が、「ときにネイト殿は、マナによる浸食と私の魔法とで均衡を保っています。エルフ族が責任を持って保管し、観察しましょう」と言った。保管し、観察する、か。悪気はなかったのかもしれないが、気が沈んだ。

「一つお願いがあります。人間族の科学者を、この地に立ち入らせる許可をいただけないでしょうか? ネイトの治療をさせたいと思います」と言うと、エイマス・サラ女王陛下が右眉を上げ、「エルフ族は魔法を能く使います。人間族はエルフ族の魔法以上に、マナを扱えるというのですか?」と言った。「人間族はこの100年の間に、マナをつかった科学技術を進歩させてきました。もしかしたら、ネイトの治療法を見つけられるかもしれません」と言うと、エイマス・サラ女王陛下はしばらく沈黙し、「興味深い。早速、上級院のメンバーと協議しましょう」と約束してくれた。

「エイマス・サラ女王陛下、御息女のエルジャ・サラを危険な目に合わせたことをお詫びます」と言うと、「マリシ卿、エルジャ・サラの中の人間族の血が冒険に挑んだのです。卿が謝ることはありません。それにしても…」と、エイマス・サラ女王陛下が言葉を切り、「マリシ卿は夫ジャービルと似た点がたくさんあります」と言った。どういう意味か考えていると、「能力以上に責任感が強く、ときに非論理的な判断で最善の結果を出します。困難な局面でも、躊躇なく前例のないことに挑戦するのは、エルフ族にはない、人間族の資質なのでしょう」と言った。褒められているのか、けなされているのか、よくわからなかったが、「ありがとうございます。ネイトのことをよろしくお願いします」と言うと、エイマス・サラ女王陛下は何も言わず退室した。


 イリス王妃殿下に今回の顛末を説明するため、エルジャの転移魔法で衛星都市ミラードの領主宅に移動した。最初にエルジャがイリス王妃殿下のところに行き、俺は応接室の外で待っていたが、しばらくして戻ってきたエルジャが、しかめ面をして首を振って合図したので、イリス王妃殿下がご機嫌斜めとわかった。

 エルジャの案内で俺が応接室に入ると、イリス王妃殿下は椅子に座っていた。俺は立ったまま礼をし、「ご無沙汰しております、イリス王妃殿下。予定より帰還が遅れてすみません」と謝ると、イリス王妃殿下は、ご機嫌斜めの表情で、「ずいぶん、心配しました。なにがあったの?」と訊いてきた。

「竜ヶ峰の、ドワーフ族の旧坑道を調査していました。そして、その頂上で竜を見つけたのです。竜はいまにも死にそうで、竜を助けるために竜に刺さった杖を抜きましたが、消えてしまいました」と簡単に説明すると、「なにがあったかは、わかりました。でも、なぜ帰るまでに、こんなに時間がかかったのですか?」と訊かれ、「調査が終わった後、エルフ族の街、エル・キンベに行っていたのです」と答えた。当然、「なぜなのです?」と理由を聞かれ、仕方なく、「僕とネイトが怪我をしました」と答えた。

 イリス王妃殿下の表情が少しこわばり、「それは知りませんでした。大丈夫なのですか?」と言うので、「僕は大丈夫です。ネイトはエルフ族が治療しています。治るには、数十年、あるいは数百年かかるようです」と言うと、イリス王妃殿下が厳しい顔で、「そんな危ない冒険に、Cランク冒険者2人を連れて行ったのですか?」と問いただした。「申し訳ございません」と謝ると、イリス王妃殿下が立ち上がり、俺に近づき、「竜の退治など、Aランク以上の依頼ですよ。マリシ卿やネイト殿が怪我するほどの冒険に、Cランク冒険者と行くなんて、あまりにも無謀です!」と言った。エルジャが、「ママ、マリシさんは悪くないの。今回は不可抗力だったの」と俺をかばい、イリス王妃殿下は大きくため息をついた。

「はぁ。冒険者にはトラブルがつきまるとわかっています。でも、当然、私は心配します。エルジャとマリシ卿の二人分の心配ですよ。すっかり疲れました」と言った。俺は、「申し訳ございません」と謝るしかなかった。イリス王妃殿下が俺の手を取り、心配そうに「本当に身体は大丈夫なの?」と言った。イリス王妃殿下は俺にマナがないことを気づいたのだろうか? 俺は無理に笑顔を作って、「はい、この通り、ピンピンしています」と言うと、イリス王妃殿下はしばらく俺を見つめ、ようやく表情が和らいだ。「少し安心しました。私にとってはエルジャと同じくらい、あなたが大事なのですからね。あんまり心配させないでください」と言われ、余計な心配をかけさせたことを反省し、「申し訳ございません」と繰り返した。

 イリス王妃殿下が口調を変え、「話を変えましょう。此度のミラード難民の移住について、王国は大変感謝しています。マリシ卿が土地を提供してくれたおかげで、大きな混乱もなく、ミラードの罪人は衛星都市から退去させることができました」と言った。「王国の寛大な処置に、ミラード難民は感謝しています」と言うと、イリス王妃殿下が、「減ってしまったミラード市の人口を増やすのに、なにか良いアイディアはありませんか?」と言うので、「今回、ミラード難民が持っていた土地と住居を大量に買いました。そこを家族向け住居にして貸し出すのはどうでしょう? 生活を支援すれば人口が増えるのではないでしょうか?」と答えると、「なるほど。町の区画割りは、シュルツが得意としています。話し合ってください」とイリス王妃殿下が言い、笑みを浮かべて、「シュルツもジュークも、マリシ卿に会いたがっていましたよ」と言った。

「あの2人は、しばらくミラードにいるのですか?」と訊くと、「国王陛下は主要な都市すべてに王国騎士団員と王国魔術団員を配備したいようでしたが、衛星都市から始めることになりました。あの2人は、しばらくここに滞在することになります。2人とも、マリシ卿には恩があると言っていました」と微笑んだ。「わかりました。シュルツ殿と相談します。ところで、カナンから15km、ミラード寄りの地点に交易所を作る予定です。ご許可ください」と言うと、「産業の活性化は大歓迎です。もちろん許可します」と言ってくださったので、「ありがとうございます。衛星都市は衛星都市ミラードの市政にも貢献できるように尽力します」と言った。イリス王妃殿下は、「頼みましたよ。もしマリシ卿が困ることがあれば、いつでも言ってください。卿は私の弟みたいなものですから」と言うと、傍で聞いていたエルジャが、「ママ、子供でしょう?」と言い、イリス王妃殿下が強い口調で、「弟です!」と言った。

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