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剣と魔法と富豪冒険者  作者: パラケルスス
第4話 犯罪組織サイクロプス
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6-1. 犯罪組織が暗躍する街

 衛星都市ザークからの支援物資は決まって14時に届いていた。俺とネイト、クロートーがゴーレム馬車に乗って東門を見張っていると、支援物資を積んだ幌馬車3台が王都に入ってきた。その後をついて行くと、途中で男が幌馬車の前に立ちふさがり、「おーい、ご苦労様。2台はこのまま西に行ってくれ。神殿とコロッセオはこの先だ。もう1台は別の場所に案内する」と言って、慣れた様子で幌馬車の御者台に乗った。

 クロートーが小声で、「ねえねえ、知り合い?」と訊くので、「いや、知らない。それに神殿とコロッセオ以外の場所なんて知らないぞ。ネイトは聞いているか?」と言うと、「私も知りません」と首を振った。「それじゃあ、盗んでいるってこと?」とクロートーが言うので、「たぶんな。大胆な奴らだ。ついていこう」と幌馬車を追った。

 幌馬車はゆっくりと街中を移動し、北東の倉庫の前で止まった。途中で御者台に乗り込んだ男が飛び降り、「ご苦労さま。荷下ろしを手伝ってくれ。中にも人がいる」と言う。倉庫から数人の男が現れ、手際よく幌馬車から荷物を降ろした。すべての荷を下ろすと、運んできた御者に「ありがとう。マリシによろしく伝えてくれ」と言った。全然、知らない男なのだが…。衛星都市ザークから来た御者は、手を挙げてあいさつし、来た道を戻っていった。

 男たちが倉庫に戻った後、俺たち3人はそっと倉庫に入った。中には衛星都市ザークからの支援物資が山積みになっていた。一度や二度の犯行ではなさそうだ。「どうするのよ?」とクロートーが囁いた。ネイトが怒った口調で、「取り返すに決まっている」と宣言し、荷物の周りに座っている男たちに近づいた。慌てて、俺とクロートーも続いた。

 男たち6人はこちらに気づき、「なんだぁ、お前ら! 勝手に入ってくるな!」と叫んだ。ネイトは、「これは戦災者のために運んだ支援物資だ。返してもらおう!」と語気を強めた。幌馬車を誘導した男が立ち上がり、「誰だか知らんが、これはマリシが俺たちに届けてくれた物資だ。とやかく言われる筋合いはねえ」と言うと、「(かた)るな! こちらのお方がマリシ様だ!」と怒鳴った。

 男たちはポカンとした顔をした後、「俺たちが買い付けたものだ!」と言い変え、手に角材や剣を持った。ネイトが怯むはずもなく、ダガーを抜いたので、大ごとになる前に【動縛】の魔法を発動し、見えない縄で男たちを捕らえた。地面に這いつくばる男たちに、「どうして荷物が届く時間がわかった?」と訊いても、なにも答えなかった。

 クロートーがそばにあった木箱を、軽々と頭の上に掲げ、男たちがギョッとした顔をした。「ねえねえ、このままこの箱を背負わせる? 全員がぺちゃんこになる前に、誰かはしゃべるんじゃない?」と言うと、男たちは恐怖にひきつった表情を浮かべ、「待て! 待ってくれ。しゃべる、しゃべる!」と叫んだ。クロートーが地面に箱を置くと、ズンと音がし、床の埃が舞った。

「ゆ、許してくれ。に、荷物が届く時間は決まっているって聞いたんだ」と一人が言った。「誰にだ?」と訊くと、「そ、それは、組織にだ」と言う。なんのことかと疑問に思っていると、「知らないのか? この辺を牛耳っているサイクロプスだ。嘘じゃねえ」と言い、「頼む、衛兵に突き出してくれ。俺たちが失敗したことを組織に知られたくない。衛兵に捕まる方がましだ」と懇願した。「どんな組織なんだ?」と訊くと、「勘弁してくれ、それを言ったら殺される」と言った。

 ネイトが、男の目の前にダガーを突き付け、「ここで殺されるのと、どちらがいい?」と脅した。すると、「こ、ここで殺されたっていい! 余計なことを喋れば、拷問されて殺される」と怯え方が尋常ではない。これ以上、情報を得られそうにないと判断し、【動縛】の魔法をかけたまま、倉庫を出てゴーレム馬車で避難所に戻った。

 避難所では、スカーフェイスが送られてきた支援物資をチェックしていた。避難所で必要とされる物は時間とともに変わるので、必要になる物をリクエストし、それを受け取るのがスカーフェイスの仕事だ。俺たちを見つけたスカーフェイスが、「へへへへ、兄ちゃん。こっちは順調だ。必要な物は、おおかた行き渡った」と言った。「ご苦労さん。ところで、支援物資が盗まれているようなんだ」と言うと、スカーフェイスの顔が曇り、「届いたものは、きっちり分配しているぜ?」と言った。「いや、疑っているわけではない。ここに届く前に盗まれていた。東区画の12番地の倉庫を知っているか?」と訊くと、「ああ。あの、古い倉庫街のどれかだろう?」と言った。「そうだ。そこに盗まれた支援物資が置いてある。回収してくれないか? それから、盗みを働いた奴らが転がっている。衛兵に突き出しておいてくれ」と頼むと、「畜生! ときどき数が少ないことは分かっていたが、てっきり書類のミスかと思った。もっと早くに盗まれたって気づけばなぁー」と悔しがった。

「そう言えば、犯罪組織サイクロプスって知っているか?」と訊くと、スカーフェイスが顔をしかめ、「兄ちゃん、どこでその名を聞いたんだ」と言った。「知っているのか?」と言うと、「王都で商売やっていて、サイクロプスを知らない者はいないぜ。殺し、脅迫、人身売買、悪いことならなんでもしている組織だ。で、サイクロプスがどうしたんだ?」と言うので、「荷物を盗んでいた奴らは、サイクロプスとつながりがあるらしい」と教えると、スカーフェイスが眉をひそめ、「サイクロプスと本当につながりがあるなら、死んでも組織の名前をしゃべらないはずだ。それくらい、怖い組織なんだ、サイクロプスは」と声を潜めた。

「王都にそんな組織があるとは知らなかった。なんとか取り締まらないかな」と言うと、スカーフェイスが、「よせよ、兄ちゃん。自分だけでなく、家族や友人も危なくなるぜ」と首を振った。「幸か不幸か、俺には家族がいないからな」と言うと、隣のクロートーが、「あたしはマリシのフィアンセだけどね」と言い、俺とネイトは聞き流した。スカーフェイスは、「それならフィアンセを大事にしな」と言い、ニッと笑って幌馬車の方に行ってしまった。


 炊き出しの準備をするスガーのところに行き、「ご苦労さん。ところで、犯罪組織サイクロプスって知っているか?」と訊くと、スガーの表情が急に厳しくなり、「どこでその名を聞いたんですか?」と言った。スガーも知っているようだ。「いや。ちょっと耳にしたんだ」と言うと、「王都を縄張りにしている犯罪組織です」と言った。「もしかして、うちの店も関りがあったのか」と訊くと、スガーはしばらく沈黙した後、「はい。毎月30万イェンを払っています」と言った。隣のネイトが、「帳簿は完璧だった! どうやってお金を作ったのだ!」と驚いた声を出した。スガーは頭を下げ、「申し訳ございません。従業員として雇った形にしていました。サイクロプスには、そういう書類を作る専門の男がいるのです」と言った。ネイトは帳簿の不正を見抜けなかったことにショックを受けているようだ。

「どうして相談してくれなかったんだ?」と言うと、「わかってください。大人しく従っていれば、大きな問題になりせん。断れば、従業員だけでなく客にまで危険が及びます」と、スガーは困ったような顔をした。王都にも暗い部分があるのか。


 避難所は神殿とコロッセオの2か所にあり、神殿の方は身寄りのない子供や一人で生活できない老人が生活していた。コロッセオの巡回をクロートーとネイトに任せ、神殿の方に行くと人だかりができていた。覗いてみると、法外な値段で生活物資を売っている行商人がいた。物不足の中、みんなで協力して生活しているのに、こんな奴もいるのか。放っておくことができず、「これ盗品じゃないのか?」と大きな声で言うと、行商人が俺を睨みつけ、「おい、へんな言いがかりはよしてくれ!」と怒鳴った。「王都でこれだけの物を集めるのは難しいだろう。支援物資を盗んだ奴らの仲間か? もしかして、サイクロプスの一味か?」と言うと、途端に行商人の顔色が変わった。

「商売の邪魔をする奴は容赦しねえ。おい! 叩きのめせ!」と怒鳴り、幌馬車の中から棍棒を持った若い男が降りてきた。喧嘩慣れしているのか、頭を狙ってコンパクトに棍棒を振ってきた。上体をのけぞらせて躱し、カウンター気味に男の顎の辺りを掌底で突いた。男は地面に倒れ、動かなくなった。悪徳行商人も棍棒を振り回してきたが、大ぶりだったので、空振りして身体が流れたところを軽く、突き飛ばすと尻餅をついた。そして、「こ、この野郎、サイクロプスと知っていてやりやがったな!」と怒鳴った。

「サイクロプスはどこを拠点にしている?」と訊くと、興奮した男が勢いのまま、「拠点なんてねえよ! 俺たちはバラバラに活動しているんだ! 仲間のことを聞き出そうとしたって無駄だ!」と答えた。

 そこへ岩のような体つきの巨漢が近づいてきた。剣を佩き、黒いマントを付け、王国騎士団とわかる格好をしたトンドロだった。「なにかありましたか、マリシ卿」とトンドロが低い声で訊かれ、戦争の後、はじめて会ったので、「お久しぶりです。よくぞご無事で!」と挨拶した。そして、「ここで法外な値段で商品を売ろうとする行商人がいたので、やめさせようとしたら、こうなったんです」と説明すると、トンドロは地面に転がる2人と棍棒を見て、「こちらのお方は、戦争の英雄 マリシ卿だぞ。お前ら、全員、逮捕だ」と言った。逮捕理由がよくわからないが、悪徳行商人には効果はあったようだ。

「よ、よせやい。俺たちは、まだなんにも悪いことはしていないぞ。見逃してくれ」と言う。「まだ」ってなんだよ…。

「武器を持って襲いかかったのであれば、暴行罪だ!」と言うトンドロに、「勘弁してくれよ、旦那。どう見たって、俺たちが一方的にやられてるんですぜ」と言った。トンドロが地面で気絶している男に目をやり、状況を察したようだ、仲裁するつもりで、「この通り、暴行は未遂に終わったので許してやってもらえませんか」と頼むと、「マリシ卿がそう言うのであれば…」と言い、悪徳商人に向かって、「見逃してやるが、次はないからな! それにしてもお前たち、命が拾いしたな。マリシ卿は王国騎士団員も一目置く、武人だぞ!」と言った。悪徳行商人が呆然としていると、馬車が近づき、御者台から血相を変えたスカーフェイスが下りてきた。「おい! 兄ちゃん! 倉庫に行ったら、死体が転がっていたぞ! あれは兄ちゃんがやったのか?」と叫んだ。「まさか? 動けなくしただけで、殺してなんていない」と言うと、スカーフェイスが「5人とも胸を一突きされて死んでいた!」と興奮気味に言った。魔法で動けないところを襲われたのようだ。トンドロに倉庫で起きたことを説明し、捜査を依頼した。トンドロは厳しい表情で頷き、スカーフェイスとともに倉庫に向かっていった。

 残された悪徳行商人が立ち上がり、神妙な顔で、「さっきはありがとうな。御礼代わりに忠告しておくぜ。サイクロプスに首を突っ込むのは辞めておきな。倉庫の連中、サイクロプスに殺されたんだぜ、きっと」と言う。「そんなわけないだろう。まだ30分も経っていないんだから」と言うと、男は蒼い顔をして、首を振った。

「あんた、なんもわかってないな。殺された奴ら、販売ルートを潰した、けじめをつけさせられたんだ。組織の耳は早い。あんたも気をつけな」と言って、地面に転がる仲間を抱き起し、そそくさと幌馬車で去っていった。

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