表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剣と魔法と富豪冒険者  作者: パラケルスス
第5話 旧ドワーフ坑道
86/373

3. カナンの村はド田舎だった

 翌日、ゴーレム馬車に荷物を詰め込んで、カナンの村に移動することにした。衛星都市ミラードとカナンの間には道らしい道がない。

(パラゴ、ここから安全にカナンの村に移動できるルートを複数表示してくれ)と指示すると、頭の中に地図といくつかのルートが表示された。


(この中で、歩いて移動できるルートを表示)

(そのうち、平地ルートを表示)

(そのうち、途中に水源があるルートを表示)


 条件を重ね、全長50㎞のコースを選んだ。ネイトとクロートーと一緒にゴーレム馬車に乗り、御衛星都市ミラードの西門を出た。パラゴの示したルートを通りながら、1km行くごとにゴーレム馬車から降りて【土柱】の魔法を発動し、カナンの村までの道標を立てていった。

 荒野のところどころに水脈があるらしく、緑も見えるのだが、夏は照り返しで地面が熱くなり、冬は吹き曝しで地面が凍るためか、植物の育ちが悪かった。カナンの村に近づくと、緑に覆われたキンベ山脈に、一カ所だけ灰色の尾根から突き出ている竜ヶ峰があった。伝説ではここに竜が住むという。

 作業をしながらの移動だったため、カナンの村に到着したのは17時になっていた。太陽は西側のキンベ山脈の後ろに沈み、辺りは真っ暗で、気温は下がり、吐く息が白くなった。

 村には人家が点在していたが、家の外に出てくる者はなく、まるでゴーストタウンのようだ。

(パラゴ、廃屋を表示してくれ)と命じると、レイノスが言っていたように結構な数の廃屋がピンされた。これを修理すればミラード難民を受け入れることができるだろう。

 地図に会った領主宅は古びた平屋だが、もう掃除を済ませ、使えるようになっているそうだ。家の前にゴーレム馬車を停め、「着いたぞ」と幌馬車にいるネイトとクロートーに声をかけた。「かなり遠いわね」とクロートーが降り、伸びをした。ネイトも口にこそ出さないが、移動に疲れたようだ。

「あれが領主宅だ。入ってみよう」と、レイノスから渡された鍵でドアを開け、玄関に入った。玄関の先には居間があり、その左手に台所、右手に2つの部屋あるだけだ。これが領主宅なのだから、村全体が質素な生活をしていると想像できた。

 ネイトが「今夜はここで一泊ですか?」と言うので、「そうしよう。クロートー、荷物下ろしを手伝ってくれ。おまえの馬鹿力がようやく役立つな」と笑いかけると、「『馬鹿』は余計よ!」と言いながら手伝ってくれた。積んできた保存のきく食料や野営用のテントなどを、玄関右隣の応接室に運び込み終えると、居間に入り、暖炉に火を入れた。

 クロートーが、「この家にだってお風呂くらいあるわよね? 水を張ったら、魔法でお湯にしてくれる?」と言う。この狭い家で、クロートーがバスタオル一枚で歩きまわり、それがキッカケでネイトがキレるのが想像できたので、「今夜はやめた方がいいんじゃないか? ほら、井戸の水が安全かどうかもわからないし、浴槽が壊れていないとも限らないし」と思いつくままに理由を並べると、「ねえねえ、もしかして、あたしの裸を想像して遠慮している?」と図星を突かれた。「そんな変な想像していないって!」と否定したが、ネイトは眉間に皺を寄せていた。

 その時、玄関の方から、「あのー、すんません」と声がした。「ほら、誰かが来たみたいだ」と言いながら、チャンスとばかりに玄関に向かった。そこには提灯を持った60歳ぐらいの背の低い村民が立っていた。日焼けした顔は皺だらけで、善良そうな笑みを浮かべていた。

「あのー、恐れ入ります。もすかしたら、領主様でございましょうか?」と訊かれ、「新しく、ここの領主になった男爵のマリシです。よろしくお願いします」と言うと、訛りの強い老人は、ぺこりと頭を下げ、「あーっ、そうですたか。私は村長をすております、ヨサイというものです。よろすくお願いいたします。見ての通り、なにもない村で、十分な税も払えず、申し訳ございません。若い者はみーんな村を出てすまって、老人ばかりの村です」と言った。住人は老人だらけ、人口は減り続け、限界集落ということか。

「そうですか。実は、数日のうちに、800人ぐらいが移住してくる予定です。どうか仲良くしてやってください」と言うと、村長のヨサイは目を丸くし、「こ、この村に移住ですか? 800人も?」と驚くので、「ええ。よろしく頼みます。しばらくは僕も衛星都市ミラードとここを行ったり来たりするつもりです」と答えた。ヨサイは、「こ、ここは領主様の土地ですから、わたくす共が口を挟むことはありません。お、おっかねえ人たちが来るんじゃないでしょうなぁ?」と声を震わせるので、「心配いりません。女子供、老人ばかりです。この土地の廃屋を修理して入居するようにします」と答えた。

 ヨサイ村長は、「わ、わかりますた。老人ばかりの村ですから、協力できることは少ないと思いますが、なにかありますたら、相談してください。今夜はもう遅いのでけえります。明日の朝にでも村民を集めますんで、どうか領主様を紹介させてください」と言い、ぺこりと頭を下げ、帰っていった。


 居間に戻り、これから村をどう整備していくかの話しになった。大きな羊皮紙をテーブルに置き、パラゴにガイドさせてこの辺りの地図を書いた。パラゴを知らないネイトが、「さすが…」と感嘆の声を上げ、なんだか騙しているような気分になった。

(パラゴ、日照時間、土壌、水源、災害時の対応、外敵からの防衛ライン、上下水道から、村の区割りのプランを提示してくれ)と指示すると、地図に重なるように、いくつかのイメージが浮かび上がり、やがて一つに絞られた。パラゴの提案通りに書き入れ、「この区割りで行こう」と言うと、ネイトとクロートーが興味津々に地図を見た。ネイトが、村の、少し離れた建物を指さしながら、「ここはなんですか?」と訊くので、「神殿だ。他より高所にあるから、災害時にはここを避難所にする」と答えた。クロートーが、新しく作る道路に並ぶ建物を指さし、「ねえねえ、ここはなにができるの?」と訊くので、「ここは学校にする。その並びは商店だな。食料品店、雑貨屋、鍛冶屋、いろいろできるだろう?」と答えた。「これは住宅ですか?」とネイトに訊かれ、「そう。レイノスが調べてくれた廃屋だ。まずは廃屋の修理を優先して、新築は後回しにしたい」というと納得していた。


 その後はすることもなく、領主宅に寝袋を持ち込み、俺が居間、ネイトとクロートーがそれぞれ隣の部屋に寝ることにした。

 2人が着替えてい間、外に出た。空を見上げると衛星都市ミラードよりもずっと星がきれいだった。竜ヶ峰を見ながら、(パラゴ、竜ヶ峰に竜はいるか?)と訊くと、(山頂付近に巨大なマナの塊があります。揺らぎがなく、生物なのか、鉱石なのか、不明です)と返ってきた。パラゴでも竜の存在はわからないのか。

(ここから竜ヶ峰の頂上までの最短コースを表示してくれ)と命じると、視野情報に村から峰の頂までのルートが表示された。どれも過去の調査団が失敗したルートと似たり寄ったりだ。ネイトやクロートーはともかく、エルジャには登れないだろう。

(これまで調査団が使っていないルートはないか?)と訊くと、頭の中に、竜ヶ峰の東側から山の中に入るルートが出た。(このルートは山の中だよな?)と確認すると、(ドワーフ族が作った坑道が残っています。この坑道を通り、頂上に向かうルートです)と言う。 このルートならドワーフ族の旧坑道の調査と、竜ヶ峰の調査の両方ができ、一石二鳥だ。


 翌朝、俺は領主宅の外の人の気配で目が覚めた。まだ日が上ったばかりだったが、村民たちが集まったようだ。寝ている2人を起こさないように、静かに着替えて家の外に出た。

 ヨサイを先頭に、結構な数の村民たちがいて、「ずいぶん若い領主様だな」という声が聞こえてきた。男爵になってからというもの、どこでも同じようなことを言われるので慣れた。村民は50歳以上が多く、みな男性だった。

「おはようございます。ここの領主になった男爵のマリシです。国王陛下からカナンの村一帯を拝領しました。仲良くやっていきましょう」と言うと、村民の一人に「村長から大勢の人が来るって聞きました。いったい、どういうことですか?」と訊かれた。「これから800人ぐらいがこの村に移住してきます。人が増えれば村も活気づくでしょう。どうか仲良くやってください」と答えると、村民はシーンとした。

 ヨサイが村民を代表するように、「領主様、わたくす共は、余所者(よそもの)が来て、今の生活が壊されないか心配なんです。今までみーんなで仲良く暮らすてきますた。村が分裂するようなことがねぇでしょうか?」と不安を口にした。「その心配は十分に理解できます。王国の法の下、犯罪は厳格に取り締まるつもりですから、安心してください」と答えると、別の村民が、「そうだども、この村に、そんな多くの人を支える余力はないですな」と困惑気味だった。

「しばらくは衛星都市ミラードから物品を運び続けます。その間に村を広げ、自給自足できるようにしましょう」という俺の言葉に、村民たちは半信半疑という感じだった。続けて、「新しい入植者は、戦争で親を失った子供、夫を失った女、子供を失った親など、いろいろです。どうか温かく受け入れてやってください。そして、迷惑をかける者がいたら、僕に言ってください。なんとかします」と言うと、ヨサイが笑顔になり、「わたくす共は、これまで領主様の顔を見たことありませんですた。たーだ、税を納めるだけですた。新しい領主様にお目にかかれて、少し安心すますた。どうかわたくす共と村のことをよろしくお願いいたします」と言って頭を下げ、村民たちと帰っていった。

 家に戻るとネイトはもう着替えていたが、無理矢理起こされたであろうクロートーは、寝間着姿のまま、眠そうな顔で座り込んでいた。2人に今のやりとりを説明し、衛星都市ミラードに戻る準備をした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ