6-1. ドワーフ族の旧坑道に行ってみた
俺とネイトは竜を調査するプランを練った。竜が住むという竜ヶ峰は、上に行くほど、せり出すような形になっていて、登頂が難しく、過去の調査チームはここで失敗したらしい。だから、山の中にあるドワーフ族の旧坑道を抜けて、頂上に行くルートを選んだ。もう200年以上、使われていないはずだが、ドワーフ族が掘ったのであれば、内部はしっかりしているだろう。
竜についても調べた。古い文献によると、体長5mくらいで、四つ足に翼があり、空を飛ぶという。しかし、なにを食べるのか、どのくらい生きるのか、どのくらい知能があるのかは謎だった。竜がどんな生き物なのかは、大きく分けて2つの説があり、一つは生き物を殺し、建物を壊してまわる、破壊の象徴のような竜、もう一つは文明を豊かにする、神格化された竜だった。つまり、真逆だ。
エルフ族の住む場所にも、ドワーフ族の住む場所にも、竜が姿を現したことがあるようだが、最後に目撃されたのは、今から200年ぐらい前で、ちょうどドワーフ族がカナンの坑道を捨てた時期と一致した。ただし、目撃された場所はエルフ族の街で、破壊の限りを尽くした竜が、エルフ族によって退治されたと簡単な記述があるだけだった。そもそもエルフ族に関する情報は少なく、この記述はエルフ族の話を聞いたホビット族が、酒の席でドワーフ族に話したそうなので、本当か嘘かわからなかった。
竜の弱点は首の付け根の、一枚だけ鱗が逆さまについている逆鱗という場所だそうだ。生物学的に、一枚だけ鱗が逆に並ぶことはないだろうから、模様があるのか、鱗がないか、とにかく見てわかる場所にあるのだろう。その一点を攻撃するとしたら、ネイトの矢、クロートーの投石、そしてエルジャの魔法だろうか?
イリス王妃殿下が衛星都市ミラードに到着してから数日後、「御当主、エルジャと名乗る女性が見えています」とレイノスが告げた。「すぐに通してくれ、同じ冒険者パーティーのメンバーだ」と言うと、エルジャがやってきた。俺がプレゼントした猫目石の嵌めこまれた杖を持ち、とんがり帽子に、裾の短い黒いワンピースを着ていた。見た目はコスプレイヤーのようだが、中身はとてつもない魔術師だ。「お久しぶりなのでーす!」と元気よく言うと、クロートーが、「元気にしていた?」と再会を喜び、ネイトも顔をほころばせた。
みんなが揃ったところで、「今、ネイトと一緒に竜を調査する計画を立てているんだが、クロートーとエルジャもメンバーに入るか?」と訊くと、クロートーが、「当り前じゃない! だいたい、いつまでマリシとネイト先輩だけの冒険者パーティーでいるわけ? いい加減、あたしを入れてくれてよね」と文句を言った。「それは、また今度、話し合えばいいだろ。エルジャは?」と訊くと、「もちろん、加わらせてください。ありがとうございまーす。ママもマリシさんとの仕事は許してくれるのです」と言った。
カナンの村への移動準備にかかりきりになっていたメーティス先生も居間に顔を出し、「あら? エルジャちゃん、久しぶり。元気そうね。エルジャちゃんの装備も準備してあるわよ」と言った。エルジャが目を輝かせ、「ありがとうございます! もしかして、新しい機能とかついているのですか?」と訊くと、メーティス先生はにやりと笑い、「防具はラストニア合金繊維を使った『重軽装』冒険服5番を採用したわ。今回は山登りみたいだから、膝と股関節の運動をアシストするようにしてあるのよ。エルジャちゃんにぴったりな機能と思うわ」と言う。
「それは、楽しみなのです! マリシさん、竜ヶ峰を登るのですか?」と訊かれ、「ああ。竜ヶ峰は、この前、ナイキ国王陛下がおっしゃっていた竜が住むという言い伝えのある山だ。その頂上まで行くのに、ドワーフ族が捨てたミスリル鉱山の中を登ろうと思っている。ドワーフ族が残した旧坑道の調査と竜の調査と一石二鳥だろう?」と言うと、エルジャが「それは、ワクワクなのですー!」と言い、クロートーが「ドキドキなのです!」と真似をした。またこれが始まるのかと、ちょっとうんざりした。
3日後、2台のゴーレム馬車に、俺とネイト、エルジャとクロートーがペアになって乗り込み、カナンの村に移動した。領主宅に荷物を降ろし、今度は一台のゴーレム馬車に乗り変えて、南西にあるドワーフ族の旧坑道に向かった。キンベ山脈の裾野を走り、15分くらいで到着した。200年も放置されていた場所なので、もう道はなく、パラゴのアシストがなければたどり着けなかった。
崖下の大きな金属の扉の前に立ち、「たぶん、ここが坑道の入り口だ」といって、扉についた蔦を、慎重に取り除いた。扉の表面には、見事な彫金が施されていた。クロートーが興味深そうに彫金を見ながら、「これ、なにが彫ってあるの?」と言った。太陽、三日月、そして丸い星が描かれた3つの円盤が嵌め込まれ、3つの円盤の中心に三角形の山の絵があり、円盤は回せるようになっていた。
「なんだかわからないけど、この模様に扉を開けるヒントがあるはずだ。ドワーフ族はそういう魔道具を作るんだ」と言うと、「マリシさん、説明とか書いていないのですか?」とエルジャが訊くので、「ないだろうな。ドワーフ族は文字を使わないから」と答えた。
「ええーっ? ドワーフ族の文化には、文字がないのですか?」とエルジャが驚いた声を上げた。「文字はあるぞ。あるけれど、ほとんど使わないんだ。だから、記録の類いも残っていない。親方を頂点に、いろいろなことを下の者に教え込む、極端な徒弟制度の社会だな。人間族みたいに、親方、職人、徒弟の3つの階級だけじゃなく、ずっと細かく分かれているそうだ。この扉も、ドワーフ族ならだれでも開けられるようなカラクリにしているはずだ」と教えた。
坑道の扉は、どんな金属で作られているのかわからないが、200年間、風雨にさらされていたというのにまったく錆びていなかった。円盤の中心の三角形の山の絵に触り、「これはキンベ山脈を表わしているんだろうな」というと、ネイトが、「山の下に描かれているのは小麦ではないでしょうか?」と言った。確かに山の右下に麦の絵があった。
エルジャが、山の左上にある星の絵を指さし、「マリシさん、この星は、たぶん南極星です。南の高いところに位置して、夜の間、動きません」と言った。最後にクロートーが、「この円盤の絵は、さやえんどうと豆じゃない?」と言い、ずっこけた。「なんで星の近くにさやえんどうが浮かんでいるんだよ。これは、おそらく三日月だ。これが太陽、これが南極星、そして三日月で、円盤にあるもう一つの円も星だろう」と指摘すると、「み、みんなが行き詰っているみたいだから、和ませようとして、冗談を言ったのよ」とクロートーが誤魔化した。
ネイトが、「これは小麦の収穫期の天体を組み合わせろということではないでしょうか?」と言った。「なるほど。ドワーフ族の料理や食材に関する知識は人間よりもずっと豊富だ」と言い、(パラゴ、200年前の小麦の収穫期の天体の位置についてわかるか? この彫金に記された南極星と星、それに太陽と三日月が見える時期だ)と問いかけた。
(宿主様、この星はこの時期にだけ見える一等星です。イメージを提示します)と言い、頭の中に天体図が浮かんだ。その通りに3つの円盤を回し、キンベ山脈と南極星を中心に、太陽と三日月、そして一等星を並べた。なにも起こらず、エルジャが「間違っているのかなー。もしかして、壊れているのかなー」とつぶやいた時、ガタガタと音がし、ゆっくりと扉が開いた。2枚の扉の接していた部分は、美しいカーブを描いてぴったりくっついていて、境目がわからなかった。200年以上前のドワーフ族の技術力の高さがわかった。
「よし。入るか。俺が先頭で、エルジャ、クロートー、ネイトの順について来てくれ。なにかあったら、声をかけてくれ」という俺の言葉に3人が頷いた。




