15.新メンバーを迎えて
翌朝10時ごろ、家の前に馬車が止まる音が聞こえ、「みっなさーん、おっはようございまーす」と、元気の良い声が響いた。玄関のドアを開けると喜色満面のフェフェが立っていた。クロートーが驚いた顔で、「フェフェじゃない! お別れに来てくれたの?」と言うと、「ついにパパを説き伏せましたぁ! マリシさんのところに行って良いって!」と喜んでいる。「えーっ? じゃあ、フェフェはあたしとマリシの冒険者パーティーに入るの?」とクロートーは言うが、俺の冒険者パーティーのメンバーはネイトだけだ。
フェフェは笑顔になり、「そうなのです、クロートーさん! 同じCランク冒険者として、フェフェは、クロートーさんにまっけないぞぉー」と言い、クロートーも「クロも、まっけないぞー」と指差しあった。盛り上がる2人に、冷や水をかけたのはネイトだ。
「フェフェ殿、クロートー殿、冒険者パーティーへの加入を許可するかどうかはリーダーのマリシ様が決めることだ」と言い、フェフェは、ハッとした顔で、「はい、そうでした。今日はフェフェを冒険者パーティーに入れていただこうと思って、マリシさんにお願いに参りました。精いっぱい、頑張ります。どうか、フェフェを冒険者パーティーに入れてください! よろしくお願いします」と言って頭を下げた。
もう決まってはいたのだが、「国王陛下と王妃殿下はなんと言っていた?」と訊くと、「パパはマリシさんの冒険者パーティーなら許す、って。ママは、思う存分、やりなさい、って言っていました」と言った。事情を知る俺は心苦しくなった。
ネイトが打ち合わせ通りに、「冒険者パーティーに魔術師は必要ゆえ、フェフェ殿の加入を認めることを進言いたします」と言うので、迷ったふりをして、「そうだなぁー。明日の朝には衛星都市ザークに戻る予定だが、次の仕事はクリスタルキャニオンの探索だ。Bランクの依頼なので、初心者にはちょっときつい。それでも一緒に行くか?」とフェフェに訊くと、うれしそうな顔で、「はい!」と答えた。
「へへへ。マリシ、これであたしも先輩かしら」とニヤニヤするクロートーに、ネイトが、「なにを言っている? クロートー殿は、我々の冒険者パーティーにいれていない」と言いだした。それから、しばらく無意味な喧嘩が続いたが、フェフェが行くなら、クロートーも行くということで決着した。
衛星都市ザークへの出発の朝、フェフェはカバン一つでやってきた。ポニーテールにワンピースで、どうもアイドルを抜け切れていない感じだが、杖を持っているところだけは魔術師っぽかった。馬車の前でぺこりと頭を下げ、「みなさーん、よろしくお願いしまーす!」と言うと、クロートーが真似して、「あたしも、お願いしまーす!」と言った。
「クロートー、いちいち真似するなよ。うっとうしい」と言うと、クロートーは腰に手を当て、「いいじゃない。あたしって、周りに同世代の同性がいないから、喋り方が大人びていると思うのよねー」と言った。そんなことないと思うが…。ネイトが馬車に荷物を詰め込みながら、「私とクロートー殿は一歳しか違わない」とつぶやくと、地獄耳のクロートーには聞こえたようで、「ネイト先輩は例外よ。そんな10代いないから。話し方は、いいとこ20代後半よね」と喧嘩を売るようなことを言った。ネイトがむっとした顔でクロートーを睨みつけた。
フェフェは不思議そうに、「マリシさん、この二人って、喧嘩しているのですか? 冗談を言っているのですか?」と囁くので、「さあな。そのうち慣れるさ」と教えてやった。
王都キキリーと衛星都市ザークは幌馬車で約8時間の距離だ。俺とメーティス先生、ネイト、クロートー、そしてフェフェが幌馬車に乗り込み、来た時より窮屈な感じがした。1人だけ男性の俺はなおさらだ。
メーティス先生が、次の仕事がなにか訊いてきたので、浸食の森を移動し、クリスタルキャニオンを探索すると説明した。すると、「マリシくん、なんか隠してない?」と言いだした。「別に隠すようなことはありませんが?」と誤魔化すと、「うーん、今回は、なんのためにクリスタルキャニオンに行くのか、教えてくれないの?」と言う。そう言えば、クリスタルキャニオンを探索する目的を決めていなかった。「あっ、そうでした。クリスタルキャニオンにお宝があると言う古文書を見つけて、それを確認に行くんです」と言い繕うと、「ふーん。じゃあ、依頼じゃなくて趣味で行くのねー。ふーん」とメーティス先生が怪しんでいた。今度からメーティス先生に隠し事をするときは黙秘しよう。
馬車は順調に進み、日が落ちたころ、遠くに衛星都市ザークの明かりが見えた。おそらくこんなに長い移動を経験したことがないフェフェは、疲れて眠っていた。衛星都市ザークの西門を抜け、ようやく俺の家に戻ると、爺たちが待ち構えていた。
「遅くなった。変わったことは?」と訊くと、「留守中、変わりありません」と言い、幌馬車の中を見て、ぼっちゃま、そちらのお嬢様は?」とフェフェを見た。「ああ、ナイキ兄ちゃんとイリス姉ちゃんの養女のフェフェだ。俺の冒険者パーティーに入った。客室を使わせてやってくれ」と言うと、特に驚いた様子もなく、「承知しました」と一礼し、去っていった。移動の疲れもあったので、その夜は簡単に夕食を済ませ、そのまま解散した。
翌日、俺とネイトは2人で打ち合わせをした。資料の束を取り出し、「記録を見ると過去に6回、王国はクリスタルキャニオンの探索を行っているようだ。だが、いずれも失敗に終わっている。第5次探索隊はクリスタルキャニオンの奥深くまで進んだらしいが、途中で豪雨に襲われ、山から流れ込んだ濁流で半数が行方不明になった。それで、当時の行方不明者リストを調べて面白いことがわかったぞ。その一人にジャービルという名があった」と見せると、「ジャービル? 大賢人ジャービルですか?」とネイトが驚いた顔をした。「たぶん、そうだ。第5次探索隊が派遣されたのは、今から120年ぐらい前だ。大賢人ジャービルについては後世に作られた怪しい逸話も多いが、『真説魔術体系書』が書かれたのは100年ぐらい前だし、同じ人物だと思う。この辺りでエルフ族を探すなら、クリスタルキャニオンが一番怪しいと思うんだ」と言うと、ネイトが頷いた。
「他の探索隊が失敗したのはどう言う理由ですか?」と訊くので、「当時は、まだ魔法を使えず、人間族は弱かったからな。資料によると、第1次隊、第2次隊は森の近くで魔蟲に襲われ壊滅、第3次隊は霧でクリスタルキャニオンを発見できず、第4次隊、第6次隊は森で迷って帰ってきたそうだ。その後、今の王都に遷り、侵食の森やクリスタルキャニオンへの調査は終わりになったようだ」と説明した。人々が旧王都を捨てたのは、浸食の森が東に向かって広がったことが原因らしい。
「浸食の森には、しばらく人が入っていないし、クリスタルキャニオンは前人未踏の地だ。かなり厳しい仕事だが、昔よりも装備は進化したし、魔法も使える。なんとかなるだろう。だいたい5日くらいの行程で考えよう。先生と装備の相談してくる。ネイトはポニーに王都でのことを伝えてくれ」と言うと、ネイトは「御意」と頷いた。
ラボの奥にある実験室に行くと、メーティス先生とクロートー、そしてフェフェが実験していた。メーティス先生は、俺を見るなり、「あっ、マリシくん! 見て、見て。ライバル出現よ。フェフェちゃん、超上手に乗りこなすのよ」と言った。見ると、フェフェがゴーレム馬の手綱にマナを流し、真剣な顔でゴーレム馬車を運転していた。加速、停止、減速、方向転回など、一通りの操縦ができるようだ。イリス王妃殿下も言っていたが、フェフェの学習能力は相当に高いらしい。いつまで経っても「うぉりゃー」とか「どりゃー」とか叫び続けるCランク冒険者とは大違いだ。
クロートーが頬杖をつきながら、「ねえねえ、あたしもああいう乗り物に乗れないの?」と不満げに言うと、メーティス先生が、「ざんねーん。クロートーちゃんの身体はマナが空っぽだから無理よー」と、現実を突き付けた。クロートーは「ぶー」とむくれ、羨ましそうにフェフェを見ていた。
「先生、ゴーレム馬をもう1台、準備できますか? 僕とフェフェでゴーレム馬車を使えれば、移動が楽になります」と言うと、「それなら、古いのはマリシくんが使って、新しいのをフェフェちゃん用にチューニングしておくわ」と言うので、「お願いします」と頼んだ。
メーティス先生に、過去の探索隊がクリスタルキャニオンを攻略できなかった理由を話し、アーマーについて打ち合わせした。今の装備なら、魔蟲も雨も、なんとかなるだろうとのことだった。
一通り打ち合わせが終わったところで、「それで古文書はどうなったのよ?」と言われ、何のことかわからず、「んっ?」という顔をすると、「あれれれー? お宝のことを書いた古文書を見つけたって言ってなかったかしら?」と言ってきた。慌てて、「それも調べています」と言うと、「まぁ、そういう言うことにしておくけど、困ったら必ず相談してよね。あたしは一緒に行けないけれど、ずっーとマリシくんの味方なんだから」と言って、メーティス先生が俺の腕を肘で突いた。




