表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剣と魔法と富豪冒険者  作者: パラケルスス
第4話 犯罪組織サイクロプス
74/373

4. エルフ族からの招待を断るわけにはいかないが…

 戦災者への支援のため、しばらく王都の家に滞在することになった。ネイトとともに居間で書類に目を通していると、「お久しぶりなのです!」という元気な声が響き、転移魔法でエルジャが現れた。手には杖を持っているが、おしゃれなワンピースに、ベレー帽を被り、厚底の靴だった。アイドル業は続けているようだ。

「元気そうだな、エルジャ。ナイキ国王陛下とイリス王妃殿下はどうしている?」と訊くと、「パパとママは大忙しです」と言った。それはそうだろう。「急ぎの用でもあるのか?」と訊くと、「それが、マリシさん、大変なのです! 母上が、マリシさんと会食したいそうなのです」と言った。「イリス王妃殿下も忙しいんだろう? なんの用かな?」と訊くと、「違うのです! 母上はエイマス・サラ女王陛下なのですよ! エルジャとマリシさんは母上と上級院のメンバーとの会食に招待されています」と言った。閉鎖的なエルフ族が、人間族を会食に誘うなんて異例のことだ。

「なんで、俺と?」と訊くと、「人間族の文化を知りたいそうです」とエルジャが答えた。傍で聞いていたネイトが、「私も同行できるか?」と訊くと、「マリシさん以外はダメみたいです」と答え、「言いづらいことですが、会食は明後日なのです」と言った。「わかった。じゃあ、予定を空けておく」と軽く答えると、「そんな簡単なことじゃないのです!」と咎められた。「なんで?」と訊く俺に、「エルフ族にはエルフ族のマナーがあります。エルフ族の社会で困らないように、エルジャがマリシさんを特訓しなければなりません!」と言い切った。

「この忙しいのに、勘弁してくれよ」とボヤくと、「マナー違反が原因で、人間族とエルフ族は、互いを理解できないという前例ができたら、次のチャンスは100年後かも知れませんよ!」と言われ反論できなかった。

 それからエルフ族の習慣・文化についてレクチャーを受けることになった。なぜかネイトが立ちあった。後学のため知っておきたいそうだ。

「まず発言するときは右手を挙げてください。これもいろいろ作法があるのですが、マリシさんの場合は右手を挙げてから話し始めれば無礼はありません。相手の許しがなくても話して大丈夫なのです。それから、エルフ族は頭を下げるとか、頷くとか、握手するとか、抱擁するとか、そういう習慣はありません」と、矢継ぎ早に言ってくる。エルフ族はドワーフ族と真逆で、ほとんどスキンシップがないのには気づいていた。「それから、エルフ族は『こんにちは』とか『さようなら』を言いません。いきなり要件から入って、必要なやり取りが済んだら、その場を離れます」と言うので、「会話が終わったかどうか、どうやって判断するんだ?」と訊くと、「必要な情報を交換すれば終わりなのです。一方が論理的だと考えることは、相手も同じように考えるので、議論はしないのです」」と言われた。「議論はしないって言っても、例えばエイマス・サラ女王陛下が間違った判断したらどうするんだよ」と訊くと、エルジャは困った顔をし、「母上が非論理的な判断をするとは想像できないのです。そんなことがあれば、母上だけが知る情報があると考えます」ときっぱり言った。じゃあ、大賢人ジャービルとの結婚も論理で片付くのかよ、と思ったが言わなかった。

「わかっているとは思いますが、感情的な言葉はダメなのです。特に相手に対して感情的な言葉を投げかけるのは絶対にダメです。『楽しそうですね』とか『嬉しそうですね』とか、人間族が良い意味で使う言葉でも、そんな言葉で相手を評したら100年くらい絶交されます」と言う。つまり、死んでも許さない、ってことかよ。

「それから、食事中はしゃべってはいけないのです。食事の後、歓談する時間が準備されています。食事は、二本の棒で食べ物を挟んで食べます。この前はみなさんのためにナイフが出てきましたが、ああいったものは調理器具とみなされます。完成した料理には使いません。もちろん手掴みで食べてはいけません」と細かいので、「なあ、俺たちが手で食べているのを見たことがあるか?」と口をはさむと、「鶏肉や蛇の肉を手で食べていましたよね?」と、バーベキューのことを言っているようだ。「あれは手で食べるのが正式だ。会食では、そんな料理、出ないだろう?」と言うと、エルジャは真剣なまなざしで、「たとえ細かいことでも、エルジャはしっかりお伝えしますよ。マリシさんが『エルフ族は人間族とは会食しない』という前例を作ってしまったら、それを取り消すのは大変なのですからね」と、くどいので、「心配するなって、うまくやるから」と言った途端にエルジャの眦が上がり、「マリシさん! 『心配するな』は相手を感情的に表しています! 絶対にダメなのです!」と叱られた。俺はため息をつき、「はぁ。ごめん、油断した。会食を終えたらすぐに帰ろう。そうすれば馬脚を露わさずにすむだろう」と言うと、「何を言っているのですか、マリシさん! エルフ族の会食は2日にわけて行われるのですよ!」と、エルジャが言った。時間に対する感覚が、短命種と長命種では違うようだ。げんなりとする俺を見て、ネイトがくすくす笑った。


 2日後、エルフ族との会食のため、『重軽装』タキシードを着て、エルジャとともにエル・キンベの街に転移した。待っていたソルド・ケス衛兵長の案内で、俺たちは西の御殿に行った。ホールには、エイマス・サラ女王陛下を中央にして、上級院のメンバー6人が立っていた。エルジャに教えられた通り、右手を挙げ、「人間族の大使マリシです。先の戦争では加勢していただき、王国民一同、大変感謝しております。ここにナイキ国王陛下からの親書があります」と人間族的に挨拶し、上級院メンバーに親書を渡した。エイマス・サラ女王陛下は人形のような顔で、「エルフ族と人間族の交流は始まったばかりです。お互いの文化を尊重し、良い方向に進むことを望みます」と、厳かに言った。

 上級院メンバーの一人が右手を挙げ、「滞在中はエルジャ・サラ大使がマリシ大使の補助をする」と言い、右手を挙げ、「わかりました」と答えた。練習通りにできた。別の上級院メンバーが右手を挙げ、「ソルド・ケス衛兵長、二人を案内しなさい」と言ったので、エルフ族の習慣に従い、挨拶もせずにその場を後にした。

 ソルド・ケス衛兵長に連れて行かれたのは、エル・キンベの町の北西にある家だった。ソルド・ケス衛兵長は無表情に、「人間族が使っていた家です。女王陛下の取り計らいで、滞在中、二人で住むように整えてあります。なにか不都合があれば、エルジャ・サラ大使に申し入れてください」と言い、去っていった。

 家の壁や床は木でできていて、窓はなかった。100年前は窓のある家はなく、窓ガラスが普及するのは、後の時代だ。エルフ族も同じだったのか、人間族に合わせたのかはわからなかった。暖炉の脇に薪が積まれ、台所の水桶には水が汲まれていた。テーブルの上にはアルコールランプ、インクとペンがあった。椅子はなく、収納箱を兼ねたベンチに腰掛けるようになっていた。エルジャが家の中を見回しながら、「ここに来るのはエルジャも初めてですが、もしかして、エルジャのお父さんが使っていたのでしょうか?」と言った。

「この地に住んでいた人なんて、大賢人ジャービルしかいないだろうなぁ」と言うと、エルジャが一つしかないベッドをじっと見て、「ここに2人で住めって言われましたけれど…」と言い、気まずい空気が流れた。エルフ族は、男女が一緒の部屋にいることに寛容なようだ。「エルジャは、転移魔法で戻っていていいぞ」と言うと、「それは女王陛下に背くことになってしまうのです」と拒絶された。「じゃあ、俺が床に寝る。エルジャはベッドを使ってくれ。さて、暖炉に火をいれよう。昔風に、火打石でやるのもいいが、ここは魔法を使わせてもらう」と言って、小さな【火球】を暖炉に放り込み、火を熾した。

 大賢人ジャービルは釣りをしたらしく、壁に釣り竿があり、帽子も置いてあった。そういえば、エルフ族が帽子をかぶっているのを見たことがなかった。これも人間族ならではの風習なのかもしれなかった。ベッドに座るエルジャに、「エルジャの父さんは、ここでなにをして過ごしていたんだろうな。未知の地で、未知の種族との共同生活だろ?」と話を向けると、「さあ? 母上は父上のことをほとんど語らないのです」と言った。

 ベンチの後ろの壁の一部に、こすれたような後があるのを見つけ寄ってみると、壁板が外れるようになっていた。「見ろよ! なにかあるぞ」と言って、壁板を外し、中から布で包まれたものを出した。中身は一冊の本だった。パラパラとめくると、丁寧な文字でびっしりと書かれていた。

「この文字には見覚えがある。これはエルジャのお父さんが残した日記じゃないか? ここを去るときに、置き忘れたのかもしれないな」と言うと、エルジャも本をのぞき込み、「歴史的大発見ということですか?」と言った。

 俺たちは額を突き合わせて、日記の最初の方を読んだ。1日に数行程度、書いていたようだ。


『5月24日 探索隊のメンバーのうち、ここにたどり着けたのは僕だけだ。隊長も、デニスも、濁流に流されたみんなは死んでしまった。精霊のお陰で助かった。もっと早くに警告していれば、こんなことにならなかった。』

『6月1日 ここの言葉を覚えるよりも先に、ここの住人が僕の言葉を覚えた。この街の、耳の尖った、人形のような住人たちは、笑うことも驚くこともしない。エルフという種族だそうだ。多くを語らないのは、独裁者がこの地を支配し、感情まで奪っているかもしれない。だけど、住人たちはみな親切だ。』

『6月15日 言葉を教えてくれているエイマスはこの街のエルフだという。この地の住人と僕が接して良いかを見極めるために、まず彼女だけが僕と話をすることにしたそうだ。エイマスは打ち解けてくれないが、聡明で、忍耐強い。そして美しい。結婚しているのだろうか?』

『7月12日 精霊のご加護で、ようやくエルフの言葉を理解できるようになってきた。そして知ったが、エルフという種族は、感情を表に出さないようにしているそうだ。感情と思考の違いが僕にはよくわからない』

『7月28日 今日は思い切ってエイマスに結婚しているかどうか尋ねた。そして驚いた。彼女は170歳を越えるという。僕の方が歳上だと思っていたが、まさか150歳も相手が年上とは! でも嬉しいことに彼女は結婚していなかった。』

『8月5日 今日は釣りの道具を作ってみた。エルフは釣りを知らないという。僕が釣った魚を見せたら、あのエイマスが興味を持ってくれた』

『8月23日 この街にたどり着いてから3か月が経った。そろそろ帰りたいが、ここでの平和で静かな時間を考えると、後ろ髪引かれる思いがあった。故郷の両親は心配していると思う。でももう少し、この街に滞在したい。』

『9月1日 今日はエイマスに魔法の呪文を教えてもらえないか頼んでみた。エイマスは、すました顔をして、無理だと言った。簡単な呪文で良い、と頼むと、魔法に呪文は必要ないと教えてくれた』


 ここで日記を閉じ、「やめよう。人の日記を読むのは悪趣味だ」と言うと、「母上と父上のなれそめを知る第一級資料として、エルジャには興味があるのです。あの母上が、どうして父上と結婚して、あたしが生まれたのか、ずっと疑問なので」と言う。それは俺も同じだった。

 エルジャがはっとした顔をし、「あっ! 今、神殿から集合の連絡が来ました」と言った。なにを言っているかわからず、「んっ?」と訊くと、「【伝心】の魔法でメッセージが届いたのです。いいですか、マリシさん、教えた通りお願いしますよ!」と言うエルジャは、まるで母親のようだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ