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剣と魔法と富豪冒険者  作者: パラケルスス
第4話 犯罪組織サイクロプス
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2. タールベール公爵と子どもたち

 翌日にはポニーから連絡があり、夕方、タールベール公と会うことが許された。ネイトと2人で衛星都市ザークの中心にある格式高い屋敷を訪問すると、執事に応接室を案内され、待つように言われた。そこへ4歳ぐらいの男の子がやってきて、「お兄ちゃんたち、誰?」というので、「タールベール公に会いにきたんだよ」と言うと、「わかった!」と言って、「パパー!」と大声で叫びながら走って部屋から出て行った。タールベール公の御子息らしい。

 しばらくして、5歳ぐらいの女の子が、さっきの男の子と一緒にやってきた。女の子は頭を下げ、「私はナーニャと申します。5歳です。以後、お見知りおきください。弟はタットラントです。4歳です」と丁寧に自己紹介した。貴族と言うのはこんな歳から礼儀作法を教育されているのかと驚きつつ、立ち上がって、「はじめまして。僕はマリシです。こちらはネイトです」と挨拶すると、ナーニャはじっとこちらを見て、「お父さんと話に来たの?」と口調は子供だった。「そうだよ」と答えると、「お父さん、いつも忙しいみたい」と大人びた口調で言った。「大丈夫、待っているから」と言うと、タットラントが、「遊んでよ」と俺の腕を引っ張った。「じゃあ、捕まえてみようか」と言って、【発光】の魔法を発動し、小さな光の玉を宙に浮かべた。タットラントとナーニャは興奮し、大喜びで光の玉を捕まえようとした。

 そこへ「やあ、お待たせしました」と声がかかった。タットラントが、「あっ、パパだ」と言って、タールベール公のところに飛んでいき、抱きついた。タールベール公は30歳ぐらいの、すっきりした顔立ちの紳士で、庶民が思い描く「品の良い貴族」だった。小さなタットラントを抱き上げ、「遊んでもらっていたのかな?」と言うと、「あのお兄ちゃん、すごいんだよ。光の玉を作れるんだ。パパもできるの?」と言うタットラントに、「ははは。パパにはできないなぁ」と笑顔を見せた。

 俺とネイトは「初めまして。マリシと申します。こちらは秘書のネイトです。お時間を取らせません」と挨拶すると、タールベール公はちょっとふざけたように、「タールベールです。噂の快男児マリシ殿には一度お会いしたいと思っていました。どうぞかけてください」と言い、抱っこしていたタットラントを降ろし、椅子に座った。

「さあ、2人ともお父さんはお仕事の話だよ」と言うと、ナーニャが、「パパ、あたしも居てもいい?」と言った。「いい子にしていられるのならね」と優しい笑みを浮かべると、タットラントが「僕も!」と言った。タールベール公が俺とネイトに片目をつむり、「じゃあ、2人とも一緒にお兄さんの話を聞こうか」と言った。

 早速、「先の戦争で戦災者が困窮しています。それで、支援物資として、衛星都市ザークから食料や生活用品を送ろうと思います。こちらの市民の生活に支障がないように買い付けをしますから、物資を買い付ける御許可をいただけないでしょうか?」と言うと、タールベール公は真剣な顔になり、「王都が大変なのは聞いています。戦災者への支援というのは国王陛下からの依頼ですか?」と訊いた。「いいえ。僕の判断です」と答えると、「貴公が支援物資を買い付け、それを無償で配布するおつもりですか?」と驚いたようだ。「はい。僕にできることと言ったら、それくらいしかありません。できるだけ多くの戦災者を支援したいのです」と答えると、タールベール公は笑みを浮かべ、「わかりました。では、私も協力しましょう。ザーク市の備蓄を提供します。それを運ぶ馬車も準備しましょう」と言った。タールベール公の申し出は意外で驚いた。貴族たちは自治権を与えられている。衛星都市ザークの領主が王都にお金を使う必要はないはずだ。

 ナーニャ嬢が不思議そうな顔をして、「パパ、なんの話なの?」と言った。「ナーニャ、もし困っている人がいたら、どうしないといけないかな?」とタールベール公が訊き、ナーニャ嬢は、「手を差し伸べるが貴族です」と答えた。由緒ある世襲貴族は、幼いころからしっかり教育しているのか。「そうだね。このお兄ちゃんは立派な貴族で、困っている人を助ける相談をしていたんだよ」とタールベール公が言った。俺が男爵になったことをご存じのようだ。

 ナーニャ嬢が、「パパも立派な貴族でしょう。どっちが立派なの」と不思議そうな顔をすると、「ははは。お兄ちゃんのほうかな」と笑った。すると、「じゃあ、あたしはお兄ちゃんと結婚します」と宣言した。タールベール公は、「ははは、見る目があるのは、ママ譲りかな」と冗談を言い、こちらも思わず微笑んだ。

「マリシ卿、我が家では、子供たちにノブレス・オブリージュを教えています。貴族には社会的な責任があり、社会に貢献する義務がありますから。私も父から教わりました。貴公が、子供たちの良い手本になってくれて親として感謝します」と言い、タールベール公が立ち上がった。そして、俺に握手を求めてきた。俺も立ち上がり、しっかり握手し、「お時間をいただき、ありがとうございました。そして、王都への支援に感謝します」と言った。タールベール公が、「明日の朝までに都市の備蓄を準備するようにしましょう。マリシ卿の家にお届けします」と言うので、いくら何でもそんなに早くは無理だろうと思いつつ、「ありがとうございます」と頭を下げた。

「そうそう、マリシ卿、こんな時ですが、貧困街を医療区画として再開発していただき、礼を言います。きちんとした形で礼を言いたかったのですが、お礼を言うのが遅れました」と言うので、「お金を出しただけで、頑張っているのは医療従事者です」と答えると、タールベール公は微笑み、「どうやらあなたは噂以上の人物のようだ。またお二人で遊びに来てください」と言った。


 領主宅からの帰り道、「立派な公爵でしたね」とネイトが言った。「ああ」と短く答えたが、王国を支えているのは、タールベール公のような世襲貴族なのだろうなぁと、心の中では感服していた。「マリシ様は子供が好きなのですか?」と、意外なことを訊かれ、「んっ? ああ、好きだよ」と答えた。「それは良かったです」と言うので、「なんで?」と訊くと、「私もマリシ様の子供が欲しいので」と、こともなげに言った。いきなりのことに「えっ? ええっー!」と慌てると、「あっ! あの、変な意味ではありません!」とネイトは耳まで赤くした。


 翌朝、屋敷の前に大量の物資を積んだ荷馬車が4台も並んだ。タールベール公が、準備してくれたのだ。その様子を見ながら、隣にいた爺に、「我らが領主様は、本当に立派なお方のようだ」と言うと、爺が生真面目に、「お言葉ですが、ぼっちゃまがこの爺に申し付けたのは昨夜のことで、とても準備が間に合いませんでした」と言った。爺よ、いい歳して、張り合いたいのか…。「わかっているって。爺には明日からの物資の手配を頼んだぞ」と言うと、「承知しました」と、厳しい顔のまま一礼し、屋敷に戻っていった。

 ネイトが物資の中身をチェックし、荷馬車に番号を振っていた。近づく俺に気づき、「おはようございます。馬と御者はすぐにでも王都に出発できます」と言った。「これだけ集めてくれるなんて驚きを通り越して、感動だな」と言うと、「ギルドマスターがいつも褒めるのは、タールベール公とマリシ様のことです」とネイトが微笑んだ。俺は肩をすくめ、「それは光栄だ。タールベール公の善意にこたえられるように、今日中に荷馬車を運ぼう」と言ったとき、パジャマ姿のクロートーがやってきた。柄物のシャツを着ただけなので、大きな胸が強調されている。なんて格好をしているんだ。

 ネイトが眉間に皺を寄せ、「いつまでその格好でいるつもりだ!」と厳しく言った。クロートーはボーッとした感じで、「もう出発するの?」と言い、「無論だ。遅れるのなら、クロートー殿は来なくていい」とネイトが言った。「そんなに急がせないでよ。すぐに着替えるからさー」と言いながら、のそのそと屋敷に戻って行った。

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