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剣と魔法と富豪冒険者  作者: パラケルスス
第3話 エルフ族の街
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24. エピローグ

 王都キキリーでの戦争は、「ダークエルフ族の侵略戦争」としてキングスト王国の歴史に刻まれることになった。きっかけがボードウォーク公による衛星都市ミラードの反乱とは発表されなかったが、公然の秘密だった。この戦争で王国民2,000人近くが死んだが、公表された戦死者数にミラード兵3,000人の死は含まれていなかった。

 大量に兵を失い、すぐに軍事力を強化したいところだが、ナイキ国王陛下の英断で、王都に住む王国民の生活を復興させることが優先された。王都と衛星都市ミラードには、衛星都市ザークと衛星都市サゼリーの兵士が駐留し、治安が乱れることはなかった。

 戦争が起こった背景は徹底的に調査され、相当前からダークエルフ族がボードウォーク公にすり代わっていたと判明した。ボードウォーク公に罪はなかったのに、王国を揺るがす事件だったことから、公爵家は取り潰された。調査の途中で、俺が衛星都市ザークで襲われた事件も再調査され、ジューク以外の王国騎士団員と王国魔術団員が事件に関わっていたことも明らかにされた。王国騎士団員と王国魔術団員が一般王国民を襲い、敗北したことは、身分を剥奪したうえで死罪に相当したが、ナイキ国王陛下が裁判長に、「考えてみよ、あのマリシと戦って誰が勝てるというのだ」と言い、恩赦になった。

 王都キキリーを攻めたミラード兵たちは全員戦死した。バート副軍団長の死体は壊された南門近くで発見された。満身創痍になりながらオークと刺し違えていたという。ニスル魔術団長は魔法を使い続け、マナがなくなって死んだそうだ。その死に顔は笑みを浮かべていたと聞いた。ミラード兵の奮戦は認められ、罪が一等軽くなり、親族は死罪を免れ、王都と衛星都市から追放という措置が取られた。


 エルジャ・サラがエルフ族の大使という事実は、ごく一部の王室関係者にしか伝えられず、引き続き王国アイドル、フェフェとして活動するそうだ。クロートーはエルジャと一緒にアイドルをしたかったようだが、「トロールバスター」として王国兵の間に知られ渡り、それはかなわなかった。だが、王国騎士団勲章という勲章を授かり、身分は王国騎士団員と同じになった。ネイトの正確無比な弓はナイキ国王陛下に讃えられ、「氷の美貌の射手」と王国兵に知られた。クロートーと同じく、王国騎士団勲章を授かった。

 メーティス先生は影の功労者だったが、勲章をもらうことはなかった。感謝と伝えるため、メーティス先生と一緒に食事に行ったが、自分の興味がある実験のことだけを話し続けるので、適当に相槌を打って誤魔化した。年下の俺が言うのも変だが、かわいい人だ。

 俺は【隠形】の魔法を多用したおかげで、王国兵の間で注目されることはなかったが、ダークエルフ族の死体の斬り口から、「王国騎士団員クラスの遣い手」という報告書があがり、さらには戦闘していないはずの北門からもダークエルフ族の死体が見つかったことから、ナイキ国王陛下が「マリシがやったのだ」と断定した。戦場での俺の功績が認められ、男爵という爵位を受け賜わってしまった。爵位は、公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵の序列になっており、男爵は貴族としてはもっとも低い地位だった。そのうえ、爵位を子供に継がすことができない一代貴族だった。男爵になったことで、カナンと言う辺鄙(へんぴ)な地区を拝領し、領主になった。俺は固辞したのだが、ナイキ国王陛下から「貴族というのは、ときどき領地に顔を出して、民の安穏な生活を守り、その代償に税を得ればいい」と大雑把に説明され、受けることになった。


 戦争が終わって2週間が過ぎ、衛星都市ザークに戻っていた俺たちに、ナイキ国王陛下とイリス王妃殿下、そしてエルジャからの食事のお誘いがきた。俺、メーティス先生、ネイト、クロートーはゴーレム馬車で王都に行き、正装に着替えて王城居館の一室に行った。

 俺たち4人は王室ファミリーと向き合う形でテーブルにつき、リラックスした雰囲気で会食が始まった。ナイキ国王陛下は上機嫌で、「マリシ、ネイト、クロートー、メーティス、此度(こたび)の戦争では大活躍だったな。王国始まって以来の危機であったが、そなた達のおかげで、なんとか乗り切ることができた。このタイミングで余とマリシが再会したのは、神の采配のように思う」と言い、イリス王妃殿下も笑顔で、「マリシ卿、みなさん、本当に感謝しています。こうしてエルジャと再会できたことも、そしてエルジャに事実を伝えることができたことも、みなさんのおかげです。私たち家族のため、そして王国民のために、ありがとうございました」と言った。

 どさくさに紛れて、「エルジャは冒険者として活動するため、冒険者ギルド本部のある衛星都市ザークに移住したいと思います」と宣言すると、すぐにナイキ国王陛下から、「お前はエルフの大使なのだから、王都にいる必要があるだろう」とツッコまれ、イリス王妃殿下からも、「そうよ、エルジャ。もしなにかあったら、エイマス・サラ女王陛下に顔向けできませんわ」とダメ出しされた。エルジャは口を尖らせ、「王城は退屈、王都はファンだらけ。ここにいると、エルジャは息が詰まりそうなのです」と不満を言った。

 ナイキ国王陛下はにやりと笑い、「そうか。では、王都の外に住むことは許可しよう。ただし、衛星都市ミラードだ。王妃が衛星都市ミラードに行く。エルジャはイリスに同行しなさい」と言った。

「えー! パパとママは離婚するのですか?」と驚きの声を上げると、イリス王妃殿下が笑みを浮かべ、「違うわよ。国王はね、信用できる貴族に衛星都市ミラードの領主を任せたいの。衛星都市ミラードが落ち着くまで、しばらくは、ママが衛星都市ミラードの領主を務めるわ」と説明した。たった一人の貴族にダークエルフ族がすり替わっただけで、これだけの危機に陥ったのだから、人選に慎重になるのも無理はないだろう。

 ナイキ国王陛下は、「王妃は実務的なことに長けている。だから衛星都市ミラードの混乱を解決してもらうつもりだ。エルジャは娘として王妃を手伝いなさい」と言った。大使にされたり、娘にされたり、エルジャも大変だ。

「パパは、どうしてもエルジャをマリシさんから引き離したいようね!」と拗ねたように言うエルジャに、ナイキ国王陛下は少しうろたえて、「そ、そんなことはないぞ。マリシは信頼しているし、男爵にもしてやった」と言った。ナイキ国王陛下よ、俺は爵位を望んでいなかったのだが…。

 ナイキ国王陛下が俺を見て、「ところで、マリシ。衛星都市ミラードのさらに南西の、キンベ山脈の一部に、ドワーフ族が持っていたミスリル鉱山がある。今は王国領だが、眠った状態だ。なぜだか知っているか?」と訊いてきた。俺が首を振ると、「鉱山の山頂に、竜が棲みついているという言い伝えがあるからだ。余は調査隊を2回送ったが竜の存在は確認できなかった。と言うより、誰も山頂にたどり着けず、確認できなかった」と言う。つまり、俺に「調査してこい」と言いたいのだろう。

「わかりました。調査に行きます」と答えると、ナイキ国王陛下は首を振り、「いや、誤解しないでくれ。これは依頼ではない。その鉱山のある一帯をマリシの領地にしたのだ。領主の好きなようにしていい」と言う。これは思わぬご褒美だ。「ありがとうございます」と言うと、エルジャが、「パパ! エルジャにはママのお手伝いさせて、マリシさんたちには面白そうな話を振るのですか?」と抗議すると、イリス王妃殿下が「エルジャ、国王の話を最後まで聞きなさい」と言い、ナイキ国王陛下はにやにやしながら言った。

「今度、マリシに与える領地はカナンという土地で、衛星都市ミラード市から馬車で7時間ぐらいの場所と聞いている。衛星都市ザークからだと2日はかかるそうだ。それでもエルジャは衛星都市ザークに住むのかな?」

 エルジャは目をしばしばさせた後、「エルジャは、衛星都市ミラードに行きます!」と答えた。


 その後、ナイキ国王陛下とイリス王妃殿下が俺の子供のころの話をするのには閉口したが、2人が冒険者時代に、おやじやおふくろと冒険者パーティーを組んだときの話など、みな興味津々に聞いた。エルジャは取り戻した記憶から、エルフ族に関わるさまざまなエピソードを語り、ナイキ国王陛下はエルフ族が平和的な種族であると理解したようだ。

 会食の後、俺たちは王都キキリーの家に戻った。夜は寒く、執事のノートンが居間の暖炉に火を入れてくれていた。ソファに座って火を見ていると、ロング丈のセーターを着たネイトが部屋から出てきて、俺の隣に座った。

「今回の戦争では死ななくて良い人間がたくさん死んだな。でも、ナイキ国王陛下ならば、必ず王国を復興してくれると思う」と言うと、「はい。ナイキ国王陛下は信頼できる国王陛下だと思います」とネイトも同意した。「近々、ナイキ国王陛下から受け賜わった領地の様子を見にいってこようと思う。ネイトも一緒に行かないか?」と言うと、「お供します」と言い、ネイトが俺の身体に寄り掛かった。不思議と緊張することなく、この状況を受け入れることができていた。

 その時、突如として居間のドアが開く音がし、ネイトは俺から飛び退いた。居間に入ってきたクロートーが俺たちの前にきて、「なにしているの?」と(いぶか)しげに見た。「べ、別に? ネイトと話していただけ」と誤魔化すと、クロートーが「なんの話よ?」と訊き、ネイトが「先の話しだ。マリシ様は国王陛下に拝領した領地を見に行く」と正直に答え、クロートーが「あたしも混ぜてよ」と言い出した。それから、「ダメだ」、「どうしてよ」のようなやり取りが続いたが、結局、クロートーも一緒に行くことになった。

 メーティス先生も自室から居間に降りてきて、「マリシくんたちは引っ越すの?」と訊くので、「まだ決めていませんが、領主は領民の生活を守る義務があるそうです」と答えると、メーティス先生が不思議そうに、「誰が言っていたの、そんなこと?」と訊く。「ナイキ国王陛下です」と言うと、メーティス先生は笑みを浮かべて。「マリシ君って、まじめよねー」と言った。そして、「冒険者と男爵と二足の草鞋を履くわけ? でも、マリシくんには私がいるので大丈夫よ」と言った。「むっ! 私もいます」とネイトが張り合うように言い、クロートーも「あたしもいるわ!」と言った。「みんな、ありがとう」と礼を言い、未来に思いを巡らせた。


< 第3話 完 >

 ブックマークを付けてくださっている方、評価ポイントをつけてくださった方、ありがとうございます。「エルフの族街」はこれで終了です。マリシたちの活動範囲を広くし、登場人物も多くしました。これでようやく主要なキャラが揃いました。

 ファンタジー小説におけるエルフ族のイメージは、『指輪物語』で定着したと言われています。寿命がない、美男美女、身体能力が高い、耳が尖っている、聡明、善良などが特徴で、映画『ロード・オブ・ザ・リング』を見た方やRPG好きな方であればイメージできると思います。このシリーズでは、エルフ族を感情を持たない、論理的な種族にしました。人間族よりも身体能力が劣り、魔法を使うのは、RPGの定番設定です。ただし、エルフ族だからと言って、清廉潔白な存在ではなく、人間族の常識からするとやばいところはたくさんあって当然と思いました。

 魔物のデータは、健部伸明と海兵隊著「幻想世界の住人たち」(新紀元文庫)、S.ジャクソン・I.リビングストン監修「モンスター事典」(社会思想社)(おそらく絶版)を参考にさせていただきました。

 これからも応援をよろしくお願いします。

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