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剣と魔法と富豪冒険者  作者: パラケルスス
第4話 犯罪組織サイクロプス
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9. エピローグ

 王都南区画の買収が終わり、これから店舗の建築をするというときになって、王国から「待った」がかかった。王都の南区画の再開発するので、新規の建築は待てという。そして、再開発事業の担当責任者として、王国魔術団員のシュルツが家にやって来た。シュルツは、ダークエルフ族の侵略戦争では、マナを使いすぎて死にかけていたが、今は血色も良くなり、ローブ姿に、金髪の、爽やかイケメン魔術師に戻っていた。

「シュルツ殿、お久しぶりです。体調はどうですか?」と訊くと、「すっかり治りました。あの時はありがとうございました。危うく魔物の餌食でしたよ」とほほ笑んだ。そして持参の巻物を広げ、「早速ですが、南区画の再開発の件を説明させてください。先の戦争で破壊されたのは、ここからここの地区です」と言って、地図を指さし、「南門から環状通りまでの間は、特に被害がひどいので、この機会に、道を広げ、街並みを整えます。国王陛下の意気込みも相当なものです。ご協力いただけないでしょうか?」と言った。

「もちろん協力しますよ」と答えると、「それは、良かった。再開発では、今までよりも公道を広げます。そのせいで、敷地が狭くなる店舗が出てきますが、お許しいただけるでしょうか? 狭くなった面積に応じて、お金を出ます。ただし、雀の涙ほどですが」と言うので、「わかりました。道が広いほうが商店は栄えます。シュルツ殿の好きなようにやってください」と答えると、シュルツはほっとした顔をした。もし俺が首を縦に振らなければ、一からやり直しだったのだろう。

「白状しますと、すべての土地がマリシ卿の名義なのを見て、ラッキーだと思いましたよ。土地の所有者がバラバラで、個別に交渉することになっていたら、時間がいくらあっても足りません」と言った。それはそうだろう。

 シュルツが急に声を潜め、「そう言えば、財務省がいま大変なことになっているのを御存じですか?」と言った。「いいえ」と首を振ると、「例の件で、国税局長以下、相当数の係官が更迭され、一部は起訴されました。事態の収束させるために財務長官と財務副長官は更迭されていませんが、内心、すぐにでも辞任したいと思っているんじゃないですか? それから、財務省内にいたサイクロプスの構成員も逮捕されました」と教えてくれた。そして、「正直なところ、なんでこんな事件に、王国魔術術団員が駆り出されるんだ、と思っていましたが、王国中枢まで深くまで根を張った組織だとわかり、驚きましたよ。国王陛下は国の隅々まで見ているのだと、その慧眼にみんなで感心した次第です」と言った。ナイキ国王陛下はエルジャが襲われそうになったことに怒ってサイクロプスの壊滅を決意したはずだが、名君として尊敬を集めることになったようだ。

 シュルツが、「マリシ卿、司法長官を御存じですか? いつもむすっとしたお方」と言うので、「ええ、知っています。ジョッジ司法長官でしたよね?」と言うと、「あの人、ああ見えて切れ者なんですよ。証拠を集めるのが面倒だって言って、大胆な通達を出しました」と、言って、シュルツは紅茶を飲んだ。俺が興味を持つことを待っているようだ。期待通りに、「どんな通達を出したのですか?」と訊くと、シュルツはふっと笑みを浮かべ、「それが傑作なんですよ! 一、捕まった者は死罪。二、自首した者は懲役15年。三、自首した者が他の構成員の情報を提供すれば1年減刑。ただし、すでに捕まっている者の情報は受け付けない。四、自首した者の情報が間違っていれば懲役を2年追加」と言い、「マリシ卿がサイクロプスの構成員だったら、どうします?」と訊いてきた。「えーっと、それなら自首するかな。そして、知っていることを話して刑を軽くするだろうなぁ」と言うと、シュルツが、「そうなんです! サイクロプスの構成員たちは、全員が黙っていれば捕まりはしないのに、わが身可愛さに、自首して洗いざらい喋っているようです。ははははは」と笑った。そして、「そうそう、マリシ卿が捕まえたサイクロプスのボスですが、獄中で死亡しましたよ」と教えてくれた。顔のやけど自体は致命傷ではなかったが、自殺したらしい。あの金属のようなものは、身体だけでなく、精神も蝕んでいたのだろうか。

 シュルツの話は尽きず、「そう言えば、マリシ卿も意地悪ですよね。総額数兆イェンといわれる預金を、王立銀行本店から地方銀行に移すって脅したんでしょう? これをやられたら王立銀行は経営破綻します。破綻を避けるには公的資金の投入しなければ、市場が大変なことになります。いきなり王国の急所を狙ってきましたね」と言ってきた。知らない話なので何も言えずにいると、「王立銀行が破綻したら、王国の経済は破綻し、王国が崩壊するでしょう。マリシ卿に比べると、ダークエルフ族の侵略行為なんて、生ぬるいって誰かが言っていました」と冗談めかして言った。おそらく、ネイトが準備してしたに違いない。

「そのうち財務大臣が謝罪に来ると思いますが、すっかり憔悴しているので適当に許してやってください。あっ! すっかり話し込んでしまって、すみません。御馳走様でした。そして、ありがとうございました」と、しゃべりたいだけしゃべって、シュルツが去っていった。


 その夜、居間のソファでハーブティーを飲んでいると、ラフな恰好でネイトが自室から出てきた。「お茶でも飲むか?」と訊くと、「いえ、もう休むので結構です」と言って、隣に座った。「シュルツ殿に聞いたけれど、財務省は大変みたいだぞ」と話を向けると、ネイトは眉間に皺を寄せ、「マリシ様の功績を過小評価しすぎです。よりによって脱税疑惑とか、犯罪組織への資金提供疑惑とか、下衆の勘ぐりもいいところです」と言った。「そう怒るなって。お互いに少しでも利益があるなら、妥協は大事だぞ。許してもいいんじゃないか?」となだめると、「マリシ様がそれでいいのであれば、穏便に処理します」と、少し表情を柔らかくした。

「今回はサイクロプスの息のかかったロット局長らが証拠を捏造していたらしい。組織ぐるみでやられたら、俺なんて無力な存在だよ」と言うと、ネイトが首を振り、「そんなことありません。タールベール公もナイキ国王陛下も、すぐに対処してくれました。それにエイマス・サラ女王陛下まで」と言う。

「んっ? エイマス・サラ女王陛下はエルジャの件でここに来たんだろう?」と言うと、ネイトが笑みを浮かべ、「そんなの口実に決まっているじゃないですか! エルジャ殿より優れた魔術師なんて、そうそういません。大使のことを持ち出したのは、マリシ様を助けるために、論理的な言い訳が必要だったんですよ」と言う。

 考えてみれば、エイマス・サラ女王陛下は、クロートーとエルジャから事の顛末を聞いていたはずで、わざわざ王国に来る必要などなかっただろう。もしかして、上級院のメンバーにも隠れて、転移してきたのだろうか。いろいろ思い当たることがあり、茫然としていると、ネイトはおかしそうに、「マリシ様のご人徳で、みんなもマリシ様を助けるのですよ」と言った。それは買い被りすぎだろう。

「そういえば、スカーフェイスが獄中で自殺したって。身分不相応な力を得て、巨大な組織を作り上げた挙句、最後は獄中で孤独な死か。考えてしまうな」と言うと、ネイトが「エルジャの話しでは、サイクロプスという名は、エルフ族の神話に出てくる単眼の巨人のことだそうです。スカーフェイスがその名を知っていたということは、過去にダークエルフ族と関係があったのかもしれません」と言った。今となっては、もうわからない。

 しばらく沈黙が流れ、「そうだ、そろそろカナンに行く準備をしよう。ネイトも一緒に行くだろう?」と話題を変えると、「もちろんです。クロートー殿はどうしますか?」と訊くので、「ついてくるんじゃないか、無理矢理にでも?」と答えた。ネイトが不機嫌になるかと思ったら、あっさりと「わかりました。それではエルジャ殿もですね」と言った。そして、立ち上がり、「先に休みます。おやすみなさい」と部屋に行った。「おやすみ。今回もありがとう。おかげで助かった」と後ろから声をかけると、ネイトが振り返り、笑みを浮かべ、なにも言わず自室に戻っていった。


< 第4話 完 >

 ブックマークを付けてくださっている方、評価ポイントをつけてくださった方、ありがとうございます。「犯罪組織サイクロプス」編は、番外編として書いた「ネイトの義憤」(2020/5/1-2020/5/3)と、「エルジャ・サラの慟哭」(2020/5/3-2020/5/4)、「クロートーの災難」(2020/5/5)をまとめ、追記しました。読み切り的なストーリーです。冒険者の日常を切り取ったような内容です。

 これからも応援をよろしくお願いします。


2022年11月

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