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剣と魔法と富豪冒険者  作者: パラケルスス
第5話 旧ドワーフ坑道
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6-2. ドワーフ族の旧坑道に行ってみた

 もともとドワーフ族の生活圏だったので、内部に罠があるとは思わなかったが、なにぶん200年前に掘られた坑道なので、壊れている箇所がないか注意して進む必要があった。坑道の中はジメジメした感じはなく、空気も濁っていなかった。わずかに空気の流れがあったので、どこかに換気口があるようだ。土の壁は綺麗に削り取られ、つるつるしていた。

 先に進んで行くと、突如として坑道内が明るくなった。「わー、綺麗!」と、後ろのクロートーが歓声を上げた。坑道の両脇の上と下に、青く輝く4本の光の線がつながり、暗い行動の中を明るく照らした。エルジャが興奮気味に、「これはすごい技術ですよー。マナワラの蔓に銅を絡ませ、マナを流して照明にしています。エルフ族にはない技術なのです」と言うのが聞こえてきた。そして、ミスリル鋼の取引で交流があるドワーフ族から、ドワーフ族の文化の最盛期は200年くらい前と聞いたのを思い出した。ドワーフ族の社会は徒弟制度に徹しているため、なかなか技術を共有できず、今となっては、どうやって作ったのかわからない魔道具もあるそうだ。

 足元が見やすくなったので、ペースを上げて坑道を登った。メーティス先生の装備は足の動きをよくサポートしてくれて、登るのが楽だった。パラゴの表示では、エルジャのスタミナも心配なかった。

 ドワーフ族は人間族よりも背が低いが、それでも140~160㎝はある。そして、ずんぐりした体型だ。だから、人間族の通路は縦長の長方形が多いが、ドワーフ族は横長の長方形の通路のこともあった。この坑道は、鉱石の運搬をしやすいように、横長の楕円形で、ときどき身を屈めなければならなかったが、狭さを感じることはなかった。ドワーフ族がここを去ったときに、どんな状況だったかはわからないが、台車が捨てられていたり、ツルハシが転がっていたりした。

 坑道の左右に部屋が並び、ここは居住地のようだった。どこも扉はなく、部屋に入ってすぐL字に曲がっていて、中が見えないようになっていた。こうして最低限のプライバシーは守ったようだ。


 昼を迎えたころ、坑道の途中で休憩を取ることにした。1,500m程度の山だが、坑道内は入り組んでいるので距離があり、パラゴの情報ではまだ3合目だった。今回は、2日がかりで頂上を目指す予定だ。水筒を手にしたネイトが、「よく整備された坑道です。これが200年前に作られたとは驚きです」と言うので、「ああ。ドワーフ族は、見た目はあんな感じだが、几帳面だ。崩落させないように緻密に坑道を掘っていく。細かい細工は得意だし、料理の腕は凄いからな」と答えた。「それにしても、なぜこの場所を手放したのでしょう。見たところ、坑道内は荒らされた様子がありません」とネイトが周りを見渡した。「さあ、なぁ? ナイキ国王陛下は竜が現れて、ドワーフ族がここを去ったと言っていたが、200年前、竜はここから遠く離れたエルフ族の地で討伐されたという記録もあった。今となっては、真実はわからない」と言うと、エルジャが、「あっ! マリシさん、その話は聞いたことがあります。母上たちがエル・キンベの町に移住する前の話です。暴れる竜にエルフ族の村が潰されました」と食いついてきた。クロートーが興味津々に、「ねえねえ、竜って、そんなに強いの?」と尋ねると、「母上の話では、数百年に一度の天災みたいな存在だそうです。200年前は、エルフ族の若い戦士が竜を倒したと伝説になっています」と言った。クロートーは、「まじ? エルフ族の戦士って、強い竜より強いの?」とどっちが強いかの質問ばかりだ。

 エルジャは、「なんでも竜の弱点を貫き、戦闘不能にしたそうなのです。母上は詳しくは教えてくれませんでした。でも、そのおかげで多くのエルフ族が救われたと聞いたことがあります」と言うと、クロートーは「ふーん」となんだか感心したようだった。十分な休憩を取ったところで、移動を再開した。


 竜ヶ峰の頂上に続く坑道は、ミスリルを採掘するため、隅々まで掘られ、入り組んでいたため、いくつもに分かれる坑道の中から頂上に到達する道を選択し続けるには、パラゴの能力が必要だった。パラゴは、坑道に流れるマナから坑道内全体を把握できるようだ。

 途中で、転がっていた石を手に取ると、石の中の青白い結晶があり、ミスリルのようだった。

(パラゴ、この鉱山のミスリルの含有率はどのくらいだ?)と訊くと、(1トン当たり20gと推定されます)と返ってきた。思わず「嘘だろ…」とつぶやいた。普段、取引しているガダッハ族のミスリル鉱山は、1トン当たり5g程度だ。その4倍、ここの鉱山は宝の山ということになる。いよいよドワーフ族がこの坑道を捨てた理由がわからなくなった。

 なおも坑道を上っていくと、少しルートを外れたところに閉鎖空間があった。(パラゴ、この空間はなんだ)と訊くと、(魔道具で隔離された空間です)と言う。急ぐ調査でもないし、寄ってみるのもいいかも知れない。振り返って、「この脇道に、魔道具で隔離された空間があるようだ。ちょっと行ってみようか?」と声をかけると、3人とも、すぐに同意した。

 脇道を進んでいくと、金属の扉で閉ざされ、行き止まりになった。扉には絵が彫られ、その右側には2列の四角いマスがあり、中の金属板を動かせる仕組みになっていた。これを正しく並び替えれば、扉が開くのだろう。

「また魔道具かよ」とつぶやくと、クロートーが前に進み出て、「今度はあたしにもわかるわよ。左側には『イモ』と『飲み物』が彫られているわね。動かせるのは、えーっと、『小麦』と『毛虫』に、あとはなにかしら?」と言う。エルジャも口を出し、別の模様を指さしながら、「これはきっと『火』ですよ、クロートーさん。でも、この『丸』となにかの『実』は、エルジャにもわからないのです」と言った。じっと見ていたネイトが、「さっきと同じように、文字を使わなくても解けるようになっていると思いますが、鍵がついているということは、一部の者だけがわかるということではないでしょうか?」と言うので、「『イモ』と『飲み物』なら、食べ物に関係あるかもしれないなぁ」と言いながら、もう少しわかりやすくできなかったのだろうかと、考えていると、急にクロートーの顔が明るくなった。

「マリシ、わかったわ! これって『イモ』じゃなくて『パン』よ。作り方の順番に並べればいいんじゃない? あたし、カタリナさんにパンの焼き方習ったのよ。まず小麦粉をこねて、練って、酵母を入れて、丸めて、膨らませて、焼く…。だから、これは『毛虫』じゃなくて、『酵母』よ。この『パン』の隣の金属板の組み合わせ順は、『小麦』『酵母』『火』よ!」と言いながら、クロートーがパネルを並べた。

「じゃあ、こっちの『飲み物』はなにかな?」と言うと、ネイトが、「ドワーフ族はお酒をこよなく愛するとか?」と言い、ハッと思い当たった。「そうか! これは『ビール』だ。『実』は『ホップ』で、麦芽をろ過した後、ホップを加えて煮沸して、『酵母』を入れるはずだ」と気づき、『ビール』の絵の隣に、『ホップ』『火』『酵母』の順に並べた。すると、ガチリと音がして、扉が開いた。

「わー!」と、クロートーが声を上げた。俺も同じ気分だった。中は冷たく、大量の食材が凍っていた。食料を盗まれないように、料理人にだけわかる扉に保管していたらしい。どういう仕組みで温度を下げているのかわからないが、200年前のドワーフ族には氷漬けして食料を保存するという技術があったようだ。そして、今でもマナが供給され、魔道具が動き続けていた。

 クロートーが保存庫から目を離さず、「これって食材よね? まだ食べられるのかしら?」と言うと、慎重なネイトが首を振り、「いくらなんでも200年前の物だ。食べるのはやめた方が良い」と言った。エルジャも、「そ、そうですよ。エルフ族はドワーフ族みたいに頑丈にできていません。あたしには無理なのです」と言った。

 クロートーは、「ねえねえ、マリシはどうする」と話を振ってきた。「んっ? そうだなぁ。俺は、ちょっと食べてみたい気がする」と答えると、クロートーが満面の笑みを浮かべ、「そうでしょう? あたしも食べてみたいわよ!」と言った。するとネイトが小声で、「むっ。マリシ様になにかあったら困るので私が毒味します」と言い、クロートーは呆れたように、「またまた、ネイト先輩はそうやってポイント稼ぐ。心配なら食べなくていいのよ。あたしとマリシで食べるんだから」と言った。

 クロートーは食糧庫に入り、「うーっ、寒っ! マリシ、この樽ってもしかしてお酒かも」と震えながら、霜のついた小さな樽を持ち上げて振ると、中から、たぷたぷと液体の音がした。これだけ冷やしても凍っていないのなら酒だろう。ドワーフ族の料理人は、勝手に飲み食いされたくない食材を、ここに保存していたようだ。

「アルコール度数が高いんじゃないか? ドワーフ族の酒だし」と言うと、「じゃあ、持って行こうっと! 冷たっ!」と言いながら、食糧庫を念入りに物色し、得体の知れない酒樽と食料を運び出した。食糧庫の扉を閉めると、扉の前のパネルが再びバラバラになり、鍵がかかった。「あー、なんだか残していくのがもったいないものもたくさんあったわ」と言いながら、クロートーは背負子を降して、荷物を積んだ。

「クロートー、ただでさえ天井の低い坑道なんだ。あんまり荷物を積み上げるとぶつかるぞ」と忠告すると、「それもそうね。少し分散するわ」と言って、両脇にも荷物を縛り付けた。ずんぐりしたドワーフ族が通れる坑道なので、スリムなクロートーの横幅が拡がっても、十分に移動できそうだった。その様子を、ネイトとエルジャが呆れたように見つめていた。


 それから3時間、坑道の中を歩き続け、竜ヶ峰の5合目辺りまでいくと、エルジャが疲れてきていたので、野営地を探した。(パラゴ、この辺りにドワーフ族の居住地はあるか?)と調べさせると、(この先に拓けた場所があります)という答えと共に、地図が頭に浮かんだ。パラゴの指示に従って先に進むと、再び扉で閉ざされた場所に来た。扉には模様の書かれた5つの窪みが4列になって並んでいた。今度は絵が描かれておらず、5つの模様から1つを選び、4列組み合わせるらしい。つまり、パスワードを知る者だけが入れるようだ。 

「困ったな、これだと開け方がわからない」と言うと、クロートーが「全部の組み合わせを試してみればいいんじゃない?」と言い、ネイトがすぐに「625通りだ」と答えた。エルジャが、「ちょっと待ってください。よく使われていた窪みをみつけて、それから試しましょーう」と呪文を唱え、マナの残留の多い窪みが淡く光った。「えっとー、これ、これ、これ、ね」と、エルジャが次々に窪みを押すと、ガタガタと扉が動き出した。「さすがだな。一発で正解にたどり着いた」と感心すると、「褒められちゃったー!」とエルジャとクロートーがハイタッチした。

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