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剣と魔法と富豪冒険者  作者: パラケルスス
第5話 旧ドワーフ坑道
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4-1. カナンの村への移住は楽ではなかった

 カナンの村から衛星都市ミラードへは3時間ですんだ。そのまま第8区画の屋敷に戻ると、レイノスが俺たちの帰りを待っていた。「お疲れさまでした。早速ですが、2頭立ての幌馬車10台を準備しました。御者経験者は8人で、それとは別に御者希望のミラード難民が6人います」と報告を受けた。「ありがとう。今朝、カナンの村のヨサイ村長と村民に挨拶してきたよ。移住希望者の台帳作りは順調ですか?」と訊くと、「はい。1,000人近いミラード難民が移住を希望しています」と、想定以上の数になっていた。「思ったより多いな。急ぎ廃屋を修理しないと、村に住む家がない」と言うと、レイノスが頷き、「移住希望者から、第一陣として50人を選びました。大工とカナン警備隊のアキレス隊長、それに生活を立ち上げられる女性です」と言った。たった1日でここまで準備するとは、仕事の早い男だ。

「ありがとう。明日の朝、連れて行こう。俺の幌馬車は振動が少ないし、馬力があるから、他の馬車の倍の荷物をこっちに乗せてくれ」と指示すると、「これはお耳に入れたおいた方が良いと思います。王妃殿下が衛星都市の領主として赴任するまでにミラード兵の親族は退去するように、と通達があったそうです」と言った。ネイトが、「王妃殿下が赴任するのはいつか、ご存知ですか?」と訊き、レイノスが「今日を含めて10日後です」と答えた。

 思わず足をとめ、「それまでにミラードの難民を衛星都市から退去させて、カナンに受け入れないとならないのか?」と驚く俺に、「あまり時間がございません」とレイノスが答えた。「予定変更で、今から村に行くことにしよう」と言うと、「すでに馬車に大工たちの荷物も積みこんでいます。第一陣はお屋敷に待機させております。人数分の弁当も用意しました」と準備はできていた。本当に優秀な執事だ。「時間がないから俺とネイトはそれぞれに動こう。俺とクロートーは…」とまで言って、俺をじっと見るネイトの視線に気づき、「俺とクロートーとネイトはカナンの村に行こう」と言い直して難を逃れた。


 御者たちを集め、地図を見せながらカナンの村までの道を説明した。御者頭はリーンという30代後半の痩せた男で、この道20年だという。カナンの村までの方向を伝え、キンベ山脈の麓だというと、だいたいの行程を理解したようだった。普通の馬車の速度に合わせて移動すれば、なんとか夜までに村に到着する計算だ。

 俺とネイトとクロートーは御者台に乗り込んだ。ゴーレム馬が牽く幌馬車の床には、小麦粉やトウモロコシの種の入った袋を敷き詰め、その上に女性10人が乗った。御者台から「明日の午前中もカナンの村に行くつもりだから、次の手配を頼む」とレイノスに言うと、「承知しました」と一礼した。

 さっき通った道を、10台の馬車を率いて移動した。どの馬も、スピードは遅いがタフだった。休憩のたびに、村の区割り計画を書いた紙を見せ、大工たちにやるべきことを理解させた。大工の棟梁はロベンタと言う40歳ぐらいの男で、身体も、声も大きかったが、腕は確からしく、若い大工に尊敬されていた。「領主殿、一本の柱の端から端まで、鉋屑(かんなくず)が途切れることなく出せるのは、俺くらいですよ、わはは」と豪快に笑っていた。

 第一陣の中にはカタリナ女史もいて、休憩中にボードウォーク公の妻だったと告げられた。カタリナ女史の話しだと、ボードウォーク公の様子がおかしくなったのはずいぶん前で、カタリナ女史を遠ざけ、周りにおかしな者を置くようになったそうだ。まさかダークエルフ族が夫になり代わっていたと思わず、夫を信じきれなかったことを悔いていた。そして、夫の無念を晴らしてくれた俺に感謝すると言い、これからは聖職者として神に身を捧げると言った。俺はカタリナ女史にも村の区割り計画書を見せ、神殿ができたら、その管理をお願いしたいとお願いした。


 20時ごろ、カナンの村に到着し、野営用のテントを大工と御者たちに使わせ、領主宅には、クロートーと女性たちが寝ることになった。困ることがあればアキレス隊長の指示を仰げとクロートーに告げ、俺とネイトは再び衛星都市ミラードに戻った。

 ネイトは幌馬車には入らず、俺と御者台に並ぶと、「星がきれいです」とつぶやいた。まさか、ネイトが、こういう感想を言うとは思っていなかった。夜風が冷たかったので、ゴーレム馬を止めて、幌馬車から毛布を引っ張り出し、ネイトに渡した。「眠れるようなら眠っておけ」と声をかけて、再び手綱にマナを流し、ゴーレム馬を起動した。ネイトは頭から毛布をかぶり、ずっと夜空を見ていた。


 ミラード難民が衛星都市を退去する期限まで、あと9日となった朝、起きた時には幌馬車に荷物が積まれており、10人の大工と一緒に移動することになっていた。なにからなにまでレイノスの差配だ。ネイトは、冒険者ギルド支部に行き、護衛の仕事に応募してきた冒険者と面接する予定だった。

 11時前にカナンの村に到着すると、廃屋の屋根で作業する大工のロベンタを見かけた。「なんとか使えそうですか?」と声をかけると、「男爵様、思ったより傷んでいませんでした。壁の崩れや天井を直しています」と返ってきたので、「よろしく頼みます。食料を持ってきたので、後で一服してください」と言うと、「そいつは、ありがとうございます!」と手を挙げた。

 女性陣は修理の終わった廃屋を掃除し、大工たちの食事の準備をしていた。カタリナ女史が、「今朝早くに村長さんがご挨拶に来てくれて、差し入れまでいただきました。困ることがあったら、声を掛けてくれって、おっしゃっていましたわ」と教えてくれたので、「僕からも村長に礼を言っておきます。これから馬車は戻りますが、また来るので必要なものがあれば言ってください」と伝えた。

 領主宅に到着するとクロートーが退屈そうにしていたので、積荷降ろしを手伝ってもらった。そして、「仕事がないのか?」と訊くと、「それがさぁ、誰もあたしに頼んでくれないのよね。カタリナ女史にパンの焼き方を習ったけれど」と言う。見た目は、か弱い女性だから仕方ないだろう。「そのうち、クロートーの力が必要な時もあるだろう。もし外敵が来たら、頼む」と言うと、「了解!」と、クロートーがビシッと敬礼した。


 ミラード難民が衛星都市を退去する期限まであと8日の午後、ゴーレム馬車の御者台にネイトを乗せ、幌馬車にミラード難民10人と物資を積み、今日、二度目のカナンの村への移動だった。あと10kmくらいの場所まで着た時、(宿主様、南東に陸竜を探知しました)とパラゴが警告した。

 陸竜は砂漠や荒れ地に住む肉食の魔獣で、トカゲの仲間だが、その大きさと見た目から飛べない竜と言われていた。4つ足で移動し、大きいものだと2mを越える。尻尾の打撃で獲物を気絶させ、馬ぐらいの動物でもバリバリと骨ごと食べてしまうのた。気温が下がると動きが鈍くなるので、暖かい日中、活動することが多かった。

 南東に目をやると、荒野が広がるだけで陸竜の姿は見えなかった。俺の様子に気づいたネイトも南東を見て、「なにかありましたか?」と訊くので、「陸竜のようだ」と伝えると、ネイトは御者台から身を乗り出すようにして目を凝らし、「見えました。ずいぶん遠くにいますが、こちらに向かっているようです」と言い、御者台から後ろの幌馬車の中に移動した。幌馬車の親子に、「心配しなくていい。領主様がいれば安全だ」と話しかけているのが聞こえた。

(パラゴ、どのくらいの数がいる)と訊くと、頭の中の地図に10個のピンが立った。陸竜の狙いは俺たちだろうから、迎撃するためゴーレム馬車を転回し、陸竜と正面から向き合うような形で停めた。

 弓を持ったネイトが御者台に戻り、陸竜を射たが、パラゴが示す地図には、相変わらず10個のピンが表示されていた。陸竜の硬い皮膚に矢は遮られたようだ。再び矢を射ても、陸竜は死ななかった。

「殺す必要はない。このまま陸竜を巣に戻し、こちらが脅威であることをわからせよう」と伝えると、ネイトが「御意」と言いつつ、もう一矢射た。さすがの陸竜も痛みに耐えかね、方向転換して退却した。別の陸竜も身体に3本の矢が刺さったところで逃げ出した。そのうちの一匹が群れのボスだったらしく、すべての陸竜が退却した。


 カナンの村で人と荷物を降ろし、そのまま衛星都市ミラードに戻った。そして、今日3度目の輸送の前に、レイノスに、馬車屋で幌馬車を2台連結したものを作ってもらうように指示しておいた。ゴーレム馬車の馬力なら、なんとかなるだろう。10人を乗せたゴーレム馬車がカナンの村に到着したのは21時で、このまま俺とネイトが帰ろうとすると、みんなに誘われ、一緒に食事することになった。

 俺の馬車に居合わせた子供たちが、いかにネイトの弓がすごかったかを興奮して話していたので、「ネイトはナイキ国王陛下から『王国一の弓の名手』と称賛されたAランク冒険者です」とみんなに紹介すると、「おおーっ」と歓声が上がた。ネイトは澄ました顔で立っていた。

 続いてクロートーが怪力の持ち主だと紹介すると、大工たちから笑いが起こり、酔った大工棟梁ロベンタが、「腕相撲なんかどうです?」と言いだした。「んっ? それは…」やめておけ、怪我するぞ、と言おうとしたら、その場に「腕相撲!」コールが巻き起こった。クロートーが、「あたしはいいわよ、やっても」と腕組みして自信満々なので、【土柱】の魔法で、腕相撲をするための土の台を作った。ミラード難民は、この魔法だけでも、やんやの喝さいだった。

 大工代表は力自慢のヘクターで、二の腕が太く、胸板が厚かった。身体も大きく、クロートーが小さく見えた。俺の作った台の上に、ヘクターとクロートーが肘を載せ、がっちりと手を握った。「勝負、はじめ!」と宣言し、腕相撲が始まった。余裕の表情を見せていたヘクターは、クロートーの腕がびくともしないので、顔を真っ赤にしていた。はじめは冷やかしていた大工や村民たちも、ヘクターの腕に血管が浮き上がり、筋肉が弾けるほど盛り上がっているのを見て、様子がおかしいことに気づき始めた。クロートーは笑顔を浮かべたまま、子供の歓声に左手を振っていた。

「クロートー、いい加減しろって!」と声をかけると、「せい!」という掛け声とともに、ヘクターが地面に転がった。「クロートーの勝ち!」と宣言すると、「よっしゃー!」とクロートーがガッツポーズし、子供たちは喜んだが、大人たちは静かなままだった。

「えーっ、説明します。クロートーは先の戦争で活躍し、国王陛下から勲章をもらいました」と言うと、「おーっ」という声が上がった。勲章をもらったからと言って、怪力を説明したことにはならないのだが、納得してくれたようだ。

「マリシも、なにかやってよ!」とクロートーが言いだし、すぐに「領主!」コールが起こった。仕方なく、手印を組んで【発光】の魔法を発動し、光の球を空に向かって打ち上げた。そして、タイミングをみて飛散させた。夜空にたくさんの光が散らばった。「うわー、綺麗!」と子供たちが声を上げ、みんなが空を見上げ、笑顔になった。俺は気を良くし、【発光】の魔法に手を加えて、色の付いた光などを次々に、静かに打ち上げた。星の光を背景に、夜空に散る光は美しかった。

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