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剣と魔法と富豪冒険者  作者: パラケルスス
第3話 エルフ族の街
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16-1. 有能な魔術師の条件

 1週間後、全員の装備が用意された。ミスリル繊維で編まれた服の内側に、環境維持と衝撃吸収のためのゲル素材が塗り込まれた通称『下着』を身に着け、その上に、長袖長ズボンの『重軽装』シリーズを着た。ちょっと厚手の衣服ぐらいだが、鉄製の装具と同程度の強度があり、熱や酸にも強いとのことだった。立体的に縫い合わせるなど、仕立屋シャルルの縫製技術で、強度が増したそうだ。首回りも同じ素材の布で覆うのは、防寒対策というより、服の間に潜り込もうとする魔蟲や魔獣への対策だった。

 フェフェに、「今回の仕事ではこの杖を使ってくれ」と杖を渡した。素材は、マナを流しやすいマナワラの木で、先端に拳ほどの大きさの黄色い宝石が付いていた。マナワラの木はマナを養分として吸い上げる魔植物で、俺のラボではこの植物の実からマナを抽出し、動力カートリッジを作っていた。先端の宝石は、猫目石の一種で、石の中央を二つに分けるように鮮明な光の筋が出ていた。

「えーっ、いただくわけにはいきません。今の杖で大丈夫なのです」とフェフェは遠慮したが、「今の杖じゃ、お前のマナに耐え切れない。大きな魔法を使ったら、杖が爆発するかも知れない」と教えると、「そ、そうなのですか?」と怯えた顔をした。

 脅したわけでない。杖にはマナを集中させる機能があるが、杖に流すマナの量が多ければ、耐えられずに壊れてしまうのだ。

「これまで大きな魔法を、連続して使うことなんてなかっただろう? マナの量が多い魔術師が安物の杖を使うのは危ないんだ。さしあたりこれを使っておけ。おやじのコレクションの一つだ。デザインは古臭いが、いい杖だぞ」と言うと、フェフェは納得し、「あ、ありがとうございます、マリシさん!」と頭を下げた。そして、杖をじっくりと見て、「す、すごいです」と喜んだ。「ああ、国宝級だと思う。このサイズの猫目石で、これほどくっきりしたものは見たことがない。おやじはコレクターだったからなぁ」と言い、「俺は杖を使わないけれど、おやじは良い杖との出会えれば一生、使えるって言っていた。しっくりくるなら長く使ってくれ」と言うと、「ありがとうございます! 使ってみます!」とフェフェがガッツポーズをとった。


 翌朝、クリスタルキャニオンを目指し、ゴーレム馬車2台で衛星都市ザークを出発した。Cランク冒険者2人を同乗させるのは危ないので、俺が運転するゴーレム馬車にクロートーが乗り、フェフェが運転するゴーレム馬車にネイトが乗ることになった。

 クリスタルキャニオンは王都キキリーの北西の、キンベ山脈の間にある峡谷で、その途中には、浸食の森といわれる大きな森があった。浸食の森は、拡大を続けていたため、人々は旧王都を捨てて南東に移動し、今の王都が出来たのだ。今、どのくらい広がっているのかわからなかった。

 衛星都市ザークから直接移動できる道はなく、一度、西の王都に向かい、そこから北上するルートをとった。ゴーレム馬車は、馬を休息させる必要がなく、また通常の馬車の3、4倍までスピードが出るように調整されていたため、王都近くまで3時間、そこから2時間で目的地に着く予定だった。幌馬車に乗るクロートーに、後ろのゴーレム馬車が遅れるようなら教えるように指示したが、フェフェの運転は危なげなく、遅れることなかった。何度目かの休憩で、ネイトが矢で鳥を落とし、夕食のおかずが増えた。フェフェは「こんなに楽しいとは思いませんでしたぁ!」と喜んでいたが、今回の依頼内容を思い出すと胸が痛んだ。


 浸食の森の辺縁に辿り着くと背丈ほどもある草に阻まれ、ゴーレム馬が進めなくなった。ゴーレム馬車を停めて後ろの馬車に行き、「これだと馬車が進めないから魔法で道を作れないか?」と訊くと、「やってみます。どちらの方向に進むのですか?」と訊くので、パラゴが示す浸食の森の方向を指さした。「この方向に草原を突き切ると、浸食の森にたどり着くはずだ」と言うと、「わっかりましたーぁ」という調子っぱずれな返事に続いて、杖を向けた方向の植物がみるみる()えていった。ゴーレム馬車が通れるほどの幅に植物が干乾び、森までの道ができた。フェフェの魔法がどの程度のものか試そうと思って頼んだのだが、こんなに簡単に発動するとは思わなかった。

「どうやったんだ?」と訊くと、「見ての通りです、水分取り出してからからにして、分解しました。火事になったら大変ですから火は使いませんでした」と言う。以前、おやじから、有能な魔術師は、魔法の完成が早く、魔法の組み合わせがうまいと教わったが、フェフェはどちらも当てはまるようだ。

「詠唱魔法なのか、非詠唱魔法かもわからなかった。どうやって発動した?」と訊くと、「えーっと、詠唱魔法の一種なのです」と教えてくれたが、それでも理解できず、「ぜんぜんわからなかった。どうやったんだ?」と、しつこく訊くと、「『わかりました』って言ったときなのです」と言った。あの調子っぱずれの声に載せて魔法を発動していたのか。

 驚いていると、「声を出さない詠唱魔法もできます。マリシさんは無詠唱魔法派ですよね?」と言うが、そんな流派はない。手印を組んで魔法を発動するのは、おやじにおそわったものだ。

「声を出さないって、無詠唱だろう?」と訊くと、「正確には無詠唱ではありません。呼吸に載せるのです。すぐに発動できまッス」と言い、杖に埋め込まれた猫目石から光の球が出た。最後の「ッス」という擦過音で魔法を完成させたらしい。イリス王妃殿下が言っていた「呼吸するように詠唱する」とはこのことか。

 フェフェが笑顔になり、「この杖、すごいのです。なんだか絶好調で魔法を発動できます」と喜んだ。「フェフェが魔術師として優れているのはわかった。でも、自分の判断で魔法を使うのは、緊急時だけにしてくれ。思わぬ事故に巻き込まれることがあるから」と言うと、「はい!」と元気よく答えた。


 御者台に戻り、ゴーレム馬車を走らせた。ここから見る浸食の森は、大木が塊のようになり、鬱蒼(うっそう)としていた。クリスタルキャニオンに行くには、この森を抜ける道しかない。

 浸食の森の前で馬車を停め、ここからは徒歩での移動になった。腰に帯刀し、背中に荷物を背負った。ネイトは肩から弓をかけ、腰に短剣と矢筒を付け、荷物を背負った。クロートーは誰よりも重い荷物を背負い、ラストニア合金でできたアトロポスの棒を手にしていた。フェフェは華奢で、パワーにもスタミナにも不安があったので、荷物は少なめにした。どの冒険者パーティーでも、魔術師はそんなものだ。

「森に入る準備はいいな? 俺が先頭、クロートーが二番手、フェフェが三番手、最後はネイトで進もう。変わったことがあれば声を出して教えてくれ。それから、森の中は方向感覚がなくなるから、隊列を崩さないように。騙されて他の魔物について行かないように」と注意すると、「そんなことあるの?」とクロートーがぎょっとした顔で訊いた。「森の中には人間そっくりに化ける魔獣だっている。気づいたらクロートーだけいなかったり、クロートーの偽物にすり替わっていたり…」とちょっと大袈裟に言うと、「こわっ!」と言った。

「ちょっと、いいですか?」とフェフェが手を挙げ、「4人を繋いでおく魔法があります。【リンク】です。互いに離れないようにできます」と言うので、「絡まったり、動けなくなったり、行動は制限されないか?」と訊くと、「大丈夫なのです。ちょっとやってみましょうか?」と言うので、「やってくれ」と言い、変化を待った。みなで黙っていると、フェフェが「試してみないのですか?」と言い、クロートーが、「もう終わっちゃったの?」と言い、ネイトも魔法の発動の早さに驚いた顔をした。フェフェは、「4人のうち、一番近い人と5mで繋いじゃっています」と言うので、試しにみんなから離れてみると、5mぐらい歩いたところで、身体がぐっと引っ張られた。たしかに繋がっている。

 クロートーが、「ねえ、フェフェ。トイレの時どうするのよ。みんなで5mの距離に集まるわけ?」と言いだした。「えーっと、そのときは、【リンク】を切ることも、もっと距離を延ばすこともできるのです。それにきちんと簡易トイレ作りますよ」と言うと、「良かった。いくらフィアンセでも、マリシと一緒にトイレに行くのはちょっとねー」と言った。クロートーよ、そんな例外的なことを、確認しておく必要があるのか?

 浸食の森の中は、大木で日光が遮られ、暗く、じめじめしていた。俺の太ももほどもある根がところどころで地面からむき出しになっていて、平坦なところはほとんどなく歩きづらかった。この悪路をクロートーは余裕綽々(しゃくしゃく)で歩き、ネイトは身体の負担にならないように姿勢良く、同じペースで歩いていた。フェフェは目に見えて疲れていた。それほどの距離を移動したわけではないが、街の中を歩くのとは違うのだ。

「ここで休憩しよう。30分休む」とみんなに声をかけると、ほっとしたようにフェフェが座り込んだ。パラゴに探らせると、ネイトは80%、クロートーは100%の体力が残っていたが、フェフェの体力はほとんどなかった。好奇心旺盛なクロートーが、「こういうところにも危険な魔蟲とか魔獣とかいるの?」と、訊いてきたので、「ああ、危ないのはいる。小さいと思って油断すると毒を持っているとかな」と教えてやると、「ふーん。それにしても植物だらけで不気味よね」と言いながら、周りを見渡した。ネイト以外は、もうとっくに方角が分からなくなっているだろう。

「魔植物の中には、人間や動物を食べるのもいるぞ。身体を溶かして、その養分を吸い上げる食肉植物だ」と言うと、「まじ? こわ!」と言ったが、あまり怖がっているようではなかった。

 15分間、休んでもフェフェの体力はまだ回復していなかった。「よし。そろそろ出発だ。クロートー、この先、フェフェを背負って移動してくれ」と言うと、クロートーは、「了解!」とビシっと敬礼をした。フェフェは無理に立ち上がり、「大丈夫なのです! クロートーさんに背負ってもらわなくても行けるのです」と抗議したが、ネイトが、「クロートー殿の体力とパワーは底なしだ。フェフェ殿の魔法を生かせるときは必ずある。今は任せた方がいい」と諭し、フェフェはしぶしぶ承諾した。クロートーは背負子(しょいこ)から荷物を降ろして、(わく)だけにし、そこにフェフェを座らせると、荷物を身体の前に持ち、苦も無く立ち上がった。モデル体型からは想像できない怪力だ。クロートーに背負われたフェフェは、最後尾のネイトと向き合う形になり、「すみません。虚弱で」と恥ずかしそうに顔を伏せた。

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