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剣と魔法と富豪冒険者  作者: パラケルスス
第4話 犯罪組織サイクロプス
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1. プロローグ

ダークエルフ族の侵略戦争後、王都復興に奔走するマリシ。しかし、出る杭は打たれる。思わぬところから思わぬ邪魔が入り、仲間までが狙われる。Sランク冒険者の活躍を描いたシリーズ第4弾。

 日の前に天アリ、摩利支と名づく、大神通自在の法アリ、 常に目の前を行き、日は彼を見ざるも彼は能く日を見る。

『仏説摩利支天経』より


(日の光の前に人を超越した存在があった。マリシと名乗り、魔法を自在に操った。いつも目の前を行き、周りは彼を見ることが出来なくても、彼は周りを見ることができた)



挿絵(By みてみん)


 ダークエルフ族の侵略戦争が終わったとき、南門辺りの建物は壊滅的なダメージを受け、住む場所を奪われた王国民は、コロッセオに建てられた仮設住宅と神殿での生活を余儀なくされていた。そんな戦災者への支援物資を調達するため、俺はゴーレム馬車を走らせ、ネイトとクロートーと一緒に衛星都市ザークに向かっていた。復興の目途が立たない王都を見限り、家財を積んで衛星都市ザークへと向かう者たちが、馬車を走らせ、道は混んでいた。

「王都から逃げ出すのは仕方ないか。まだ外壁には穴の空いたままだし、魔物が襲ってくるんじゃないかって不安の声があるみたいだからなぁ」と、独り言のように言うと、左隣りに座るクロートーが、「ナイキ国王陛下はもう戦争は終わったって宣言したのに。それを信じられないのかしら?」と不思議そうだ。右隣りのネイトは、「これだけのことが起きると、国王陛下がなにを言っても信じない者は出てくるだろう。仕方のないことだ」と達観していた。「まぁな。混乱している時って、普段じゃありえないような奴が出てくるからなぁ。他人から物を奪ったり、必要以上に貯めこもうとしたり」と言うと、今度はクロートーが悟りきったように、「ホント人間って、あさましいわよね」と言った。


 昼前には衛星都市ザークに到着し、そのまま冒険者ギルド本部に行った。ネイトが受付職員にギルドマスターに会いたいと伝えると、すぐに応接室に通された。そこには、スキンヘッドに髭面のギルドマスター、ポニーが待っていた。

「おう、3人とも、王都では大変だったな。まあ、座ってくれ」と勧められ、俺たちはポニーと向かい合うように座った。「戦争での功績で貴族になったそうじゃないか。めでたい、めでたい」と茶化すので、「よしてくれ。貴族って言っても一番下っ端の男爵で、しかも一代貴族だ。Sランク冒険者の方がよっぽど通りがいい」と言うと、「ははは。Sランク冒険者は片手で足りるくらいしかいないからな。それで、今日はどうした?」と訊かれた。

「ポニーはタールベール公と面識があるだろう? 至急、面会させてもらうことはできないか?」と本題に入ると、「おう? 領主様か。どういう要件だ?」と訊かれ、「王都で物が不足しているんだ。それで、ここ(衛星都市ザーク)から食料や生活用品を輸送しようと思っている。一言、領主に断っておきたいと思って」と正直に言った。南の衛星都市サゼリーは他の2つの衛星都市に比べて小さく、供給できる物資に限りがあった。そして、西の衛星都市ミラードは、今回の戦争の発端で、支援を求められるような状態ではなかった。それで衛星都市ザークにやって来たのだ。

 ポニーは大きく頷き、「わかった。タールベール公は立派な貴族だ。そういう相談ならすぐに会ってくれるだろう。約束を取り付けたら、マリシの旦那の屋敷に遣いをやればいいか?」と協力的なので、「頼む、そうしてくれ。ありがとう」と礼を言った。ポニーが世間話のように、「ところで、王都はそんなにひどいことになっているのか?」と訊くので、「多くの兵士が死んだし、一般市民も死んだ。街の外壁を破られ、南側の建物はほとんど壊されている。家や財産を失った王国民も多いし、王都全体がパニック寸前って感じだ。だが、無傷の区画も多いから、領民たちが助け合って生活している感じだ」と、王都の惨状を教えてやった。「王室は機能しているのか?」と訊かれ、「ああ。ナイキ国王陛下が率先して対処している。だが、治安の悪化が心配だ。それに混乱に乗じて貴族の反乱が起こるかもしれない。まだ臨戦態勢のままみたいだ」と言うと、「政情不安定になると、良からぬことをし始める奴が出てくるからなぁ。それにしても、衛星都市ミラードから反乱が起こるとは思ってもいなかった。てっきり王国南方領辺りから反乱が起こると思っていた」と言う。王国南方領とは、王国のはるか南にある一画で、王室から警戒されている貴族が治めていた。衛星都市や王都周辺を治めているのは王室寄りの、世襲貴族ばかりだ。

 俺が「世の中、何があるかわからないってことだ」としみじみ言うと、「ははは、また老人みたいなこと言っているな、マリシの旦那は」とポニーが破顔した。そして、「しばらくこっちにいるのか?」と訊くので、「いや。王都をこのままにしておけないし、王都と衛星都市ザークを往復しようと思っている。だから、冒険者ギルドの依頼もしばらくは受けられない」と答えると、「わかった。Sランクにしか頼めない依頼があったら、屋敷に遣いをやることにする。受けるかどうかは、マリシの旦那が判断してくれ」と言ってくれた。


 俺たち3人はポニーに別れを告げ、冒険者ギルド本部内にある食堂に立ち寄った。パンの間に野菜や肉を挟んだ食べ物と、揚げたジャガイモ、そしてレモネードのセットを注文した。一人500イェンと格安だった。

「うまい!」とクロートーが唸り、パクパク食べていた。ネイトはパンの間から具が落ちないように、慎重につまんで食べていた。こういうところに二人の性格の違いが出ている。

「なあ、戦災者って、どういう物を必要としていると思う?」と訊くと、クロートーが、「水に食料に住むテントじゃないの?」と言った。

「そうだなぁ、水と住む場所は何とかなっていると思うから、さしあたり必要なのは食料か」と言うと、ネイトが真面目な顔をして、「出来上がった食品は日持ちしませんし、避難場所にいる戦災者たちは調理する道具を持っているかどうかもわかりません。食料を届けるだけでは、戦災者の役に立たないかも知れません。しばらく炊き出しをするのはどうでしょう? 避難所の近くで食事を作って、取りに来てもらえば何とかなるのではないかと思います」と言った。その場で作って配るのであれば、それぞれが調理するよりも良いだろう。

「そうしよう。それからユシート先生に頼んで、衛星都市ザークから王都に医療班を派遣してもらおうか、避難所に病人が出るかもしれないし」と言うと、ネイトが「私がユシート先生に連絡します」と答えた。

 俺はレモネードを飲み干し、「炊き出しと医療支援は良いとして、破壊された店舗を何とかしないと経済が回らないなぁ…」と言うと、ネイトも首を傾げ、「事業を再開する余裕がない商人が多いのではないでしょうか?」と言った。今回の戦争は突然のことで、備えることはできなかったはずだ。しかし、今の王国に戦災者を経済支援する余裕があるだろうか。

「王都の土地を買って、店舗を建てて、格安で貸すのはどう思う?」と何気なく言うと、「ずいぶんお金がかかると思いますが…足りないことはありません。ですが、そこまでマリシ様がしなくても良いと思います」と、ネイトが少し口元をほころばせ、こちらを見た。

「元々、おやじとおふくろから貰った金だ。有意義なことに使えるなら、惜しくない。ここ(衛星都市ザーク)に医療区画を作ったのと同じように、王都の南区画にも商店街を作って、復興させよう。土地を買い占めて、建物を作り、只みたいな家賃で貸し出そう」と言うと、ネイトが頷き、「マリシ様は貴族なので、社会的な信用があります。以前のように保証人をつけろとは言われないでしょう。さっそく貴族の肩書が役に立ちそうですね」と言った。「自分が貴族なんて、まだしっくりこないよ」と顔をしかめると、「そのうち、マリシ様も貴族っぽくなりますよ」とネイトが悪戯っぽく言った。

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