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剣と魔法と富豪冒険者  作者: パラケルスス
第3話 エルフ族の街
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23. 運命の日の終焉

 翌朝、戦場には靄がかかり、周りは見えていなかったが、風の流れか、死臭がひどかった。そして、靄が晴れると、地面に転がる死体が露わになった。敵は夜のうちに南門側に集結したらしく、目の前は大勢の敵で埋め尽くされていた。パラゴの情報によると、ダークエルフ族はグループを作り、互いに守るようにしていた。そして、トロールを護衛するオークの数も増えていた。王都でも、東門と西門の兵たちが南門に配置しなおされていた。

「クロートー、起きろ」と揺すると、クロートーが眠そうな目でゆっくりと身体を起こした。そして、圧倒的な数の敵を見て、「うわ! 昨日より増えていない?」と、目が覚めたようだ。「敵も味方も、南門に集まっている。今日はここで戦うことになる。お前が(かなめ)だ。頼む、トロールの攻撃を阻止してくれ。…それから、ありがとうな」と声をかけると、クロートーがちょっと驚いた表情で、「別にマリシが感謝する必要はないでしょう? それより、マリシが死んだら、あたしも死ぬのよ。気をつけてね」と言われた。「わかっているって! 今日が無事終わって、明日はもっといい日になればいいな」と言うと、クロートーは、「そうなる予感がするわ」と笑顔で言った。

 南門前の陣に戻ると、ミラード兵の士気は高く、疲労から回復しているようだった。バート副軍団長とニスル魔術団長がやってきて、「戦況が不利になれば、お二人は軍から離脱してください。そして、叶うなら、ミラード兵の最期を王国民に伝えてください。ボードウォーク公のため、国王陛下のため、ミラード兵は一団となって戦って散った、と」と、覚悟を決めた目で言い、俺は何も言えなかった。

 バート副軍団長が大声で、「ミラードの兵よ! 今日は死ぬにはいい日だ。われわれは国王陛下の前で戦う! これほどの名誉はない! 国王陛下の前で、ボードウォーク公の無念を晴らそうぞ!」と叫び、「おー!」という声が上がった。

(複数のダークエルフ族が魔法を構築しています。魔法の種類はわかりません)とパラゴが警告したので、すぐに「クロートー! 耐マナシステムを作動しろ! ニスル魔術団長! 魔術師を全面に出し、魔法で部隊を守ってください。バート副軍団長殿、兵を後退させ、防御してください」と一息に叫ぶと、みなが反応した。手印を組み、【防術】と【障壁】を、できるだけ広い範囲に発動した。

(巨大なエネルギー体が来ます)という警告に続き、ダークエルフ軍から黒い帯のようなものが伸びた。俺が張った防御シールドのパワーがみるみる減り、17%まで下がったところで、ようやく攻撃魔法が止まった。ミラード兵やその後ろの南門には被害はなかった。

 ホッと胸をなでおろした時、パラゴが、(外壁3カ所が崩壊しました)と報告した。驚いて振り返ると、攻撃された2箇所の外壁のうち、1箇所は外壁に穴が空き、1箇所は王国兵を巻き込んで崩落しため塞がっていた。敵軍から鬨の声が上がり、穴の開いた外壁に殺到してきた。こうなっては王都はおしまいだと絶望した時、「せやー!」という甲高い声がし、クロートーがトロールに飛び蹴りを食らわせていた。その姿に、目が覚めた。ここで気持ちが折れたら負けだ。

 ほとんど無意識に【拡声】魔法を発動し、「王都を守るぞ。敵の侵入を防げ!」と檄を飛ばした。そして、刀を抜き、手あたり次第に斬り捨てながら、クロートーのサポートに急いだ。パラゴが、(トロールに【身体強化】の魔法が施されています)と警告したので、「クロートー! トロールに【身体強化】の魔法が施されているぞ!」と叫ぶと、クロートーが頷き、「このチート野郎!」と怒鳴った。クロートーよ、チートぶりはお前の方が半端ないぞ。

 続けて「もう手加減しないわよ!」と叫んだ。今までだって、手加減はしていないだろう、と思っていたら、クロートーがトロールにパンチを入れ、一撃で葬り去った。本当に、いままで手加減していたのかよ…。

 オークが後ろから戦斧でクロートーの背中を斬りつけたが、メーティス先生の作ったアーマーが衝撃を緩和し、クロートーは体勢を崩すことなく、回し蹴りでオークを仕留めた。近寄るゴブリンに至っては、クロートーが振り下ろした拳で、頭が身体に埋まった状態で絶命した。

 ミラード兵は、王都への魔物の侵入を食い止めようとしたが、圧倒的な数の差に、一人、また一人と倒れていった。俺は刀を振るいながら魔法を使い、破られた外壁に殺到する敵を減らした。

(宿主様、後方のダークエルフ族が魔法を構築しています)とパラゴが警告したが、【拡声】を発動する余裕はなく、ありったけの声で、「みんな、俺の後ろに回れ! 魔法攻撃が来る!」と叫び、手印を組んで【防術】と【障壁】の魔法を展開した。この混戦ではニスル魔術団長やバート副軍団長に警告する間はなかった。

(攻撃が来ます)という声に続き、【防術】シールドがみるみる減った。ダークエルフ族は敵も味方も区別しないので、魔物もバタバタ倒れ、【防術】シールドの外にいた兵士も死んでいった。なんとか【防術】シールドが持ちこたえたが、攻撃魔法を使う余裕がないほど、マナを消費していた。

【隠形】の魔法を発動し、ダークエルフ族の傍に走ると、張り巡らされた【防術】の魔法で、【隠形】の魔法は破られた。突然現れた俺に慌てたオークが戦斧を振り回し、それに当たってダークエルフ族1人が絶命した。さんざん仲間を殺した罰が当たったのだろう。

(ダークエルフ族の魔法が完成しています)とパラゴが警告した。慌てて耐マナシステムを発動すると、飛んできた「なにか」は霧散し、こちらはダメージを受けなかった。耐マナシステムを発動中は自分も魔法を発動できなくなるので、刀を振るって、護衛のオークともどもダークエルフ族を斬った。一息ついたとき、後ろから「マリシ様!」と聞き慣れた声がした。振り返えると、ネイトとエルジャがいた。

「ネイト、無事か?」と言うと、「はい、私たちは大丈夫です。すでに王都内に敵が侵攻しています。国王陛下と王妃殿下も最前線で戦っています」と言う。局所戦では成果を挙げられたが、王都に敵が大挙して流れ込み、戦局は圧倒的に不利なようだ。「エルジャ、王都内の前線に戻りたい。転移魔法を頼めるか」と言うと、「はーいっ!」という言葉で視界に霞がかかり、それが晴れたときには王都の中にいた。

 王国兵と魔物の攻防が繰り広げられ、王国魔術師のシュルツが防御魔法でダークエルフ族の攻撃を抑えていたが、マナが尽きて死ぬ寸前だった。「もうやめてください! エルジャ、頼む」と言うと、「はい、はぁーいっ!」とエルジャの調子っぱずれな返事が響き、広範囲に防御壁が展開された。続いて、地面が割れ、ゴブリン、ホブゴブリンが地中に落ちていった。マナを失いかけたシュルツが、息も絶え絶えで、「どうにも超えられない、才能の壁があるようです」と言うので、「まったくです」と答えると、シュルツは微笑んで気を失った。

 エルジャはダークエルフ族の魔法を防御しつつ、反撃しているようだ。エイマス・サラ女王陛下の血筋のせいか相当な魔術師らしい。というか、エルジャの魔法レベル 102がどれほどのものか、魔法レベル82の俺には想像すらできなかった。

 ネイトはオークやホブゴブリンを剣で倒していた。類まれな戦闘センスがあるうえ、時間をかけて鍛錬した天才だ。魔物に引けを取ることはなかった。近くではナイキ国王陛下とイリス王妃殿下が、敵と戦っていた。冒険者だったころを彷彿させるように、2人のコンビネーションは息がぴったりだった。

 王国魔術団長のノアが、「国王陛下、すでに王都に多数の敵が侵入し、ここでは防戦できませんぞ」と、唸るような声で言った。ナイキ国王陛下は、「全兵士に告げよ! 環状道路まで退却し、そこで敵を食い止める!」と叫んだ。【拡声】魔法で、指示が飛び、王国兵はじりじりと前線を下げた。

 前線の輪が縮まり、防御線の密度は上がったが、圧倒的な敵の前に苦戦が続いた。力の強いオークやホブゴブリンだけでなく、スキをついて足を払ったり、物を投げつけたりするゴブリンも厄介だった。すべての兵士が環状道路に下がった後、イリス王妃殿下とエルジャは【障壁】の魔法を発動したり解除したりして、攻めてくる敵の数をコントロールし、確実に魔物を倒していった。環状道路の先には王国民の避難所があり、この前線を破られれば、待っているのは魔物による虐殺だ。みんな必死に戦った。しかし、押し寄せる敵の数が多く、徐々に前線にほころびができ始めた。そして、一部が崩れると、それを埋める余力はなかった。みるみる敵に押し込まれた。

 絶望的な局面のなか、戦場に変化が起こった。パラゴの表示の中から、ダークエルフ族を表す赤い点がみるみる消えていったのだ。そして、頭の中に、強い思念が響いた。


[エルフ族はいかなる侵略行為も許しません]


 敵も味方も、なにごとかと戦闘を止めた。パラゴの表示で、破られた南門近くの敵が一瞬で消えるのがわかった。そして、外壁の外から、環状道路までの敵がどんどん潰されていった。文字通り、ぺちゃんこだ。

 兵士たちが、目の前の変化に茫然としていると、エイマス・サラ女王陛下と上級院の6人が転移魔法で現れた。なぜかクロートーも一緒に転移してきた。クロートーはヘルメットを畳み、笑顔でこちらに手を振っていたおかげで、兵士たちにエルフ族が敵ではないと伝わったようだ。

 エイマス・サラ女王陛下は、青い髪に銀色のサークレットを付け、ベージュのローブ姿で、手には杖を持っていた。上級院のメンバーは白いローブを着て、杖を持っていた。尖った耳に、整った顔立ちで、一切の表情がなかった。どんな魔法なのかはわからないが、王都の中にいた魔物は、ブシュっと音を立て潰され、地面に血のシミを作っていった。楯突くもの、逃げるもの、お構いなしだった。

「あれはエルフ族のエイマス・サラ女王陛下です」とナイキ国王陛下に告げると、エルジャが、「パパ、女王陛下はあたしのお母さんです。エルフ族は人間族との交流を望んでいます」と付け加えた。

 ナイキ国王陛下の視線はエルフたちに釘付けで、「エルフ族の魔法というのは、ここまで強いのか。あの力がわれわれの脅威になることはないのか?」と呻くように言った。「パパ、エルフ族は平和を愛する種族です。信じてください」とエルジャが言い、俺も「ナイキ国王陛下、エルフ族が王都を侵略することはありません」と言った。ナイキ国王陛下は、「しかし、あそこまで冷酷に敵をせん滅するのを見ると、余は空恐ろしいぞ…」と呟いた。ナイキ国王陛下の感想は、その場にいた王国兵すべての心情を代弁するものだった。たとえ倒されたのが敵であっても、圧倒的な力で無慈悲に倒される様子は、感情を持つ人間には虐殺のように映った。

「エルフ族は感情を持たず、理性的に行動します。それゆえ、我々には非情に思えますが、思慮深く、慎重な種族です。学ぶべきことは多いと思います」と、エイマス・サラ女王陛下を擁護すると、ナイキ国王陛下が頷いた。

 まもなく魔物はいなくなり、人間族の息遣いしか聞こえなくなった。不気味な静寂のまま、七人の、無表情なエルフ族が横一列に並んだ。まるで人間族の存在意義を審判するかのような目だ。

 エイマス・サラ女王陛下たちの前にナイキ国王陛下が進み出ると、「余は人間の国王、ナイキです。此度(こたび)の援軍、人間族一同、大変感謝します」と力強く言った。エイマス・サラ女王陛下はナイキ国王陛下の謝意に右手を挙げ、「私はエイマス・サラです。エルフ族の女王にして、エルジャ・サラの母。エルフ族は人間族との交流を望みます」と言った。

 ナイキ国王陛下はエイマス・サラ女王陛下をじっと見て、「交流とは、具体的にどのようなことか伺いたい」と問うと、「人間族の文化・習慣・価値観を知り、お互いを理解したいと思います。エルフ族はエルジャ・サラを大使とし、人間族の社会に住まわせることを希望します」と言った。「わかりました。もちろん、許可します。われわれ人間も大使を派遣して良いですか?」と言うと、「エルフ族と人間族では、時間の感覚も、知識の量もまったく違います。エルフ族の社会に人間が住むのは難しいでしょう。必要な時に、エルフ族が認めた者に限って遣わせていただくことを希望します」と答えた。もう少し言い方があるだろうと思ったが、そこがエルフ族だ。ナイキ国王陛下は、「承知した。では、このマリシを大使としたいが、いかがか?」と、いきなり俺に役目を振った。エイマス・サラ女王陛下は俺を見て、「その者のことは存じています。適任です」と言った。これで決まってしまった。

 ナイキ国王陛下は、「大きな決定は代表が行い、細かいことは担当者が行うのが、人間族のやり方です」と言うと、エイマス・サラ女王陛下は、「それはエルフ族も同じです」と答え、続けて「それでは今日をもってエルフ族と人間族の交流を開始しましょう」と無表情に言った。

 ナイキ国王陛下が右手を差し出すと、一瞬の間があったが、エイマス・サラ女王陛下はナイキ国王陛下と握手した。異なる文化、異なる習慣を受け入れると言う意思表示のようだった。

「エイマス・サラ女王陛下、王国民を代表して、もう一度言わせていただきたい。此度のエルフの加勢に大変感謝しております」とナイキ国王陛下が言い、エイマス・サラ女王陛下は、「これまでエルフ族は他の種族の戦争に介入することはありませんでした。エルジャ・サラが人間族と共闘したことで、前例ができ、上級院との協議の結果、人間族に加勢することになりました。エルフ族は侵略者を許しません」と答えた。どうやらエルジャが戦っているところを、エル・キンベの町から見ていたらしい。エイマス・サラ女王陛下は、「この戦さで、ダークエルフ族は相当な損失を被りました。これはエルフ族にとっても益があります」と付け加え、ナイキ国王陛下が頷いた。続けて、エイマス・サラ女王陛下が、「娘が国王陛下と王妃殿下に育てられたと聞きました。感謝します」と礼を言った。「感謝」はもちろん感情的な表現ではないが、礼をいうエイマス・サラ女王陛下の姿に俺は驚いた。

 ナイキ国王陛下は笑みを浮かべ、「余も王妃も、娘との再会を喜んでいます。余と王妃にとって、()()()娘です」と言うと、エイマス・サラ女王陛下は両眉をちょっと上げ、「興味深い」と言い、上級院のメンバーともども転移魔法でいきなり消えた。あまりに唐突で、ナイキ国王陛下は面を喰らったようだったが、「これにて戦争は終結だ。王国民よ、勝利を祝え!」と叫んだ。それに呼応し、大きな歓声が上がった。

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