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剣と魔法と富豪冒険者  作者: パラケルスス
第3話 エルフ族の街
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17. クリスタルキャニオン その先にあるもの

 浸食の森からクリスタルキャニオンまでは、そう遠くないと思ったが、キンベ山脈が大きいために目測を誤っていただけだった。緩やかに上がる荒野を1時間歩き続け、ようやくクリスタルキャニオンの入り口に到着した。火を熾し、お茶を入れ、簡単な昼食をとった。

「俺だけ【リンク】から切り離してくれ」と言うと、「はい、はーいっ」という言葉が返ってきた。【リンク】から解かれた俺は、3人から離れて、クリスタルキャニオンを観察した。ちょうど人が通れるほどの隙間があり、緩い下り勾配になっていた。この峡谷を覆う鉱石は主に石英で、地面や左右の壁から剣のように結晶が突き出ていた。風化しづらい鉱石だけが残ったのだろう。雨が降れば左右の山から流れ込んだ水が地面に吸い込まれることなく、濁流となる、危ない地形だった。

 3人のところに戻り、「これからクリスタルキャニオンに入る。俺が先行し、ロープを張っていく。ロープを固定したら、弾いて合図する。1回は『来るな』、3回は『来い』だ。合図を確認したら3回、合図がよくわからなかったら2回、なにかトラブルが発生したら1回、弾いて返してくれ」と言うと、ネイトが「御意」と言い、クロートーは「了解!」と答え、フェフェは「はい!」と返事した。

 荷物からヒュージスパイダーの糸袋を取り出し、糸袋の中の白いペースト状のものを大きな岩に塗り付けた。このペーストはヒュージスパイダーが糸を作る時に出すもので、糸袋との繋がりを断つと、丈夫なロープとなって固まった。ペーストを伸ばしながら、クリスタルキャニオンを下って行くと、大きく右にカーブし、下り勾配がきつくなった。慎重に足元を確認しながら進み、ヒュージスパイダーの糸を丈夫そうな岩に貼りつけて、切断した。これでロープが出来上がった。3回弾いて合図すると、上からも3回、返事が戻ってきた。

 再び岩にペーストをつけ、勾配を下った。ブーツの靴底はトゲを踏み抜いたり、小動物に噛まれたりしないように革と金属の積層素材にしていたのだが、石英の上では滑りやすかった。勾配がきつい所は、後ろ向きになって、【吸圧】の魔法を発動し、手掌を地面に貼りつけて移動した。途中には大きな地割れがあったり、針の山のように結晶が突き出ていたり、簡単な移動ではなかったが、後続が移動しやすい場所を選んでロープを張っていった。

 ようやく峡谷を抜けたと思われる場所に着き、岩に腰掛け、3人の到着を待った。やがて俺の分の荷物も持ったクロートーを先頭に、フェフェ、ネイトの順にやってきた。「大丈夫だったか?」と声をかけると、「何度か足を滑らせましたが、【リンク】で滑落することはありませんでした」とネイトが答え、フェフェが、「落ちそうになるところを、クロートーさんに引き上げてもらいました。感謝、感謝なのです!」と言った。クロートーは、「まぁ、あたしもCランク冒険者だしね!」と得意げだった。冒険者パーティーが仲良くしてくれるのはありがたい。

「みんな、見ろよ、あれ」と言って、指さす先には、キンベ山脈の中に、ぽっかりと丸く切り抜かれたような土地があり、山に埋まるようにして町が存在していた。陽の光が射す場所を選んで(ひら)いたよう街で、その奥、つまり西側はそそり立った断崖になっていた。

「わぁー、すごい。こんなところに街があるなんて幻想的なのです。冒険ってやっぱり最高ですね!」とフェフェが感嘆の声を上げた。ここを知らないようだ。


(パラゴ、状況の解析を)

(エルフ族の街エル・キンベです。街へのアクセスはこの道につながる東門からになります)


 固有名詞が出てくるということは、パラゴは、この街の存在を知っているようだ。パラゴが知っているとしたら、パラゴの前の宿主の大賢人ジャービルが、この街に到着したということだろう。

 俺を先頭に、縦列になって坂を下っていくと、前方から人が近づいてきた。すぐにパラゴが、『エルフ族、男性、推定年齢 246歳』、『エルフ族、男性、推定年齢 202歳』と表示した。

 本物のエルフ族を見るのは初めてだったが、古文書で読んだとおり、背が高く、耳が尖り、整った顔立ちだった。意外だったのは髪の毛の色が、金髪と黒髪だったことだ。エルフ族にもいろいろな容姿があるらしい。

 まもなく、ゆったりとした衣服に身をまとい、腰のベルトに帯刀し、左手に盾を装備したエルフ族が対峙した。静かに右手をあげ、無表情になにかしゃべった。

(パラゴ、エルフ族の言葉を翻訳し、俺がしゃべる言葉をエルフ族が理解できる言葉に変換しろ)と命じると、「…ではない。ここから先は我らの土地だ。お引き取り願いたい」とエルフ族が言っていた。聞き取れたのは途中からだが、歓迎されていなのはよくわかった。

「こちらに敵意はありません。迷い込んだのではなく、エルフ族に関りがある女性を受け渡すために連れてきました」と、エルフ語で言った。衛兵たちの顔にはなんの表情も浮かばなかった。しかし、言葉は通じたらしく、正面のエルフ族の視線が、フェフェに向き、仲間とぼそぼそと相談していた。そして、「お前たちの目的を理解した。われわれでは決められぬゆえ、ここでしばらく待ってもらう」と言った。

 一人の衛兵が踵を返して街に向かって走り、残る一人の衛兵は無表情で、俺たちの前から動かなかった。コミュニケーションをとる気はないらしい。

 クロートーが、「ねえねえ、マリシ、なんて言ったのよ?」と訊いてきたので、「俺たちを街に通すかどうか、一人が確認に戻っている」と教えると、3人が変な顔をした。それを見て自分がエルフ族の言葉を話していると気づいた。まったくパラゴは気が利かない。

(パラゴ、エルフ族と話すときだけエルフ語に変換し、人間族と話すときは変換しなくていい)と、細かく指示し、3人に言い直すと、普通に通じた。

ネイトが、「エルフ族の言葉を自由に話すとは、さすがです」と感心したが、パラゴの存在は隠しているので、「ここにくる前に大量の古文書を読んだからなぁ」と誤魔化した。

 しばらく待たされ、戻ってきたエルフの衛兵が、右手を挙げ、「お前たちを街に入れる許可が出た。女王陛下と上級院の方々が拝謁するとのことだ」と言うので、「感謝する」と答えた。

 今の会話をネイトとクロートーとフェフェに伝え、「これからエルフ族の女王陛下に拝謁できることになった。交渉は俺がする」と言うと、3人が頷いた。俺たち4人を衛兵2人が挟むような形で歩いた。

 エルフ族の街エル・キンべは、街の周り囲む土塀の下に、幅2mほどの堀があり、山からの湧水が流れていた。堀の上に架けられた橋をわたり、東門をくぐると、そこには白い土壁に三角屋根、そして木の扉という、統一されたデザインの平屋が並び、真っ白で平坦な道路でつながっていた。人間族の街と違うのは、住人の姿がないことだ。

 街の中央には広場があり、その広場を抜けると西側の切り立った断崖の下には、白い柱に支えられた高い天井の、神殿のような建物があった。

 建物に入ると、数人のエルフ族が笑顔一つ見せずにこちらを見つめていた。俺の後ろを歩く、クロートーが、「なんか歓迎されてないわよね」と言うので、「いいから黙っていろ」と小声で咎めた。

 通された奥の広間には、7人のエルフ族が横並びで立っていた。真ん中の女性は、アイボリー色のロングドレスを着て、青い髪に銀色のティアラを付けていた。一目で女王陛下とわかった。陶器でできているかのようなツルっとした肌に、端正な顔立ち、そして尖った耳をしていて、表情からは好意も敵意も読み取れなかった。


『エルフ女性。エイマス・サラ女王陛下。推定308歳』


 またしても固有名詞が出てくるあたり、パラゴの知る人物のようだ。

 エイマス・サラ女王陛下が右手を挙げ、「エルフ族の代表を務めるエイマス・サラです。そして、ここに並ぶのは上級院の者たちです。この地に人間族が来るのは132年ぶりになります。そなたたちの名を聞かせなさい」とエルフ語で言った。

 こちらもエルフ語で、「僕はマリシ、こちらがネイト、こちらがクロートー、そしてこちらは、われわれはフェフェと呼んでいます」と言うと、白いローブを着た上級院の男が右手を挙げ、「エルフ族の言葉を理解できるのは貴公だけかな」と質問し、「はい」と答えた。

 エイマス・サラ女王陛下がクロートーをじっと見た後、「純粋な人間は、女性一人のようです。ここにきた用件を聞きましょう」と言った。フェフェのことはともかく、俺とパラゴのことやクロートーのことがわかったのだろうか。驚きを顔に出さないように気をつけながら、「フェフェはエルフ族と関りがある者です。人間族の社会で生きていくことは難しく、連れてきました」と言うと、「人間種の社会はエルフ族の血が混ざる者を受け入れないということですか?」と、エイマス・サラ女王陛下は、人間族ではなく、人間種と呼んだ。

「違います。フェフェは人間族の国王陛下と王妃殿下の養女として大事に育てられました。その養父母が、エルフ族の元で届けるように僕に命じました。人間族の社会から排除しようというのではなく、長寿の種族が短命な種族の社会にいるのは不幸になると考えたのです。別れが辛くなるので、フェフェにはエルフ族の社会に連れていくと伝えていません」と言うと、上級院の、さっき発言したのと別のメンバーが右手を挙げ、「非論理的である。当事者がここに住むことを受け入れない場合は、どうしようと考えておる」と言うので、「僕が責任を持って説得します。みなさん方は同胞のフェフェが戻って、嬉しくないのでしょうか?」と質問し帰すと、エイマス・サラ女王陛下が、「マリシ殿はエルフ族の言葉をよく知るが、エルフ族の文化について知らぬようです。われわれエルフ族は感情を持ちません」と言った。感情を持たない? どういう意味だろう?

 女王陛下に代わって、別の上級員のメンバーが右手を挙げ、「思考に『喜怒哀楽』を入れないということである。人間種のように『肯定』『否定』の表明にまで感情を含めるのは非論理的である」と言った。

 これまで調べたどんな古文書にも、エルフ族は感情を出さないとはなかった。ドワーフ族が語ったという伝聞に、エルフ族は高慢で、人を見下しているという、記録はあったが、無感情で話をするために、そういう印象を与えたのだろうか?

「失礼しました。しかし、異なる文化には、異なる価値観があります。それを理解するのが異種族との交流の第一歩ではないでしょうか?」と冷静に言うと、別の上級員のメンバーが右手を挙げ、「論理的な反論だ。私は支持する」と言い、他の上級員メンバーも4人が右手を挙げた。すると、「うむ、失言だ。許されよ」と、発言したエルフが言った。だんだんわからなくなってきた。謝罪は感情ではないようだ。

 エイマス・サラ女王陛下が右手を挙げ、「よろしい。貴殿らの目的は理解しました。これから上級院と協議に入ります。貴殿らには別室を用意するので、フェフェと申す者に事情を説明するのが良いでしょう」と(おごそ)かに言った。そして、女王陛下と上級院メンバーが退室した。

 俺たちは、テーブルに椅子4脚、そして簡易なベッドが4つ、洗面所やトイレのある客室に案内され。外から鍵をかけられた。そこで意を決し、「今から、ここに来た目的を話す。これはフェフェに関わることだが、みなにも話していいか?」と、何も知らないフェフェに訊くのはフェアでないと思ったが、フェフェは頷いてくれた。

 それで、みんなに、6年前、冒険者だった国王陛下と王妃殿下が、浸食の森の近くでフェフェを見つけたこと、その時、フェフェは記憶も言葉も失っていたこと、フェフェが人間と違うこと、そして、国王陛下と王妃殿下が、フェフェをエルフ族の社会に連れて行って欲しいと依頼したことを説明した。

 フェフェは初めて聞く話に、泣きそうな顔をし、「パパとママはフェフェの面倒を見きれないと思ったのでしょうか」と訊いてきたので、「それは違う。長寿の種族が短命な種族の社会にいるのは不幸になると、ナイキ国王陛下とイリス王妃殿下は考えたんだ。2人ともフェフェと別れるのが辛く、王妃殿下は泣いていた。国王陛下からフェフェに宛てた手紙を預かっている」と言って、国王陛下にもらった手紙をフェフェに渡した。フェフェは、「一人で読んでも良いですか」と言うので、俺たちは離れた。狭い部屋だったので、フェフェのすすり泣く声が聞こえ、重苦しい時間が過ぎた。

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