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剣と魔法と富豪冒険者  作者: パラケルスス
第3話 エルフ族の街
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20. いかなる侵略行為も許さない

 エル・キンベの街に戻る途中、手当たり次第に敵を斬った。【身体強化】魔法で土塀に跳び、高台に戻るとネイトが駆け寄り、「お怪我は?」と言うので、「大丈夫だ」と答え、「ネイトは?」と訊くと、「大丈夫です。味方に重傷者はいません。フェフェ、いえエルジャ・サラ殿が戻られました」と言った。

(パラゴ、エルジャ・サラの位置と状態を表示しろ)と指示すると南門のソルド・ケス衛兵長の近くがピンされた。そして、(エルジャ・サラ様の魔法レベル、70から102に上がりました)と言った。見たこともない高レベルだ。俺の魔法レベルは82なので、今のエルジャ・サラにまったく敵わない。ちなみに、エルジャ・サラ以外のエルフ族は、過去にパラゴと約束でもしたのか、一部しか表示されていなかった。

 俺とネイトは北側で戦っているクロートーのところに行き、高台から「クロートー! 街に戻れ!」と叫んだ。クロートーはこちらに気づいたが、応援されていると思ったのか、笑顔で手を振ってきた。

【拡声】魔法を発動して叫ぼうとした時、クロートーの身体がふわりと浮かんだ。「うわ、なに、これ!」と、足をバタバタさせるクロートーは、釣りあげられ、エル・キンベの街に運ばれた。エルフ族の誰かが運んだのだろう。誰の魔法かわからないので、とりあえず近くの上級院のメンバーに、「ありがとうございます」と礼を言うと、「女王陛下がいらっしゃった以上、街の外で闘うのは無意味だ」と、無感情に、と言うか、不愛想に言った。

 俺とネイト、クロートーの3人が東門に戻ると、高台には、女王陛下とソルド・ケス衛兵長、そしてエルジャ・サラがいた。エルジャ・サラは俺たちを見ると笑みを浮かべたが、慌てて表情を隠し、かしこまった様子で、「ソルド・ケスさんにみなさんの活躍を教えてもらいました。この街のためにありがとうございます」と言った。クロートーが、「ねえねえ、記憶は戻ったの?」と訊くと、「エルジャの古い記憶は戻りました。そして、人間族の社会での記憶もあります。あっ、みなさん、あたしのことをエルジャって呼んでください。サラは家の名前なのです」と答えた。そういえば女王陛下はエイマス・サラだ。エルフ族には家の名前と本人の名前があるのか。

 ネイトが、「身体の具合は?」と訊くと、「この通り、元気もりもり、気分はハッピーなのです」とエルジャ・サラはガッツポーズを見せた。今までと変わらない性格のようで内心、ほっとした。

 エイマス・サラ女王陛下が無表情に、「ここでは言葉に気をつけなさい」とエルジャを咎めた。どういう意味かと考え、「ハッピー」は感情を表す言葉と気づいた。この土地では気を遣わないと会話もできない。エルジャは女王陛下に見えないように、ペロッと舌を出した。

 エイマス・サラ女王陛下が、「ここからは私が、街を守ります」と言い、冷たい目で、石や槍を投げつけるゴブリンやホブゴブリン、土塀を破壊しようと迫るトロール、そして、後方から魔法攻撃をするダークエルフ族を見据えた。この状況で、エイマス・サラ女王陛下だけで防ぎきれるのだろうか。

 不安が顔に出ていたのか、エルジャが俺に近づき、「マリシさん、母上は、エルフ族の歴史の中でも最強の女王と言われているのです」と耳打ちした。エイマス・サラ女王陛下は美しく、もの静かで、回復魔法などのサポート系魔法が得意そうに見える。最強と言われてもピンとこなかったが、その数分後には、自分の見る目のなさを思い知ることになった。

 「エルフ族はいかなる侵略行為も許しません」と、エイマス・サラ女王陛下がつぶやくと、戦場のすべての敵がたじろぎ、動きを止めた。おそらく強い思念を敵にぶつけたのだろう。

 次の瞬間、土の中から、(つるぎ)が現れ、エル・キンベの町の周りにいた敵を串刺しにした。固い鉱石で作られた剣は、薄く、鋭く、恐ろしい切れ味だった。町から広がるさざ波のように、剣がゆっくり移動し、動きの遅いトロールを細切れにした。敵陣は壊走し始めたが、途中で剣に追いつかれ、クリスタルキャニオンの中に戻れたのは、1/3にも満たなかった。

 剣の波はクリスタルキャニオンの前で止まり、逃げのびた敵がホッとしたであろう瞬間、クリスタルキャニオンの壁と地面から、無数の剣が現れ、敵を穴だらけにした。慈悲という、感情的なためらいはなかった。もしエルフ族が平和的な種族でなければ、人間族など、あっという間に征服されていただろう。戦場を死の静寂が支配した。

 エイマス・サラ女王陛下は、「終わりました。ソルド・ケスは片づけを。マリシ殿とみなさんは西の御殿へ来なさい。まもなく雨が降ります」と言った。すると、ぽつり、ぽつりと雨が降り始めた。俺たちの頭上には雨を遮る【障壁】ができていた。やがて雨脚が強くなり、辺り一帯の不浄な血を洗い流していった。


 西の御殿にエイマス・サラ女王陛下が戻っても、ここに避難していたエルフ族からは、拍手や歓声は一切、起きなかった。不気味なほどの静けさの中、俺たちは応接室に通された。

 エイマス・サラ女王陛下が、「そなたらの活躍、見事でした」と言ったが、さっきの光景を見てしまって、こちらの感情は複雑だった。侵略してきたのはダークエルフ軍だし、エイマス・サラ女王陛下が行ったのは当然の反撃なのだろうが、あまりに一方的で、圧倒的だ。

 遠慮のないクロートーが、「ねえねえ、エイマス・サラ女王陛下、さっきみたいな襲撃はよくあるんですか?」と訊くと、「数十年に一度です。ダークエルフ族は魔法を使う種族の中で、もっとも警戒すべき種族です。エルフ族に敵愾心を持ち、魔物を率いて挑んできます」と言った。「なにを目的に攻撃してくるのでしょうか?」と訊くと、「エルフ族の持つ、すべてを奪いに来ます。土地も、文化も、そして命も。その昔、エルフ族とダークエルフ族は同じ種族でした。そして(たもと)を分かったのです」と教えてくれた。ダークエルフ族を間近で見た俺は納得がいった。ダークエルフ族は感情を(あらわ)にしていたが、それ以外は、エルフ族と共通点が多かった。

 エイマス・サラ女王陛下は、「エルフ族が魔法を使えるようになった時代、種族を二分するような大きな戦争がありました。その戦争では魔法が多用され、われわれの種族は絶滅の危機に瀕しました。この経験から、エルフ族は精神修養に励み、感情よりも理性を重んじるようになりました。そして、前例のないことは行わないという、慎重な種族になりました。ところが、自由を唱える一部のエルフ族が離反しまし、それが今のダークエルフ族の祖先です」と説明した。さらに、「ダークエルフ族がこの街に来た時、自らを『西の果ての仲間』と名乗り、種族の存続のため協力して欲しいと要請しました。それを信じ、大使を派遣しました。ところが、大使を通じて、ダークエルフ族がこの街を手に入れようと準備していることがわかりました。まもなく大使は殺され、ダークエルフ族は魔物を引き連れ、この町を襲ったのです。

 私たちは大きな犠牲を払ってダークエルフ族の軍勢を撃退しました。今でも、この街を狙って、ときどき襲ってきます。エルフ族は一切の侵略行為を許しません」と説明した。

 俺はダークエルフ族を倒した時のことを思い出し、「先ほどの戦闘でダークエルフ族は死に際、なにかを言い捨てていました。ダークエルフ族の言葉は分からないのですが、ここで復唱しても良いでしょうか?」と質問すると、「許可します」と言われたので、パラゴの能力を使って、ダークエルフ族が言った言葉をそのまま復唱した。たぶんひどい内容だと思うが、あの時のダークエルフ族の、勝ち誇ったような表情が気になっていたのだ。

 女王陛下は無表情に、「古いエルフの言葉です。『貴様らはもう終わりだ。貴様らが帰る地はない』という意味です」と言った。「どういうことですか?」と訊くと、「言葉通りです。ダークエルフ族はこの地と人間族の土地とを同時に侵攻したのでしょう」と淡々と述べ、仰天した。ダークエルフ族がキングスト王国に侵攻? そうだとしたら、大変なことになる。

 エイマス・サラ女王陛下は、「ダークエルフ族は西にいます。距離を考えると、秘密裏に王都を侵攻するのは難しいでしょう。最初に別の都市を落とし、それから東へ兵を進めるのが論理的です」と言った。ネイトが小さな声で、「マリシ様、王都の西には衛星都市ミラードがあります。そこの領主はボードウォーク公。武器を買い集めていた公爵です」とささやいた。

 俺がエイマス・サラ女王陛下に、「ダークエルフ族が人間と組んで王都に侵攻する可能性はあるでしょうか?」と尋ねると、「警戒すべきでしょう。ダークエルフ族は人間族の言葉や文化をさほど時間をかけず理解します。利用できる者には甘言を弄し、味方につけるでしょう。ダークエルフ族は狡猾です」と答えた。

 俺は席を立ち、「戻らなければなりません。戻って国王陛下に脅威を伝えなければなりません」と言うと、エイマス・サラ女王陛下は無表情に、「まず王都の様子を確認してはどうですか」と言って、指先で空中に円を描いた。その円の中に光の粒が集まり、まるで空から俯瞰したような映像が見えた。

 王都キキリーの東門、南門、西門の外に、数万の軍勢が配置されていた。攻めている軍勢は、ゴブリン、ホブゴブリン、オーク、トロールだった。王都の門は閉ざされ、城壁の上では兵士が盾を並べていた。外壁の内側では、王国民たちがコロッセオと神殿に避難する列ができていた。もう侵攻が始まっていた。

 エイマス・サラ女王陛下が、「ダークエルフ族の軍勢に人間族がいます」と冷静に言い、東門の一角が拡大された。魔物に混じって、数千人の武装した人間族の部隊がいた。人間族が人間族を攻めるという状況が信じられなかった。

 エイマス・サラ女王陛下は、「王都陥落は時間の問題です。あなたたちはこの地に留まるのがいいでしょう」と勧めたが、「それはできません。王国に戻り、魔物と戦います」と答えると、ネイトとクロートーも立ち上がった。

 エイマス・サラ女王陛下は、「そなたたちが行っても、戦況は変わりません。今から王都に行くのは非論理的です」と冷ややかに言ったが、エルジャも立ち上がり、「母上、王都にはエルジャのパパとママがいます。エルジャはマリシさんたちと戻ります」と言った。居ても立っても居られないようだった。エイマス・サラ女王陛下が無表情に、「エルジャを大使に任命した以上、人間族との活動は許します」と言った。

 俺は右手を挙げ、「ダークエルフ族の魔法の前に、人間族は勝ち目がありません。エルフ族に協力をお願いできないでしょうか?」とお願いしたが、エイマス・サラ女王は表情を変えずに右手を挙げ、「できません。エルフ族には、この土地以外で他種族と共闘した前例がありません」と即答した。加勢を求めるのは虫が良すぎたか…。


 俺たちは急いで自室に戻り、荷物をまとめた。そして、「ここからの移動は、どんなに急いでも2日かかる。その間に、王都が陥落しなければいいが…」と不安を口にすると、エルジャが、「【転移】魔法で王都に行きましょう!」と言いだした。【転移】の魔法は、大賢人ジャービルの原書にも記載はあったものの、「禁術」と書かれていたことから、大賢者ジャービルの創作ではないかと疑う学者は多かった。エルジャは、「【転移】魔法は見えている場所か、よく知っている場所にしか行けません。よく知っている場所でも、そこの地形が変わっていたら危険な目に合うかもしれません。気持ちの準備はいいですか?」と言った。もちろん俺たち3人は覚悟を決めていた。

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